劇場版必殺仕事人


テレビの人気番組の映画化でおかす失敗を、やっぱりこのシリーズでもしていましたね。第1は映画用に人気スターを起用したために、物語に制約を受け、スター出演シーンの部分が浮いてしまうこと。ストーリー展開にバランスを欠いてしまうんですね。

第2は大型スクリーン用にアクションが派手になること。メッタヤタラと敵の数が多くなり、立回りに時間がかけられているのですが、仕事人本来の殺しの妙が薄れています。

強大な敵に弱き者が殺され、はらせぬ怨みを、仕事人たちが工夫を凝らして近づき、得意の殺し技で仕留める過程をじっくり描いた方が内容のあるものになったと思います。

 

『必殺!』(1984年・松竹/監督:貞永方久)

江戸の町で仕事人たちが殺される。庄兵衛(石堂淑朗)を頭とする六文銭の一団の仕業だった。中村主水(藤田まこと)は、謎の女お葉(中井貴恵)から六文銭に加わるように誘われるが……

必殺仕事人の劇場版で、江戸の仕事人を殲滅して裏稼業の独占を計画する組織との戦いを描いたシリーズ第1作です。必殺仕事人のレギュラー(中村主水=藤田まこと、秀=三田村邦彦、勇次=中条きよし、おりく=山田五十鈴、西順之助=ひかる一平、加代=鮎川いずみ)に加えて、上方からきた一匹狼の仕事人・朝之助(片岡孝夫)が助っ人として登場します。他にも、赤塚不二夫、たこ八郎、斎藤清六、朝丘雪路、芦屋雁之助、研ナオコなどが仕事人として賑々しく出演していますよ。

片岡孝夫は、上方の浄瑠璃人形つかいで、無数の紙蝶々を扇子でとばして目をくらまし、扇子に仕込んだ針で刺す殺し技を持っています。テレビシリーズに使われなかったのが惜しいですね。ちなみに、芦屋雁之助・研ナオコの仕事人夫婦の必殺技“瓦投げ”は、『必殺橋掛人』で、萬田久子・斎藤清六の仕事人夫婦の殺し技として踏襲されています。

でもって内容ですが、やたら賑々しいだけでドラマとしての面白味はありません。仕事人は庶民の怨みをはらさないとね。仕事人対仕事人の戦いなら、山田風太郎の“忍法帖”や横山光輝の“伊賀の影丸”のような、必殺技対必殺技の戦いにすればいいものを、敵方は数にまかせただけの攻撃で芸がありません。少人数で戦うために、芝居小屋という狭い場所に誘いこむ工夫はしていましたけど、結局、顔見せだけの映画で〜す。

 

『必殺!ブラウン館の怪物たち』(1985年・松竹/監督:広瀬襄)

徳川家康が京都御所破壊のために作った秘密装置がある黒谷屋敷の権利書と絵図面が奪われる。老中(平幹二朗)に命じられて、筆頭同心の田中(山内としお)と中村主水(藤田まこと)は京へ旅立つ。せん(菅井きん)とりつ(白木万理)も、謎の女・お葉(中井貴恵)の案内で上方いで湯巡りの旅へ……

劇場版必殺シリーズの第2作目で、『必殺仕事人X』のレギュラー(勇次=中条きよしと秀=三田村邦彦が去り、花屋の政=村上弘明と組紐屋の竜=京本正樹が登場)となっています。幕末を舞台に、徳川家康が遺した秘密屋敷をめぐる戦いが展開されるのですが、アイドルとお笑いタレントを集めた最近のバラエティ番組のように全くアホらしい笑いばかりで、“必殺”の情念が全然ありません。若者世代を狙った企画なのかもしれませんが、オジサンにとっては、怒りの大放屁、チャブ台返し!

