月形黄門


水戸黄門(1957年・東映/監督:佐々木康)

昔、東映時代劇が全盛だった頃、盆と正月といえばオールスター映画が上映されていました。人気スターが全員出演しているんですから、映画館は超満員。座って観るには、開場2時間以上も前から並んでいましたよ。

題材は定型化していて、“忠臣蔵”に“清水の次郎長”、それに“水戸黄門”でした。登場人物が多くても、物語はわかりやすく、単純な勧善懲悪映画。映画の内容なんかどうだっていいんです。お気に入りのスターが顔を見せてくれて、そこそこ活躍するだけで楽しいんですから。

芸術性とは無縁の娯楽映画、それがオールスター映画でしたね。

この作品は月形龍之介の映画生活30周年を記念して製作されました。月形黄門の11作目で、お盆映画でした。

黄門さんが、将軍綱吉の“生類憐れみの令”の間違いを指摘するため、犬の毛皮を綱吉へ贈る冒頭シーンがカッコいいんですよ。江戸に入った黄門さんは、高田藩のお家騒動に巻き込まれ、その背後に幕府の重役たちの不正があることがわかり、政道を糺すために活躍します。原作は直木三十五。

歴代の水戸黄門の中で、月形龍之介が最高ですね。市井のご隠居姿であっても、副将軍としてのカンロク、気品がにじみ出ていますからね。“葵の紋”の御守り袋(この映画では、印籠ではありません)を見せただけで、本物の黄門さんだと皆が納得するんですよ。月形龍之介を超える黄門役者は、これから先も出てこないでしょう。

水戸黄門について、月形龍之介は『時代映画』(昭和33年2月1日号)で次のように語っています。「僕が黄門をやり出してから、もう2〜30度にもなるが、創造した英雄というよりは、僕が心から敬愛している英雄、それが水戸黄門である」

この作品には、私のお気に入りの大友柳太朗も出演しているんですが、全然目立たないんですよ。チャンバラシーンもないし、大友柳太朗の持ち味の一片すら出ていません。柳太朗ファンとしては、少し不満が残りました。

 

水戸黄門(1960年・東映/監督:松田定次)

昭和35年のお盆映画。もちろん、東映オールスター映画ですよ。だけど、顔見世だけに終わらず、内容のしっかりしたものになっています。小国英雄の脚本がいいからでしょうね。

江戸の町に放火による火事が多発します。不逞浪人によるテロ活動とにらんだ黄門さんが江戸にやってくるんですよ。居酒屋で土コネ浪人の井戸甚左衛門(大友柳太朗)と知り合い、彼の長屋に泊まることになります。

前回(57年の『水戸黄門』)の大友柳太朗は持ち味が出ていませんでしたが、今回はいいですよ。善人の見本みたいなズーズー弁(セリフまわしに難があるのでの大友流ですけど)の浪人役なんですよ。大友はんみたいな人ばかりだったら、住みよい世の中になるんですけどねえ。

長屋へ戻ると、甚左衛門の家に灯りがついており、彼の友人である糸路の兄が殺されています。甚左衛門は犯人と間違われて奉行所へ連行されます。そこへ火消しの頭・放駒の四郎吉(中村錦之助)が駆けつけてきます。

中村錦之助の威勢のよい演技が抜群。江戸弁を喋らせたら錦之助の右に出る者はいませんね。錦之助と柳太朗の掛け合いがこの作品の売りで、最高に可笑しいんですよ。

結局、慶安事件の由比正雪の副将だった金井半兵衛の子供の将監(山形勲)が、江戸を火の海にして江戸城を攻撃しようと考えていたんですね。まともに考えたら無謀なんですけど、山形勲が言うと何故か説得力がある。それで、秘密を漏らす恐れのある糸路の兄を殺したんですよ。糸路も軍資金の提供者である材木問屋の岸屋に、人質同様に奉公人として住み込ませます。

全ての謎を解いた(謎というほどのものではありませんが)黄門一行と、甚左衛門が悪の棲み家に乗り込んで大チャンバラ。大友柳太朗の立ち回りは毎度のことながら、大きな構えでカッコいい。それと、ほんの少ししか登場しないのですが、水戸藩士になった戸上城太郎が一瞬のうちに敵を斬りふせる立ち回りの早いこと。月形黄門の杖と小太刀を使った立ち回りも見事。チャンバラを見ているだけでも楽しいですよ。

 

 

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