人情時代劇


『あかね空』(2006年・角川映画/監督:浜本正機)

豆腐職人の清兵衛(石橋蓮司)とおしの(岩下志麻)の夫婦は通行人であふれる永代橋でひとり息子を神隠しで失う。それから20年後、京都から豆腐屋を出すために江戸にきた永吉(内野聖陽)は、清兵衛が営む豆腐屋・相州屋の近くの長屋に店を出すが、味は良くても客がつかない。栄吉に息子の面影を感じたおしのは清兵衛に相談する。病気がちの清兵衛は、永吉に納入先の寺を譲ってやる。永吉の豆腐屋・京屋は軌道に乗り始め、愛し合っていた長屋の娘おふみ(中谷美紀)と祝言をあげる。

それから20年後、清兵衛が亡くなり、おしのから相州屋の店舗を譲り受けた永吉の京屋は繁盛していた。飢饉により大豆の値が上がっても豆腐の価格をあげない京屋を憎々しく思っていた平野屋(中村梅雀)は永吉の息子・栄太郎(武田航平)を博打に誘い込む。賭博場の親分・伝蔵(内野聖陽の二役)は栄太郎の借金を取り立てに京屋に行き、豆腐の匂いと味に懐かしさを感じる。永吉は商売に身を入れない栄太郎を勘当するが……

山本一力原作の人情時代劇です。物語展開に忙しく、今イチ喰いたらないところがあるのですが、夫婦役の内野聖陽と中谷美紀の好演をはじめとして、石橋蓮司・岩下志麻といった出演者たちの演技力がしっかりしているので、人情がジーンと心に伝わってきます。

二役することにより、内野聖陽は極悪非道の面を見せるのかと思ったのですが、結局……でした。

それにしても、中村梅雀も巧いなァ。

 

『冷飯とおさんとちゃん』(1965年・東映/監督:田坂具隆)

山本周五郎の短編小説「冷飯物語」「おさん」「ちゃん」を中村錦之助主演でオムニバス映画化した作品です。

「冷飯物語」は、下級武士の四男坊が武家娘(入江若葉)に恋をするが、部屋住みの身分のため嫁にもらうことができないんですな。その境遇に不満をもちながらも卑屈にならず、趣味の古書収集が身を助けるというハートウォーミングな話です。ご都合主義的な内容なのですが、錦之助の演技がよく、傍役人も皆巧くて、観ていて心が和み、満足、満足です。

「おさん」は、ニンフォマニアの妻(新珠三千代)と別れて旅に出た男が、妻を愛していたことを悟り、江戸に戻って妻を捜す物語。女の存在が観念すぎて今イチでした。

「ちゃん」は、腕はいいが時流に乗れない昔気質の職人が、家族の愛情に支えられて生きていく物語。これまたハートウォーミングな話で、思わず涙が出てきました。錦之助は実年齢よりも上の父親役でガンバッテいますが、しっかり女房役の森光子が巧くて少し喰われていますね。画像は、「ちゃん」の錦之助。

三話ともドラマチックな盛り上がりはなく、スローテンポなおっとりしたタッチですが、その内容とマッチして心地よい仕上がりとなっていま〜す。

 

『かあちゃん』(2001年・東宝/監督:市川崑)

裏長屋に住むおかつ(岸恵子)の一家は家族総がかりでセッセと金を貯め、ケチンボ一家として知られていた。居酒屋でたむろする客(中村梅雀・春風亭柳昇・コロッケ・江戸屋子猫)の会話から一家の貯め込みぶりを聞いた勇吉(原田龍二)は、夜中におかつの家に忍び込む。しかし、おかつに見つかってしまい、金を出せと脅すが、ガタガタ震えている彼を見て、おかつは金を貯めている由来を話す。そして、黙って出て行こうする勇吉に食事を与え、遠い親戚の息子ということで家族の一員に加えることにする。ある日、佃島から逃走した無宿者を捜索する定回り同心(宇崎竜童)がやって来たことから、大家(小沢昭一)が勇吉の身許届けを出すように言ってくるが……

“情けは人のためならず”心洗われる優しい映画でした。山本周五郎の短編小説が原作で、1958年にも大映で『江戸は青空』(監督:西山正輝)の題名で映画化されています。その時のおかつは沢村貞子ね。イメージ的には岸恵子より沢村貞子の方が向いていますが、映画には華がないとね。

岸恵子だと綺麗事の人情話になる恐れがあるところを、市川崑監督は傍役陣(中村梅雀・春風亭柳昇・コロッケ・江戸屋子猫・小沢昭一・宇崎竜童)を膨らますことによって、岸恵子を目立たなくしています。傍役の上手さにより、物語にも厚みが出ていますよ。現代人が失くした優しさをユーモアたっぷりに描いた佳作で〜す。

 

 

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