『デッドウッド』に見る史実


FOXクライムで放送された『デッドウッド』は、物語の中心となる人物はいますが、舞台設定そのものが主役の集団ドラマといえます。つまりデッドウッドという町が主役なんです。このドラマは、米国で2004年から2006年にかけて放送され、3シーズン36話あるのですが、日本で放送されたのは2シーズン24話だけ(2009年2月現在)でも魅力を感じることができました。内容を紹介する前に、舞台となるデッドウッドの町を説明しておきますね。

デッドウッドは、ブラックヒルズで金鉱が発見され、一攫千金を夢見る男たちがどっと押し寄せてできた鉱山町です。ダコタ州ブラックヒルズ一帯に金鉱があることがわかっても、そこはスー族の土地で白人が簡単に金鉱を探すことが出来る場所ではなかったのですが、1874年12月に最初の28人が採掘をはじめるや、どんどん金鉱堀りがやってきます。翌75年秋までに延べ1万5000人もの金鉱堀りがブラックヒルズにやって来たと云います。

政府はインデイアンとの協定があって、最初のうちは採掘者をブラックヒルズから追い出していたのですが、白人の安全のためにスー族に代わりの土地を与えてブラックヒルズの土地を放棄させようとします。9月にスー族と会議しますが、ブラックヒルズにはスー族の聖地があった為、スー族は拒否します。結局、政府は金鉱掘りたちがブラックヒルズに入ることを黙認することになり、金鉱掘りたちがインディアンに襲撃されても自身の責任であるということにしました。

1876年4月にデッドウッドの町が建設され、約7000の人口を持つようになります。西部開拓期も終盤になっており、多くの町で法と秩序が整備されてきていましたが、これらの町からあふれた無法者・賭博師・ガンマン・売春宿や酒場の経営者などがデッドウッドに集まってきたんですね。金鉱掘りにしたって命知らずの食詰め者ですから、暴力沙汰は日常茶飯事です。この町では殺人だって悪でない、力が支配する法律無き町なのです。

セス・ブロック(ティモシー・オリファント)

ソル・スター(ジョン・ホークス)

セス・ブロック(ティモシー・オリファント)

ワイルド・ビル・ヒコック(キース・キャラダイン)

 

ワイルド・ビル・ヒコック

(キース・キャラダイン)

第1シーズンは、モンタナで保安官としての最後の仕事を終えたセス・ブロック(ティモシー・オリファント)は、相棒のソル・スター(ジョン・ホークス)と雑貨屋をはじめる為にデッドウッドへやってくるところから始まります。西部で名高いワイルド・ビル・ヒコック(キース・キャラダイン)も友人のチャーリー・アター(デイトン・カリー)やカラミティ・ジェーン(ロビン・ワイガート)と採掘者の一団を率いてやってきて、セスは彼らと知りあいになります。

ヒコックは金鉱掘りにやってきたのですが、サルーンで賭博ばかりしています。ヒコックが賭博をしているのがトム・ナットールのナンバー・テン・サルーンね。“浮浪罪により町を追放”というシャイアンでの出来事がヒコックの口から語られたり、殺される前日に妻のアグネス・レイク(サーカス一座の経営者であることも劇中で語られている)へ手紙を書くシーンがあったりと、史実通りの展開です。そして、ジャック・マコールに後ろから射たれて命を落とします。マッコールは酒場での臨時裁判で無罪になるのですが、法律なき町の裁判のいいかげんさを見せてくれます。マコールはデッドウッドから逃げ出しますが、後を追ったセスとチャーリーに捕まります。ララミーでの正式な裁判では縛り首になったんですよ。

アル・スウェレンジン

(イアン・マクシェーン)

殺酒場兼売春宿を営むアル・スウェレンジン(イアン・マクシェーン)から土地を買ったセスとソルは念願だった雑貨屋を開店します。金鉱を探すより、金鉱掘りを相手に商売する方が確実に儲かりますね。ソルはオーストリア系ユダヤ人で商売のセンスに優れています。商売の実務はソルが担当していきます。金鉱掘りが客なので、現金取引だけでなく、ハカリを使って金塊や砂金での代金受取りをするところは鉱山町の特色が出ています。

鉱山町の住人は殆どが男なので、一番儲かるのは酒に女に賭博ね。このドラマの舞台である創成期のデッドウッドの町にはサルーンの数が他のあらゆる種類の店をあわせたものより多かったと記録にあります。但し、しっかりした造りの建造物だったサルーンは数軒だったとのこと。前述の“ナンバー・テン・サルーン”の他にも、アル・スウェレンジンの“ジェム”も、サイ・トリバー(パワーズ・ブース)の“ベラ・ユニオン”も、デッドウッドに実在したサルーンです。アルは、女たちに給仕とカーテンで囲った部屋での接客(売春ね)をつとめさせ、それを拒んだ者に肉体的な虐待を加えて二人の女性を自殺に追いやったそうです。ドラマの中でも娼婦のトリクシー(ポーラ・マルコムスン)に暴行を加えるシーンがありますね。

