“無頼”シリーズ


70年安保にむけて学生運動が盛んになっていく1968年〜69年にかけて、学生運動に共鳴しながらも、セクトに属して活動することに疑念をもっていた私のような学生に人気があったのが、渡哲也が主演した“無頼”シリーズでした。

主人公は、組織に属さない一匹狼のヤクザで、組同士の抗争に背を向けているアウトサイダーです。無情に死んでいった者への鎮魂のために、怒りのドスを抜かざるを得なくなる悲しみに共感したんですよ。

 内容は、自分を慕う若いヤクザが組織のために殺され、恩義のある先輩ヤクザも殺され、恋人に黙って別れを告げ、大組織に殴り込むという、毎度同じパターンの繰り返しなんですが、同時期の東映ヤクザ映画と違って、ヤクザ世界の卑劣さ、非情さをあますところなく描いていました。

 渡哲也も、孤独の世界で生きてきた青年の悲しみと、狂暴さを見事に演じていましたよ。

♪〜ヤクザの胸は何故に寂しい

       流浪の果ての虫ケラに 心を許すダチもなく 黒ドスひとつ握りしめ

          男が咲かす死に花は 花なら赤い彼岸花

俺しか知らぬ無頼の心

        ドスで刻んだお前の名 虚ろな胸の片隅に 想いを今も抱きながら

          夕陽の果てに燃えあがる 明日と呼べぬ日がいつかくる〜

渡哲也が歌う「無頼・人斬り五郎」(第4作目以降で使われる主題歌)に、ジ〜ンとくるので〜す。

 

無頼より大幹部』(1968年・日活/監督:舛田利雄)

一匹狼のヤクザ・藤川五郎(渡哲也)は、世話になった水原(水島道太郎)を守るため、上野組の杉山(待田京介)を刺して刑務所に入る。杉山は少年院で世話になった兄貴分だったが、ヤクザ渡世の義理から、仕方ないことだった。3年後、出所した五郎は、上野組のチンピラに絡まれている雪子(松原智恵子)を助ける。雪子は、親の決めた縁談を嫌って故郷を飛び出し、東京に来たのだった。雪子は五郎から離れようとせず、二人は上野組におされて落ち目となっている水原組のやっかいになる。

水原組の若いヤクザ・猛夫(浜田光夫)は、五郎にあこがれるが、五郎は猛夫に堅気になるように勧める。上野組と水原組は衝突寸前となるが、形勢不利の水原組が、上野組から恨まれている五郎と縁を切ることで上野組と手打ちをおこなう。その頃、杉山が刑務所から出てくる。上野組は杉山に何の償いもせず、愛人の夢子(松尾嘉代)は遊郭で身を売っていた。ヤクザ稼業に嫌気がさした五郎は、杉山の故郷で杉山と一緒に堅気の仕事をすることを決意する。しかし、杉山が殺され、堅気になろうとしていた猛夫までが上野組に殺されたことから、夢子と雪子を杉山の故郷へ送り出した後、単身上野組に殴り込み……

体を売っている母の姿を小雪舞う窓越しに眺め、その母が死に、幼い妹が病気になっても医者に診せることもできず死なせてしまった少年時代が冒頭で語られ、ドスだけを信じて行動する主人公は、それまでのヤクザ・ヒーローにないキャラクターでした。

ラストの殴り込みで見せる、血みどろになりながら、体ごとぶつかっていく狂気のエネルギーに圧倒されます。そして、これがシリーズの売りになるんですね。

 

大幹部・無頼』(1968年・日活/監督:小沢啓一)

夢子と雪子が暮す弘前にやってきた五郎は、地元のヤクザに絡まれている踊り子の菊絵(芦川いづみ)を助ける。3ヶ月振りに逢った雪子は、病身の夢子を庇って働いていた。五郎も荷役人として堅気の生活をするが、地元のヤクザに見つかり事務所に連れていかれる。そこで、昔馴染みの木内(内田良平)に会い、横浜の木内組に来るように誘われる。堅気の生活を心に決めている五郎はその申し出を断るが、夢子の病状が悪化し、入院費用が必要となる。

横浜の木内組を訪ねた五郎は、和泉組との抗争の手伝いを頼まれる。和泉組に襲われた木内組の若いヤクザ・若林(岡崎次郎)を助けるためにかけつけたクラブで、五郎は弘前で助けた菊絵と会う。菊江は、ヤクザの根本(田中邦衛)の情婦となっていた。根本は、兄貴分の上野を殺した五郎を仇として狙っており、その急場を救ったのが和泉組の代貸・浅見(二谷英明)だった。浅見と五郎は旧知の間柄だったのだ。

