怪談映画


『怪談』(2007年・松竹/監督:中田秀夫)

下総羽生の藩士深見新左衛門は、借金の催促にきた皆川宗悦を酔って殺害し、累が淵に沈める。しかし、宗悦の怨霊に祟られた新左衛門は妻を殺して悶死し、家は取り潰しとなる。

それから20年後、江戸で煙草売りをしていた新左衛門の息子・新吉(尾上菊之助)は、三味線の師匠をしている宗悦の娘・豊志賀(黒木瞳)と出会い、二人は恋に落ちる。新吉にベッタリの豊志賀の許から弟子が次々に去り、豊志賀はひとり残ったお久(井上真央)と新吉の仲を疑いはじめる。新吉からの別れ話に嫉妬した豊志賀は弾みで顔を傷つけてしまう。傷は治らず、醜くい顔となった豊志賀は怨念の塊となり……

原作は有名な『怪談累ヶ淵』ね。これまでの“累ヶ淵”では、新吉は豊志賀を利用する色悪として描かれたものが多かったのですが、この作品では“親の因果が子に祟り”という悪縁の悲劇になっています。新吉と豊志賀は、愛し合っていても親の宿縁から逃れることができず、凄惨な結果となるんですな。ケレン味たっぷりのオドロオドロシイ怪談映画でなく、耽美的な怪談映画で新鮮な感じがしました。尾上菊之助の妖しい魅力に満足。

 

『怪談累が淵』(1960年・大映/監督:安田公義)

旗本深見新左衛門(杉山昌三九)は、借金の催促にきた按摩の宗悦(中村鴈治郎)を殺して累が淵に沈めるが、宗悦の亡霊に祟られて狂い死にする。宗悦の死後、娘の豊志賀(中田康子)は富本節の師匠となり、妹のお園(三田登喜子)は深川の芸者となっていた。ある日、豊志賀は妾に出されようとしていた弟子のお久(浦路洋子)をヤクザから救った深見新五郎(北上弥太郎)と知り合う。新五郎は父を殺した新左衛門の息子だったが、それとは知らずに二人は愛し合うようになる。しかし、豊志賀はお久に優しくする新五郎に嫉妬し……

新左衛門が宗悦を殺すプロローグは、中村鴈治郎の名演技と相俟って、ケレンとオドロオドロしさに溢れていて監督の演出の冴を感じさせたのですが、新五郎と豊志賀の話になってからは全然ダメです。

吉松(須賀不二男)という実悪を登場させ、新五郎を色悪でなく性格のいい奴にしたのが失敗ですね。豊志賀は単なる嫉妬深い女だけになり、親の因果からくる悪縁の恐怖というものが薄れましたからね。結局、新五郎は豊志賀を篤く弔ってエンド。なんじゃ、こりゃあ……怒りの大放屁ちゃぶ台返し!

 

『魔性の夏 四谷怪談より(1981年・松竹/監督:蜷川幸雄)

怪談映画といえば“四谷怪談”となるのですが、これまで色々な“四谷怪談”を観てきましたが、これは出来の悪い部類になります。

伊右衛門(萩原健一)が藩金横領の旧悪を妻・お岩(高橋恵子)の父・四谷左門(鈴木瑞穂)に脅されて殺し、お岩の妹・お袖(夏目雅子)に恋慕している直助(石橋蓮司)がお袖の夫・与茂七(勝野洋)と間違って仲間の侍を殺して、二人が何食わぬ顔でお岩とお袖に仇を討ってやると言うんですが、伊右衛門と直助の悪党コンビが今イチなんですよね。ふてぶてしさが足りません。

伊右衛門に恋こがれるお梅(森下愛子)と一緒になるために、お岩に毒薬を飲ませ、お岩の顔が崩れていくところからが恐怖の見せ場とならなきゃいけないのですが、全然怖くないんですよ。メーキャップもよくないのですが、それ以上にお岩の怨みの情念が伝わってこないのが要因ですね。

旅から帰ってきた与茂七が直助を斬るのですが、その時、誤ってお袖までも斬ってしまいます。お岩の飲んだ毒薬をお袖も飲んで顔が崩れるんですが、あまり意味のない演出でした。

そして最後は、与茂七と伊右衛門が斬りあい、相打ちで二人とも死んでしまいます。「何じゃ、これは」というラストで、不満だけが残ります。

せっかく個性的な役者を揃えても、中途半端な(ユーモアになっていない)笑いをいれた脚本がよくないで〜す。

 

 

 

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