アルはこのドラマの中心人物で、無法者たちを裏で支配する顔役になっています。邪魔者は殺せと、人殺しも平気な悪い奴なんですが、一筋縄ではいかない悪の魅力にあふれています。開拓者一家を皆殺しにした仲間の無法者3人のうち、2人がヒコックとセスに殺されると、災いが自分に及ばないように残り1人を殺し、豚の餌にしてしまいます。フィクサーとなって金の出ない鉱山を売りつけ、証拠が残らないように売主を殺し、クレームをつけてきた買主を事故に見せかけて殺します。ところが、その鉱山に金が出ることがわかって、部下であるホテル支配人のファーナム(ウィリアム・サンダーソン)を使って未亡人のアルマ・ギャレット(モリー・パーカー)から買い戻そうとするのですが、彼らの態度と夫の死に不審を抱いたアルマは、セスを相談役として鉱山を手放しません。

アルマ・ギャレット

(モリー・パーカー)

アルマは夫婦関係の悩みからアヘン中毒になっていたのですが、一家皆殺しの中で生き残った少女ソフィア(ブリー・シーナ・ウォール)の面倒をみることで生きがいを見出し、アルマをスパイするようにアルに指示されてきたトリクシーの手助けで中毒を治します。セスが連れてきた鉱山の専門家エルズワース(ジム・ビーバー)が鉱区を調査すると、埋蔵量が豊富な金山と判明します。アルマの父親が金山を狙ってデッドウッドにやってきますが、その醜い精神に怒ったセスによってたたき出され、アルマとセスは互いに惹かれあい……

サイに呼ばれて“ベラ・ユニオン”にやってきた賭博師(ザック・グルニエ)が天然痘に罹っていたことから、デッドウッドの町に天然痘が蔓延します。ワクチンが届けられて天然痘は収束しますが、今度は蜂起していたスー族が居留地に戻ったことから、デッドウッドの町に政府の介入が確実になります。インディアンとの協定を無視して作られた町だったので、住民は土地を自分のものにできなくなる恐れが出てくるんですな。土地を取り上げられる前に自立した町であることを認めてもらうために、自分たちで行政機関を作るんですよ。これがかなりいいかげんなやり方なんですが、西部開拓の資料をみると、デッドウッドに限らず開拓初期の町は似たようなものだったみたいですね。

 

第2シーズンは、ジョージ・ハーストの代理人ウォルコットの鉱山買占めを中心に物語展開していきます。このウォルコットがトリバーと組んで色々策謀を巡らすのですが、性的異常者なんですね。ジョニー・スタッブス(キム・ディケンズ)が、トリバーから独立して娼婦のサロン“シェ・アミ”を開店するのですが、ウォルコットはその店で3人の娼婦を殺害します。トリバーは殺人の痕跡を消し、ウォルコットに貸しを作るんですな。

第1シーズンでジャック・マコード役だったギャレット・ディラハントがウォルコットを演じています。シリーズ物で同じ役者が役を違えて出演するのは日本ではよくあるキャスティングなんですが、海外ドラマでは珍しいですね。それも重要な役どころですからね。ジャック・マコード役で印象的な演技を見せたので、その好演を認められたんですかね。第2シーズンではウォルコットが圧倒的な存在感を持っています。

ジョニーはウォルコットに怯えますが、チャーリー・アターがジョニーを守ります。チャーリーは友人のカラミティ・ジェーンに、護衛および話し相手としてジョニーの側にいてくれるように頼みます。ジェーンは悪態をつきながらも承知します。カラミティ・ジェーンは一般的に云われている“平原の女王”なんかじゃなく、このドラマに出てくるような、酒を飲み、強がっているだけの女性のような気がしますね。一家皆殺しにあって一人生き残った少女や、人の嫌う天然痘患者を親身に看病する世話好きな性格がまわりの人に愛されたんじゃないですかね。ワイルド・ビル・ヒコックに対しても片想いというのが真実のようです。ジェーンはドラマの主筋とは離れた完全な傍役ですが、存在感を持っています。

デッドウッドにやって来たハーストにウォルコットの悪事が露見し、ハーストに解任されたウォルコットの自殺により鉱山買占めに関連した一連の問題は一応の決着がつくのですが、第3シーズンでジョージ・ハーストがデッドウッドの町に絡んでくるんでしょうね。ジョージ・ハーストは映画『市民ケーン』のモデルとも云われる新聞王ハーストの父親で、鉱山王として知られています。

チャーリー・アター(デイトン・カリー)

カラミティ・ジェーン(ロビン・ワイガート)

物語の中心人物であるセス・ブロックとアル・スウェレンジンなんですが、セスはアルマと深い関係となりアルマが妊娠します。セスの妻子がデッドウッドにやってきたものですから、さあ大変。何やかやあって、アルマは彼女を深く愛しているエルズワースと結婚し、セスは息子を事故で失って夫婦の絆を強めます。

一方アルは、尿管結石で半死半生となりますが、ドクター・コクラン(ブラッド・ドゥーリフ)の荒っぽい治療(尿管に鉄線を入れて石を砕く)で回復します。中国人同士の対立を解決(当然、暗殺によるものです)したり、アルマを夫殺しにして鉱区を奪おうとする計画を防いだり、ダコタ準州併合による弊害を少なくしようとしたりして、悪党ながらも愛すべき存在に変化してきています。

果たして、第3シーズンは……

 

 

 

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