山田洋次時代劇三部作


『たそがれ清兵衛』(2002年・松竹)

公開開始翌週の日曜日第二回目の上映時間帯というのに、場内はガラガラ。30人程度の入りか。近くのシネコンでも公開していましたが、わずか1週間で打ち切られました。某週刊誌には大ヒット作品と記載されていましたが、どうも信じられません。

 でもって、山田洋次が時代劇を初監督した話題作なので、期待をこめて観ましたが……

 適材適所のキャスティング(真田広之:自然な演技、立回りの動きも良し。宮沢りえ:細やかな感情表現ができている、少し太ったのか、綺麗になった。田中泯:存在感あり、立回りにおける着物の乱れが少し気になるが、動き良し。その他傍役:全て良し)で、見応えのある人間ドラマとなっています。

 しかし、リアリティを追求するあまり、時代劇としてみた場合、何箇所かに私は違和感をおぼえましたね。

一つは、清兵衛の身なりです。男やもめの貧乏藩士とはいえ、臭いのは困ります。お城勤めをしている侍がホームレスのような匂いを発散しているのはね。それと清兵衛だけが極端に貧相なんですよ。清兵衛と同じような小禄の藩士は他にもいると思うがなァ。

 二つめは、上意討ちに行った目付けが、一人で乗り込んで、あっさり斬られたこと。やはり、映画的には小者を2〜3人率いて乗り込み、全員斬られ、他の役人は怖れをなして屋敷を取り囲んで様子を見る、というようにして欲しかったですね。要するに、もっとチャンバラ・シーンを見たかったに過ぎないんですが。

 私は、チャンバラの面白さは、本当らしいホントを見せるのでなく、本当らしいウソを見せることにあると考えているもので、人間ドラマが良かっただけに、チャンバラにもう一工夫が欲しかったと考えるわけで〜す。

※時代劇ファンの評判になり、メディアも誉めそやしたことから、公開後1ヶ月頃から観客が増え、大ヒット作となりました。

 

『隠し剣/鬼の爪』(2004年・松竹)

海坂藩の下級武士・片桐宗蔵(永瀬正敏)は、以前自分の家に奉公していた娘きえ(松たか子)と再会し、そのやつれた姿に驚く。きえは商家の伊勢屋に嫁いていたが、ひどい待遇を受けていた。きえが病気だと聞いて宗蔵は伊勢屋に乗り込み、きえを連れ帰る。回復したきえと貧しいながらも楽しい毎日を送っていた時、江戸屋敷での謀反の報せがはいる。首謀者の一人・狭間弥市郎(小澤征悦)と宗蔵は戸田道場の同門だった。その弥市郎が牢獄から脱走し、家老の堀(緒形拳)から宗蔵に討手の命が下る。弥市郎は藩内随一の使い手だったが、宗蔵は戸田寛斎(田中泯)から秘剣“鬼の爪”を伝授されていた。弥市郎の妻(高島礼子)が堀に夫の命乞いをするが、指令は変わらなかった。宗蔵は弥市郎と立会い……

幕末の東北の小藩を舞台にした藤沢周平の時代小説を山田洋次が監督した映画化第2弾。山田洋次監督は、良い悪いは別にして彼独自の時代劇映画を確立しましたね。

前作の『たそがれ清兵衛』でも気になったのですが、この作品でも主人公だけが月代が伸びています。貧乏藩士の主人公を特徴づけるためかも知れませんが、門番ですらキレイに月代を剃っているのに、考証的にこれはおかしいですよ。山田流リアリズムなんですかね。

松たか子を苛める伊勢屋の女将が光本幸子で、最初わかりませんでした。“寅さん”の初代マドンナの記憶が鮮明に残っていたものですから。しかし、これが巧いんだなァ。

それと、『たそがれ清兵衛』で存在感をしめした田中泯が、この作品でも一番サムライらしかったですね。姿勢が良いので、立回りが綺麗に決まっていました。山田時代劇には無くてはならない存在になっています。

満足できる時代劇ということで、次回作にも期待したいで〜す。

 

『武士の一分』(2006年・松竹)

免許皆伝の剣の腕前を持つ下級藩士・三村新之丞(木村拓哉)の城での仕事は毒見役。美しい妻・加世(檀れい)や老中間・徳平(笹野高史)と平和な暮らしを送っていた。彼の夢は、早く隠居して子供たちに剣術を教えることだったが、お役目中、赤つぶ貝の毒に当り失明する。新之丞の家禄を存続するために親族会議が開かれ、加世が顔見知りの番頭(バントウでなくバンガシラ)の島田藤弥(坂東三津五郎)に口添えを頼みに行くことになる。三村の家名は存続、家禄もそのままという寛大な処置がなされるが、新之丞の姉(桃井かおり)が加世と島田が水茶屋に出入りしているという噂を知らせにくる。加世は島田に代償を求められて体を許したのだが、調べると寛大な処置は藩主自身の考えによるもので、島田は何もせずに加世の体を奪ったのだ。新之丞は剣術の稽古に励み、島田に決闘を挑む……

藤沢周平の小説を映画化した山田洋次監督の時代劇三部作の締めくくりの作品。

前二作が夫婦愛を描くとともに、政争のために藩から命令されて刀を抜かざるをえなくなった主人公の苦悩(武士社会の不条理性)が描かれていたのに対し、今回は一分(面目)のための決闘といった単純なものになっています。

ハンデを負って決闘に臨むというのは、西部劇の決闘に似たところがありますね。

評判通りキムタクは好演しているし、初めて見た檀れいも悪くないですが、何といっても脇を固めるキャスティングが抜群でしたね。老中間の笹野高史、責任をとって切腹する小林稔侍、医者の大地康雄、お喋り姉の桃井かおり、そして敵役の坂東三津五郎。この作品が成功するかどうかは、主人公よりも悪役の演技の方が重要です。表面的には上級武士としての品があって、内面に卑しさを持つ役柄ですからね。坂東三津五郎の品のある悪役は最適でした。

 

 

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