浅見の妹・恵子(太田雅子=梶芽衣子)と若林は恋人同士で、五郎は若林に堅気になるように勧める。その頃、夢子が雪子に見取られて息をひきとる。雪子が五郎に出した手紙は、木内によって握りつぶされていたことを、五郎は訪ねてきた雪子から知らされる。和泉組に対する木内の悪どいやり方を見て、五郎は木内と手を切りたかったが、ヤクザの義理に縛られていた。やがて、木内組と決着をつけるため、浅見が指揮する和泉組が殴り込んでくる。凄まじい闘争の最中、五郎が木内を助ける。浅見の殴り込みは失敗し、和泉組の親分が木内に殺されたことで抗争は決着する。義理を果たした五郎は、木内組を去るが、殴り込みの時に現場にいなかった若林が裏切り者としてリンチで殺され、妻子に逢いにきた浅見も殺されたことから、五郎は雪子を故郷へ帰し、木内組に単身殴り込み……

 堅気の世界に入っても、シガラミからヤクザの世界に戻り、心を許せる先輩や、慕ってくる若者を殺され、ドスを持って殴り込みというパターンが完全に確立します。

 

『無頼非情』(1968年・日活/監督:江崎実生)

ヤクザの義理から、五郎は三木本組と敵対している沢田(葉山良二)の命を狙うが、沢田は三木本組の上部団体である安岡組の新開(名和宏)に殺される。沢田が三木本と敵対していたのは、三木本のイカサマ賭博と知った五郎は、三木本の賭場を襲い300万円を奪うと、沢田の妻・亜紀(扇千景)を連れて亜紀の故郷へ向かう。しかし、列車の中で亜紀が心臓病で倒れ、横浜の病院に入院する。五郎は波止場で働きはじめ、波止場近くのレストランで古賀組のヤクザに嫌がらせを受けている恵子(松原智恵子)を救う。その頃、金を取り戻すために五郎を追って横浜に来た新開は、古賀(渡辺文雄)に援助を求め……

内容が“沓掛時次郎”になり、下層社会の怨念といったものが薄れています。そのため、狂気を表すペンキをぶちまけてのラストの死闘に違和感を持ちました。そこだけが突出しているんですよ。

エンドマークの前に流れる主題歌「男の流転」はモロ任侠演歌だったし……

 

無頼・人斬り五郎』(1968年・日活/監督:小沢啓一)

刑務所で死んだ弟分・林田(藤竜也)の頼みで、五郎は林田の姉(小林千登勢)を捜しに中京の小さな町にやってくる。五郎はホテルのボイラーマンとして働くが、同じホテルで働いている由紀(松原智恵子)を名振会のいやがらせから救ったことからヤクザだった素性がバレ、ホテルをクビになる。名振会の会長・牧野(南原宏治)は、かつて五郎に先代会長の暗殺を依頼した弱みをもっていた。牧野は五郎を殺そうするが……

上記に記載した主題歌がこの作品から使われます。曲だけはシリーズ通して流れていたんですけどね。

遊女だったために、弟の遺骨を引き取りたくても引き取れなかった女の悲しさを小林千登勢が好演。昔気質のヤクザを演じた佐藤慶もよかったなァ。

ドスを握りしめ、恨みや復讐という存念でなく、強烈な憎悪だけで体ごとぶつかっていく渡哲也の姿は、そのせつない主題歌と相俟ってシリーズ完成形となっています。

 

無頼・黒匕首』(1968年・日活/監督:小沢啓一)

抗争に巻き込まれて、武相会に恋人・由利(松原智恵子)を殺された五郎は、先輩の三浦(中谷一郎)が経営する立川市の砂利採掘場で働くことになる。三浦と飲みに行った居酒屋で五郎は昔の恋人・小枝子(北林早苗)と再会するが、小枝子は地元のヤクザ・竹宮(露口茂)と結婚していた。竹宮は武相会と戦いに手を貸してくれと五郎に頼むが、五郎は断る。立川に進出してきた武相会は竹宮を殺し、三浦にも……

シリーズ5作目。松原智恵子は、由利と三浦の妹・志津子の二役。誤って由利を殺してしまい、精神的負担を抱えて五郎と対決する川地民雄、組織のしがらみに苦しむ露口茂、ヤクザに惚れた北林早苗の悲しみ、ダーティーなヤクザ世界を描いた佳作で〜す。

 

無頼・殺せ』(1969年・日活/監督:小沢啓一)

五郎がやって来た町は、入江崎一家と関東東友会が対立していた。百貨店で東友会のチンピラにからまれているエレベーターガールの弓子(松原智恵子)を助けるが、弓子は入江崎一家の代貸・守山(江原真二郎)の義理の妹だった。五郎と守山は旧知の間柄で、五郎は守山の家に住むことになる。東友会の悪辣な行動に対して、守山は東友会京浜支部に殴り込みをかけ勝利する。しかし、手打ちが決まり、ホッとしていた守山は東友会に暗殺され、入江崎一家も東友会の殴り込みによって全滅する。五郎は、復讐のためにドスを握り……

シリーズ最終作。下層社会で育った主人公が持っていた鬱屈感がなくなり、松原智恵子との関係も純愛そのもの。アナーキーさが失くなった時、シリーズの魅力も失せました。

 

 

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