ギリシャ神話は面白い


ギリシャ神話におけるトロイ戦争

トロイ戦争の原因は、トロイ王子のパリスがスパルタ王妃のヘレンを略奪婚したことなんですが、発端はヘラ、アテナ、アフロディアの三人の女神の争いにあります。これには長い前置きがあるんですが、要は誰が一番美しいかを第三者に決めてもらおう、ということになってパリスが選ばれるんですな。

羊飼いをしていたパリスが泉のそばで休んでいると、ヘラ、アテナ、アフロディアの三人の女神が現れて、誰が一番美しいか選ぶように頼まれます。女神たちはパリスに、自分を選んでくれたら贈物(ヘラは権力を、アテナは武力を、アフロディアは世界一の美女)をすると囁きます。それで、パリスが選んだのが世界一の美女だったんですね。

この美女というのがヘレンです。ヘレンの母親はスパルタ王妃のレダですが、父はゼウスです。レダの美しさにゼウスが白鳥に変身して夜這いした結果生まれたのがヘレンでした。少女の時からその美貌は際立っていて、12歳の時にテセウスに誘拐されます。しかし、15歳の時にヘレンの異父兄(双子)のカストルとポリュデウケスに救出されてスパルタに戻ります。カストルとポリュデウケスの冒険話はたくさんあるのですが、最後は夜空の星・双子座になります。

パリスの審判

ところで何故パリスが羊飼いになっていたかというと、パリスが生まれた時、アポロンの神託で母親のヘカベは自分が松明を生み、その火で町が焼きつくされる夢を見たんです。将来パリスがトロイを滅ぼすことを恐れて、彼は山に捨てられ、農夫に拾われて育ったんですな。アフロディアから約束してもらってしばらく後、パリスが飼っていた雄牛がトロイ城で開催される競技会の景品として献納させられます。パリスは雄牛を取戻すために競技会に出場して、決勝でトロイ王子のヘクトルと対戦します。その時、試合を見ていたヘクトルの妹カサンドラが羊飼いの素性を見抜きます。プリアモス王をはじめトロイ王家の人たちは、美しく力強い若者に成長したパリスを見て、出生の時の不吉な予言も忘れて彼をトロイ王家に迎えます。この時、パリスがトロイに災いをもたらす者として、一人だけ反対したのがカサンドラでした。

カサンドラの予知能力は彼女に恋したアポロンによって授けられたんですが、将来アポロンに捨てられることを予知して、カサンドラはアポロンを振るんですな。怒ったアポロンは、彼女の予言を誰も信じないように予知能力に修正を加えます。それで、カサンドラは正しい予言をしても誰にも無視されることになるんです。

一方スパルタに戻ったヘレンですが、スパルタ王・テュンダレオスにとってヘレンは厄介者でした。何しろギリシャ中の王子や勇者がヘレンとの結婚を申し込んでおり、結婚するためには戦いも辞さない雰囲気だったからです。へたに求婚を拒むと戦争をしかけてくる恐れすらあったのです。そこで彼はオデュッセウスの意見を入れて、その調停案に従うことにします。オデュッセウスの提案は、テュンダレオスが求婚者の中からヘレンの夫を選び、求婚者たちは全員王のこの選択を受け入れ、平和を保ち、ヘレンをその夫から奪おうとする者には全員結束して戦うことを誓う、というものでした。それで、テュンダレオス王が選んだのが、当時ギリシャ諸国の中で一番繁栄していたミケーネの国王アガメムノンの弟メネラオスでした。メネラオスはヘレンと結婚してスパルタ王になります。

メネラオスとの生活はヘレンとって不満のないものだったのですが、トロイの使者としてパリスがスパルタにやってきます。仕事で留守のメネラオスに代わって、ヘレンがパリス一行を迎える準備を終えた時に、アフロディアが夢の中に現れ、パリスこそが夫になる男であることを告げます。パリスはヘレンを一目見た時にアフロディアとの約束を思い出し、ヘレンもパリスを一目見て恋に落ちます。パリスは外交そっちのけでヘレンをトロイへ連れ帰ります。途中で嵐にあって島で愛の生活をしたり、気分はハッピー、ハッピー。その頃トロイの宮廷では、このまま放置すればギリシャ軍と戦争になることはわかっていましたが、パリスが連れ帰ったヘレンを見て、その魅力に首脳陣はヘレンを手放すことを拒否します。ただパリスの兄ヘクトルだけは、妻のアンドロマケを強く愛していたので、ヘレンの美しさにも動じませんでした。

ヘレンをパリスに奪われたメネラオスは、兄のアガメムノンに相談します。アガメムノンはトロイ攻撃の大義名分ができたので、ギリシャ連合軍の総大将としてトロイ遠征を決定します。しかし、アウリスの港へ集結したギルシャ艦隊は無風のため、いつまでたっても出帆できません。これはアガメムノンが狩りで女神アルテミスの可愛がっていた牡鹿を殺したためにアルテミスの怒りをかったんですな。アガメムノンはカルカスの予言でアルテミスの怒りを鎮めるために娘のイピゲネイアを生贄に捧げます。妻のクリュタイムネストラ(ヘレンの異父姉)はこのことを恨みに思い、トロイ戦争から帰還したアガメムノンを殺すのですが、これはまた別の話。

ギリシャ軍を相手に、トロイ軍は老齢のプリアモスに代わって息子のヘクトルが指揮をとります。ヘクトルはトロイ軍の中で知勇兼ね備えた最強の勇者でした。ギリシャ軍の中でヘクトルに対抗できるのはアキレスだけでした。

