チャンバラ活動大写真


目玉の松っちゃん

尾上松之助は“目玉の松ちゃん”の愛称で呼ばれた映画創生期のスーパースター。生涯千本の映画に主演したと云われています。“目玉の松ちゃん”と云われるくらいなので、目が大きいのかと思いましたが、特別目玉が大きいわけでありません。歌舞伎でいう見得を切った時に目が鋭くなり、その迫力が観客に強い印象を残したからでしょうね。

 

『渋川伴五郎』(1922年・日活/監督:築山光吉)

飛入り相撲で柔を使った渋川伴五郎(尾上松之助)は、柔の師匠である父・播竜斎から勘当される。しかし、相撲取りの喧嘩を仲裁したことが有馬家・殿様の耳に入り、殿様の肝いりで勘当が許される。伴五郎が有馬家の所領で暴れまわっている大蜘蛛の妖怪を退治している時、播竜斎は卑怯者の黒崎典膳と水上武太夫に闇討ちされる。伴五郎は父の仇をもとめて……

歌舞伎調の立回りですが、ピタリと型が決まっていて様式美を感じます。大蜘蛛との闘いなんて、最近の映画では見られない楽しさがありましたよ。チャンバラ・ファンとしては見ておく必要のある作品といえま〜す。

 

『豪傑児雷也』(1921年・日活/監督:牧野省三)

児雷也(尾上松之助)が父の仇を関東公方の前で討ち取る物語。日本映画初期のトリックがふんだんに見られて愉しい作品です。児雷也が空を飛んだり、パッと消えたり、大蝦蟇に化けたりとかね。

昔の子供はこれを見て興奮したのでしょうが、今の子供は馬鹿にするだけでしょうね。だけど、縫いぐるみの蝦蟇なんて長閑でユーモアに溢れていていいもんですよ。

この映画を観て思ったのですが、サイレントの洋画と比べると出てくる字幕が極端に少ないですね。これは、弁士がセリフを喋ることを前提に作られているからでしょうね。

 

 

『剣聖荒木又右衛門』(1935年・極東/監督:仁科熊彦)

羅門光三郎

雲助に絡まれていた浪人を助けた荒木又右衛門(羅門光三郎)の様子を見ていた池田藩士・渡辺靭負は、娘を又右衛門の嫁にと考え、江戸で道場開設の手助けをする。柳生流の表札を掲げたことから、将軍指南役・柳生飛騨守に呼び出され、飛騨守と立ち会うことになるが、それは又右衛門の師匠である十兵衛の秘太刀を飛騨守に伝えるためだった。又右衛門の評判は江戸城中にも有名になり、姫路の本多家に又右衛門は召抱えられる。渡辺靭負の娘と結婚して1年後、靭負は町人をいたぶっていた河合又五郎を止めに入って、又五郎に斬られる。又五郎は大名と敵対関係にある旗本のところへ逃げ込む。又右衛門は弟・数馬の助太刀をすることに決め、その旗本屋敷に乗り込み、又五郎に数馬の仇討に応ずるように告げる。旗本たちは36人の護衛をつけて又五郎を九州へ逃がすが、伊賀上野で又右衛門と数馬は仇討を行う。

講談ネタの話が、次々と展開していきます。サイレントでセリフがないので、展開が早いんですね。

チャンバラ活動大写真の面白さは立回りにあるのですが、主演の羅門光三郎以下、見事なチャンバラを見せてくれます。飛んだり跳ねたりと、動きにスピードがあるんですね。屋根にいる敵を跳び上がって斬り払うシーンは、見たことのない殺陣でした。

チャンバラ映画の活気が満ち溢れた、ドラマよりもチャンバラを楽しむ作品で〜す。

 

『沓掛時次郎』(1929年・日活/監督:辻吉朗)

一宿一飯の義理から六田の三蔵を斬った沓掛時次郎(大河内伝次郎)は、三蔵の頼みで女房おきぬ(酒井米子)と息子・太郎吉の面倒をみることになる。旅から旅の窮乏生活の果て、おきぬの出産費用捻出のため喧嘩の助っ人を引き受けるが、おきぬは難産のために死んでしまう。時次郎は太郎吉を連れて旅へ……

“沓掛時次郎”の最初の映画化。戯曲をシナリオ化したためか字幕が多くスピード感に欠けますが、情感あふれる作品になっています。

辻吉朗の演出は妙にリアルで、旅ぐらしの哀歓と無常観がよく出ていました。路銀を稼ぐために、時次郎とおきぬが流しをするのはどの作品にも出てきますが、三味線が行き倒れになった鳥越からの頂き物とは知りませんでした。あんな窮乏状態では、三味線なんか買う金はありませんからねェ。

劇中に流れる「沓掛小唄」は、この映画の主題歌なんですが、封切前に発売されたそうで当時は劇場でレコードをかけていたのですかね。

 

『砂絵呪縛』(1927年・マキノ/監督:金森万象)

5代将軍綱吉の時代、次期将軍職に紀州の綱教を推す御影組と、甲府の綱豊を推す天目党の間で熾烈な暗躍が繰り返されていた。御影組一味の贋金作り・黒阿弥を天目党の勝浦孫之丞(月形龍之介)が捕らえるが、御影組の副首領・鳥羽勘蔵は浪人・森尾重四郎に手伝わせて、天目党の首領・間部詮房の娘・露路を誘拐する。黒阿弥の娘・お酉が、孫之丞に近づき……

原作は土師清二の新聞小説で、朝日新聞に1927年の6月10日から12月31日まで連載されたのですが、連載中に映画会社4社が競作しているんですよ。物語が完了していないので、マキノ、日活、東亜の3社は勝浦孫之丞を主人公にしたのに対して、阪妻プロだけが森尾重四郎を主人公にしました。

結果としては美男剣士の勝浦孫之丞より、バンツマの魅力もあったのでしょうが、世の中に背を向け、生きがいを感じるのは人を斬る瞬間というニヒルな森尾重四郎の方へ人気が集中しました。月形も美男剣士よりニヒルな浪人の方が似合っていたような気がします。

 

錦絵江戸姿 旗本と町奴』(1939年・新興/監督:森一生)

1939年の作品ですが無声映画。弁士は松田春翠。

旗本の生活を嫌って町奴となった朝日奈三郎兵衛(市川右太衛門)の兄に、大久保彦左衛門の口ききで縁談が持ちあがる。相手は、三郎兵衛が花見のおりに横恋慕している不良旗本から救ってやった娘だった。娘は、その時から三郎兵衛を恋しく思っており、一方、兄には腰元に相思相愛の恋人がいて……

ケンカばかりしているが、実は仲の良い兄弟の恋模様。現代感覚からすると古臭い男女関係となるのですが、それが微笑ましいんですな。こういうノドカな時代劇も良いものです。

それから、伴淳三郎が右太衛門の子分役で出演していましたが、その他大勢でなく、出番の多い役だったので意外な気がしました。私は、バンジュンは戦後の役者だと思っていましたからね。

 

 

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