前作に続いて主水を誘惑する謎の女・お葉の中井貴恵が出演しているのですが、華を添えるだけの存在で、無理やり設定したようなキャラでした。

 

『必殺!V・裏か表か』(1986年・松竹/監督:工藤栄一)

同心仲間の清原(川谷拓三)が殺され、中村主水(藤田まこと)は清原に強請られていた両替商枡屋(成田三樹夫)の仕業と気づくが奉行から捜査の中止を命じられる。背後には江戸の金融を独占する両替商組合があった。主水は組合を仕切っている真砂屋(伊武雅刀)から命を狙われることになり……

『必殺仕事人X激闘編』のレギュラー(但し、弐の梅沢富美男は登場せず)に秀(三田村邦彦)が加わった布陣ね。庶民の怨みをはらすというより、命を狙われた中村主水(藤田まこと)を助けるために仕事人仲間が戦うといった感じです。この戦いで、組紐屋の竜(京本正樹)、壱(柴俊夫)、参(笑福亭鶴瓶)が死ぬんですが、テレビシリーズの後日談といったところなんでしょうか。集団チャンバラの手際のよい演出は、さすが工藤栄一なんですが、殺しの情念といったものは全然なく、仕事人の面白さはありませんね。 劇場版ということで松坂慶子の出演となったのでしょうが、大物スターの存在が物語を制約し、マイナスになっていま〜す。

 

『必殺4・恨みはらします』(1987年・松竹/監督:深作欣二)

奉行所内部で奉行(藤岡重慶)が見習い与力(石橋蓮司)に殺されるという事件が起こり、新任の奉行として奥田右京亮(真田広之)が着任する。事件の時の不手際から減俸となった中村主水(藤田まこと)が、おけら長屋のお福(倍賞美津子)の店でヤケ酒を飲んでいると、神保主税(堤大二郎)を頭領とする旗本愚連隊が長屋に暴れこんでくる。馬が暴走し、子どもを助けようとした浪人(室田日出男)が首の骨を折って死ぬ。旗本愚連隊への殺しの依頼が弁天の元締(岸田今日子)にあり、主水と子連れ仕事人の文七(千葉真一)が引き受ける。馬の暴走が意図されたものであり、浪人の死が事故でなく 殺人であることに気づいた主水は事件の背後を調べはじめるが……

加代(鮎川いずみ)に代わって、『必殺仕事人X旋風編』のお玉(かとうかずこ)が登場します。レギュラー仕事人が主役でなく、中村主水(藤田まこと)一人に、ゲスト仕事人(千葉真一)と悪奉行(真田広之)が中心のチャンバラ映画です。千葉真一と真田広之の動きの良い立回りは見応えがありますが、仕事人のアクションとはかけ離れた世界で違和感がありますね。とにかく、レギュラー仕事人が全然目立ちませ〜ん。

 

『必殺!5・黄金の血』(1991年・松竹/監督:舛田利雄)

佐渡からの御用船が、金山を脱走した無宿人に襲われて沈没する。御用船に乗っていた与七(白竜)が死んだと聞かされたお浅(酒井法子)は川へ身を投げようとするが、偶然通りかかった幼馴染の雅(村上弘明)に助けられる。金座後藤家の女主人・千勢(山本陽子)から無宿人殺しの依頼が鎌いたちのおむら(名取裕子)にあるが、うますぎる話に中村主水(藤田まこと)はその仕事を断る。勘定奉行(西岡徳馬)と金座支配を狙う後藤三之助(岸部一徳)は、金を積んだ御用船沈没の噂で江戸の金相場を暴騰させるが……、

全体的に作り方が粗雑でシラケてしまいます。暴風雨の中を泳いで襲撃するなんてムチャだし、奪った金を江戸の海岸に隠すのもおかしな話です。佐渡から日本を半周して江戸湾にやってきたのですかね。普通は陸を運ぶだろう。発端部分を観ただけで、出来がわかりますよ。

ラストは、邪魔な仕事人をアッサリ片付けた地獄組との戦いになるのですが、ワンパターンの殺し技に終始しています。強敵相手なんだから、チームワークで戦うとか、工夫が欲しかったですねェ。

 

 

 

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