時代的には西部劇


『バーバリー・コースト』(1935年/監督:ハワード・ホークス)

ゴールド・ラッシュにわく1949年末のサンフランシスコに、ニューヨークからメアリー・ラトレッジ(ミリアム・ホプキンス)がやってくる。金鉱を掘りあてた金持ちと結婚するためだったが、相手はすでに殺されており、バーバリー・コーストの賭博場で働くことになる。賭博場の所有者・シャマリス(エドワード・G・ロビンソン)は、金鉱を掘り当てた者からイカサマで金をまきあげ、逆らう者は用心棒のナックルズ(ブライアン・ドンレヴィ)が抹殺していた。

シャマリスの求愛を拒み続けていたメアリーは、遠乗りに出た時に黄金を手に故郷へ帰ろうといていたカーマーケル(ジョエル・マクリー)に出会う。二人は互いに惹かれあうが……

ジョエル・マクリーの大根演技(朴訥で、そこが魅力になっていました)に対して、エドワード・G・ロビンソンは臭いけど巧いですねェ。ブライアン・ドンレヴィも存在感があってグッド。だけど、何といっても最高だったのが、ホークス監督が「見ているだけで可笑しい風貌に魅せられてしまった」というウォルター・ブレナンで〜す。水夫役でデビュー間もないデビッド・ニーブンが出演していたらしいのだけど気づかなかったなァ。

内容的には、とりたててホークスらしい演出は見受けられませんが、霧のサンフランシスコや騒然とした賭博場の雰囲気は見事に表現されていたと思います。

ところで題名の“バーバリー・コースト”ですが、ゴールド・ラッシュを背景にサンフランシスコの一画に、ギャンブル・アルコール・売春の町ができあがったんですな。本能と欲望の渦巻く町ということで、船乗りたちが1860年代半ば頃から言い出したらしく、この作品の1949年末には、そういう名前があったわけじゃないんです。だけど、1949年当時には数百軒の賭博場があったといいますから、名前はなくとも暗黒街が形成されていたことは間違いありません。

金発見後、西部で最初にできたという賭博場“エル・ドラド”の挿絵が残っているのですが、この作品の賭博場“ベラドンナ”のセットが“エル・ドラド”を参考にしたことがわかります。“ベラユニオン”という賭博場ではシモーヌ・ジュールというフランスの美女がクルービエ(ルーレットの賭金集め手)としてルーレット・テーブルに登場し、莫大な上がりがあったそうです。この作品でもミリアム・ホプキンスが美人クルービエとして男たちの関心の的になっていましたね。

冒頭シーンで、賭博場にいる男たちが驚きの目でミリアム・ホプキンスを見つめるシーンがありますが、当時のサンフランシスコには女性が300人に満たず、その内200人以上はメキシコ、ペルー、チリからきた売春婦だったといいますから、白人女性は真に珍しい存在だったんですよ。私はミリアム・ホプキンスに魅力を感じなかったけど、エドワード・G・ロビンソンもジョエル・マクリーも彼女に一目惚れするのは、物語展開上ムリはな〜い。

 

『オーシャン・オブ・ファイヤー』(2004年/監督:ジョー・ジョンストン)

フランク・ホプキンス(ウーゴ・モーテンセン)と愛馬ヒダルゴは、“世界一速い馬と騎手”という謳い文句でバッファロー・ビルのワイルド・ウエスト・ショーに出ていたが、アラブの王様(オマー・シャリフ)からクレームがつく。4800キロのアラビア砂漠を走破する“オーシャン・オブ・ファイヤー”と呼ばれる耐久レースの勝者こそ世界一と言われ、賞金10万ドルを獲得するためにフランクはレースに参加するが……

時は19世紀末、主人公はインディアンとの混血カウボーイと野生馬ムスタング(字幕はマスタングとなっていましたが、昔からの西部劇ファンとしてはムスタングなんですよね)となれば、広義に解釈して西部劇なのです。

ウーンデッド・ニーの虐殺やワイルド・ウエスト・ショーも出てくるし、バッファロー・ビルやアニー・オークレー(もっとキレイな女優を使えよ)が実名で登場しています。だけど、インディアンの酋長(シッティング・ブルだと思うのだが)だけ仮名にしていたのは何故かなァ。アラブの王様がダイム・ノベルのファンで主人公のコルトSAAを欲しがるというのも嬉しい設定です。

娯楽映画の定石通りの展開ですが、爽やかな結末に満足、満足。

 

『スワンプ・ウォーター』(1941年/監督:ジャン・ルノワール)

迷い込んだ愛犬を探しに迷路のような沼地にやってきたベン(ダナ・アンドリュース)は、殺人犯として長い間逃亡しているトム(ウォルター・ブレナン)と出会う。トムの話を聞いてベンは彼の無罪を信じるようになり、トムの案内で狩猟に励む。獲物を持って村に戻ったトムは、雑貨屋で下女として働いているトムの娘ジュリー(アン・バクスター)の面倒をみる。しかし、沼地にトムが隠れていることが村人にわかり、ベンは真犯人を捜し始めるが……

ナチから逃れてアメリカに渡ったジャン・ルノワールのハリウッド第1回作品。西部劇というよりジョージア州の沼地を舞台としたサスペンス映画です。

脚本は『駅馬車』のダドリー・ニコルズで、傍でワード・ボンドやジョン・キャラダインといったフォード一家の面々が顔を見せています。そのためか、ルノワールの演出は、どこかフォード・タッチを感じさせますね。

 

 

 

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