戦前のチャンバラ映画


『南国太平記』(1937年・東宝/監督:並木鏡太郎)

直木三十五原作の映画化。島津藩の当主斉興(上田吉次郎)はおゆらの方を寵愛するあまり、世子・斉彬(大河内伝次郎)が40歳になっても家督を譲らず、おゆらの子である久光に継がせたいと思っていた。おゆらの方は兵道家の牧仲太郎(進藤英太郎)を使って斉彬の調伏を行う。斉彬の子が次々の呪札され、斉彬を敬慕する仙波小太郎(黒川弥太郎)や益満休之助(大河内伝次郎の二役)がおゆらの方の陰謀を阻止しようとするが……

何度か映画化されているし、テレビ化もされているので概要は知っていましたが、この作品は尻切れトンボに終わっています。大河内伝次郎の東宝入社第1回作品なのですが、内容が散漫な上に唐突的な終わり方は三村伸太郎の脚本とは思えませ〜ん。

 

『柘榴一角』(1941年・大都/監督:白井戦太郎)

江戸市中にニセ金が出回り、老中から佐久間権太夫(阿部九州男)に探索が命じられる。権太夫は凄腕の隠密で、彼の調査によりお家断絶した池田輝行(近衛十四郎)が仇として狙っていた。権太夫の息子・一角(阿部九州男の二役)は、弓道場で輝行と知り合い親しくなる。輝行と会った権太夫は、調査の間違いに気づき、池田家のお家再興を老中に進言し、輝行に討たれるつもりだった。しかし、権太夫はニセ金一味に殺され、一角が犯人を追う……

この映画を懐かしく思う人は、何人生存されているか分かりませんが、戦前の映画ファンで〜す。何しろB級チャンバラ映画ばかり作っていた大都の作品ですからね。

私は初めて観たのですが、もっとチャンバラ・シーンがあるかと思ったら意外と少なかったですね。クライマックスでの火事場のシーンなど、娯楽映画らしい盛上げ方で大都映画の一端を窺い知ることができました。阿部九州男が、東映時代劇からでは想像できない二枚目ぶりを見せていま〜す。

 

『維新前夜』(1941年・東宝/監督:渡辺邦男)

桜町公子

ペリーの来航により国内が騒然としている時、水戸の藤田東湖(月形龍之介)は大政を朝廷に奉還し、日本国をひとつにして国難にあたらなければならないと説く。大奥を牛耳る歌橋の局(沢村貞子)に、奸物として東湖を討ち取るように命じられた千葉周作の娘・真葛(桜町公子)は東湖を襲うが、東湖の弟子の小谷虎ノ介(黒川弥太郎)に遮られる。虎ノ介は千葉道場に真葛を訪ね、東湖の理論が正しいことを説く。真葛は真偽を確かめるために東湖に弟子入りし……

藤田東湖が主人公の時代劇を初めて見ました。“維新前夜”よりかなり前の話ではありませんか。テーマとしては尊皇攘夷で、太平洋戦争が始まる年の作品なので時代にマッチしていますけどね。

大政奉還を唱えたのは坂本龍馬だけど、映画だからマアいいか。それに月形龍之介だから、藤田東湖のチャンバラの強いこと、強いこと……目がテンになりましたよォ。

それにしても、宝塚スターの桜町公子さんが美麗だったなァ。

 

『嵐に咲く花』(1940年・東宝/監督:萩原遼)

山田五十鈴

蜆平九郎(黒川弥太郎)は福沢諭吉(大河内伝次郎)の塾で学んでいたが、武士としての生きがいを見つけるために会津戦争に参戦する。二本松の戦いで眼を負傷した平九郎は、猪苗代の温泉宿で増水けい(山田五十鈴)と知りあう。増水家は二本松の旧家だったが、官軍の攻撃で避難してきていたのだ。二人は互いに心惹かれあうが、平九郎から兄と弟の最期を聞いたけいは、農民たちのために平九郎の眼が治る日に二本松へ戻る。それから数年後、横浜で平九郎とけいは再会するが……

混乱の維新を背景にした歴史メロドラマ。山田五十鈴が黒川弥太郎と別れ、スネル夫妻と会津の百姓たちを連れてアメリカに渡るところで映画は終わるのですが、彼らが入植したのが“若松コロニー”なんですね。結局事業は失敗するのですが、最初の日本人移民として歴史に名を残しています。

それにしても、山田五十鈴はやっぱり美人だ。

 

『川中島合戦』(1941年・東宝/監督:衣笠貞之助)

上杉謙信(市川猿之助)と武田信玄(大河内伝次郎)の有名な合戦を、謙信軍の荷駄隊の雑兵(長谷川一夫)を中心に描いた作品。

エキストラや馬を大量に使った大作ですが、武将を主人公にしなかった為に、合戦シーンが盛り上がりに欠けます。

音楽が山田耕作となっていますが、劇中では音楽は殆ど流れず、印象に残りませ〜ん。

若き日の殿山泰司を見ることができたので満足しますか……

 

 

 

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