隠れた名作西部劇


『続・男と女』(1977年)

原題Another Man Another Chance

監督・脚本:クロード・ルル−シュ、撮影:ジャック・ルフランソワ&スタンリー・コルテス、音楽:フランシス・レイ

キャスト:ジェームズ・カーン、ジュヌビエーブ・ビュジョルド、フランシス・ユステール、ジェニファー・ウォーレン、スーザン・ティレル

 

1870年代のアメリカ西部。留守中に妻(ジェニファー・ウォーレン)を殺された獣医のデイビット(ジェームズ・カーン)が、息子を預けている寄宿学校で、同じように娘を預けているジャンヌ(ジュヌビエーヌ・ビュジョルド)と出会う。ジャンヌも、写真家の夫(フランシス・ユステール)とフランスから移住してきて、夫を無法者に殺されていた。二人はやがて愛し合うようになるが、妻を殺した一味の一人を見つけたデイビットは復讐を決意して一味を追う……

『男と女』の設定をそっくり西部劇に置き換えたラブ・ロマンスです。

二人をとりまく風景と、それが醸す素朴な詩情は前作より優れていると思いますね。それと、移民の国アメリカを観察するルルーシュの史家としての姿勢にも驚かされました。“フランス移民の視点でとらえた西部ロマン”といっていいでしょう。

それに、ルルーシュ演出を支える俳優陣がいいんだなあ。主演が、演技的に一番円熟している頃のジェームズ・カーンとジュヌビエーヌ・ビュジョルドですからね。

二人の傍役もバツグンに素晴らしい。一人は寄宿学校を経営しているスーザン・ティレル。

娼婦だった為に子どもの産めない身体となり、子どもを育てる職業に生きがいを感じている女性です。これまでの生活経験から、ビリー・ザ・キッドやサム・バスといった無法者の話を教材として使ったり、子供たちに教える文字が“トリガー”などの拳銃用語というのが嬉しくなります。

ちゃんと拳銃の射ち方も教えています。息子に拳銃の射ち方を教えるカーンが、息子の腕前を見て驚き、「誰に習った?」と尋ねるシーンには、思わず口許が緩みましたね。

そして、もう一人は、駅馬車の馭者役のリチャード・ファンズワース。

ビュジョルドの写真館で写真を撮ってもらうのですが、スタジオには背景画として、ニューオリンズ、パリ、ウエストの3種類が用意されています。客が来るたびにビュジョルドは、背景をどれにするか尋ねるのですが、その答えはいつもパリでした。ところが、ファンズワースは間髪を入れずに「ウエスト」と応えるんですよ。西部の男としての誇りが、この短いシーンに凝縮された見事な演技でした。

ルルーシュ作品の多くは、フランシス・レイの音楽に引張られるところがあるのですが、この作品ではレイの主題曲を必要としておらず(人生のテーマ曲として、ベートーベンの“運命”を使用)、新鮮な感じがしましたね。

西部劇ファンはもとより、映画ファンにもっと再評価してもらいたい作品です。

 

『必殺の一弾』(1956年)

原題The Fastest Gun Alive

監督:ラッセル・ラウス、原作:フランク・D・ギルロイ、脚色:フランク・D・ギルロイ&ラッセル・ラウス、撮影:ジョージ・J・フォルシー、音楽:アンドレ・プレバン

キャスト:グレン・フォード、ジーン・クレイン、ブロドリック・クロフォード、ジョン・デナー、ノア・ビアリー、ラス・タンブリン

 

シルバー・ラピッドの町で当代随一と云われた早射ちファロンが無法者のビニー・ハロルド(ブロドリック・クロフォード)に射ち殺される。この話はクロスクリークの町でも話題になり、酒場では誰が西部で一番早射ちかと、話がはずむ。子供の頃から早射ちの練習をしており、誰にも負けないと自負していた雑貨屋のジョージ・テンプル(グレン・フォード)は、我慢できなくなり腕前を披露してしまう。早射ちのことがわかると、自分を狙ってやって来る早射ち自慢に町の平和が乱されるので、ジョージは町を立ち去ろうとする。過去にもこのようなことがあり、その度に町を逃げ出す人生に嫌気のさした妻のドーラ(ジーン・クレイン)の言葉と町民の提案を信じてジョージは町に残る決心をするが、そこへ銀行を襲撃して追われているビニーが町にやって来て……

砂漠を行く三人の無法者(ブロドリック・クロフォード、ジョン・デナー、ノア・ビアリー)の鳥瞰映像のタイトルバックに始まり、三人が着いた町での決闘シーンと、最初の数分を観ただけで西部劇の面白さを感じさせます。そして、一転して早射ちの練習をしているグレン・フォード。銃杷には六つの刻みがつけられており、この男の過去が尋常でないことを一目でわからせる心憎い演出です。グレンとクロフォードの決闘でラストになるのは予想がつくのですが、人物設定に捻りがきいているので、最後まで予想のつかない展開なんですよ。

町にやって来たクロフォードと戦うはめになったグレンが、実は拳銃は父親のもので実戦経験のない臆病な早射ちガンマンだとわかるドンデン返し。自分に挑戦してくる相手を殺したくなくて、町を去っていたのでなく、決闘が怖くて逃げ出していたんですね。仕方なく実戦豊富な無法者との戦うはめとなった決闘の結果は、墓石二つ。1970年代の西部劇だったら重く暗くしたでしょうが、そこは50年代の西部劇ですから、やっぱりと思わせて、ラストは爽やかにでした。

早射ち名人の話を聞いてイライラしてきて、拳銃をつけていなくても無意識に拳銃に手をかけるような動作を見せるグレン・フォードのノイローゼ演技もさることながら、早射ちナンバーワンにこだわるブロドリック・クロフォードの執念の演技も光っています。この二人の心理が、早射ちの果たし合いという単純なテーマを深いものにしていま〜す。

蛇足ですが、ラス・タンブリンの出演は、踊りを見せただけで存在感はありません。

 

 

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