アキレスは、彼がまだ幼い頃、母親のテティスによって黄泉の国の川ステュクスに浸され、不死身の身体になっていました。その際テティスはアキレスの踵をもっていたので、その部分だけが弱点になります。テティスはアキレスがトロイ戦争に参戦すれば戦死する運命にあることを知っていましたが、アキレスはオデュッセウスに「お前がいないとギリシャ軍は勝利することができない」と説得されて参陣します。

トロイ戦争は10年に渡って続くのですが、長く続いた理由のひとつに神々の関与があります。オリンポスの神々が二派に別れたんですよ。アフロディア、アポロン、アルテミスはトロイ側に味方し、ヘラ、アテナ、ポセイドンはギリシャ側につきました。

アガメムノンの使者を迎えるアキレスウス

ヘレンを賭けてパリスはメネラオスと決闘して敗れ、危うく命を落としかけるのですがアフロディアによって命を救われます。捕虜にしたトロイの女をめぐってアガメムノンと諍いをおこしたアキレスが前線から離脱し、ギリシャ軍がトロイ軍の猛攻の前にピンチに陥った時、ポセイドンがギリシャ軍を救います。策士のオデュッセウスがアキレスの親友パトロクロスを説得し、ギリシャ軍を鼓舞するためにアキレスの黄金の鎧を彼に着せてアキレスの身代わりにしてギリシャ軍は体制を建て直しますが、パトロクロスはヘクトルに倒されます。怒ったアキレスは戦場に復帰し、復讐のためヘクトルに決闘を挑みます。流石のヘクトルもアキレスの前に敗れ、アキレスによって死体は戦車に縛りつけられて土の上を引きずり回されます。アポロンはヘクトルの死体に魔法をかけ、損傷しないように図ります。そして、パリスがアキレスの、踵を弓で射抜いて倒すことができたのもアポロンの陰の力だと云われています。

ヘクトルが死に、アキレスが死に、パリスが遅れてやってきたピロクテテスのヘラクレスの弓矢によって殺され、トロイ戦争は大詰を迎えます。ピロクテテスは弓矢の名手で彼に勝るのはアポロンだけと云われていました。その彼が何故トロイ戦争に遅れたか、何故ヘラクレスの弓矢を持っていたかについては、長い話になるのでパス。

10年も戦争を続けていれば、互いの兵士の間に厭戦感が出てきます。オデュッセウスは一計を案じ、巨大な木馬を作り、「女神アテナに捧げる」と彫りつけて、その腹の中へ精鋭を率いて潜みます。これをトロイの城門の前に放置して、ギリシャ船団は海の彼方へ引き上げたかのように見せかけて近くの島影に隠れます。

トロイ人は、勝った、勝ったと喜び、木馬を城内に運び込みます。カサンドラは城内に入れることを強く反対しますが、戦勝気分に浮かれている人たちは誰も耳をかしません。城内は飲めや歌えの大宴会。トロイの兵士たちが酔っ払って眠る頃、木馬に潜んでいたギリシャの勇士たちが忍び出て城門を開き、ひそかにトロイの城壁に押し寄せたギリシャ軍と呼応してトロイ軍を攻撃します。かくて難攻不落のトロイ城も陥落。トロイ王家で一人生き残ったのがアイネイアスで、イタリアに逃れて古代ローマを建国するんですな。

ヘレンはメネラオスに許され、再びスパルタ王妃として君臨します。パリスが死んでしまうと情熱もいっぺんに覚め、昔の亭主の良さに気づいたのでしょう。メネラオスはヘレンを殺そうと思っていたのですが、変らぬヘレンの美貌の前にその決意は雲散霧消します。女にとって美貌に勝る武器はないので〜す。

トロイ落城

 

トロイのヘレン(1955年/監督:ロバート・ワイズ)

紀元前1100年、繁栄を誇るトロイの富はギリシャに狙われていた。トロイの王子・パリス(ジャック・セルナス)は和平交渉のためにギリシャに向かうが嵐にあって難破する。スパルタ海岸に漂着したパリスはスパルタ王妃・ヘレン(ロッサナ・ポデスタ)に助けられる。二人は愛しあうようになり、パリスはヘレンをトロイへ連れ帰るが……

エキストラ大量動員のスペクタクル史劇。音楽がこの手の映画でお馴染みのマックス・スタイナーで豪華な絵巻物にはピッタシ。だけど、監督のロバート・ワイズは向いていなかったようです。全体的に平板な演出で盛り上がりに欠けます。敗れたトロイの側から描いているので仕方ないかなァ。

この映画の見どころは何といってもロッサナ・ポデスタの美しさです。『黄金の七人』で見せた艶っぽさはありませんが、ギリシャ彫刻に見る美しさがありま〜す。

どうでもいいことだけど、売出し前のブリジット・バルドーが出演していることと、アキレスがスタンリー・ベーカーだったことを付け加えておきます。

 

トロイ(2003年/監督:ジョン・ケント・ハリソン)

トロイ戦争の発端から最後までをTVムーヴィにしては大掛かりなスケールで描いていました。でもって、内容はヘレンに対するパリスとメネラオスの愛の物語になっています。だからメネラオスが悪い奴でなく、彼なりに芯の強い男として描かれていますね。ギリシャ神話ではメネラオスは英雄のひとりですから、それもいいでしょう。

ヘレン役のシエンナ・ギロリーは美人ではあるけど、絶世には程遠いなァ。それにラテン系でないのでイメージ的に違うんですよ。古代史劇はイタリア女優が似合うんだけどなァ。

パリス役のマシュー・マースデンは若い頃のジュリアーノ・ジェンマに面影が少しだけ似ており好感を持ちました。

画像は『バイオハザードU』のシエンナ・ギロリー

 

 

トップへ     メニューへ     次ページへ