時代劇復活?


『どら平太』(2000年・「どら平太」製作委員会/監督:市川崑)

黒澤明、木下恵介、市川崑、小林正樹からなる“四騎の会”が残した脚本を映像化。

“堀外”と呼ばれる犯罪地帯の浄化のために、江戸から城地の町奉行として赴任してきた望月小平太(役所広司)は、酒にバクチ、女遊びが大好きで“どら平太”と呼ばれていた。彼は奉行所に出所することなく、単独で“堀外”の調査を行い、そこを牛耳る3人の親分と、癒着する悪徳藩士を追いつめていく。

久しぶりの本格時代劇で、期待通りの出来となっていて、評価は高いですが、チャンバラ映画全盛時代の作品と比較しますと、取りたてて優れているとは思えませんねェ。

同じ原作を映画化した1959年の三隅研次監督の『町奉行日記・鉄火牡丹』と比べると、内容的には市川版の方が格段に優れている(三隅版は、ラストでむりやりチャンバラシーンを出したためにストーリーが破綻しているし、主人公も勝新より役所の方が出来はいい)のですが、チャンバラ映画の醸し出す雰囲気は三隅版の方が上なんですよ。出演者が、その他大勢に至るまで、時代劇の所作動作が身についていました。これを現在の俳優さんに要求しても無理なわけで、監督の演出だけでは越えられないカベのような気がします。

 

『雨あがる』(1999年・アスミック/監督:小泉堯史)

武芸の達人で、人の好い浪人・三沢伊兵衛(寺尾聡)と妻・たよ(宮崎美子)は、長雨のため宿場に足止めされていた。彼らが泊まる安宿には、雨があがるのを鬱々と待つ大勢の人たちがいた。心根の優しい伊兵衛は、賭け試合で金を得、貧しい人たちに大盤振る舞いをし、人々の心を和ませる。ある日、侍同士の果し合いを止めた伊兵衛は、城主の重明(三船史郎)の目にとまり剣術指南役登用のための御前試合に赴くが……

原作は山本周五郎の短編小説。黒澤明の遺稿脚本を、28年間助監督として黒澤明を師事した小泉堯史が、黒澤組スタッフとゆかりのキャストに支えられて初監督した心温まる時代劇。

町道場主たちとの決闘シーンで、『椿三十郎』のような血しぶきは不要でしたね。血をみせないチャンバラにしたら、時代劇の復活を感じることができたんですが……

見かけは平凡だが、剣を取ると達人という浪人を寺尾聡を好演。立回りも充分に稽古が積まれており満足。三船史郎は親父の三船敏郎ソックリ。あまりに仕種を似せているので笑ってしまいました。しかし、何といっても一番は宮崎美子。あのふくよかさには、大満足。オリンパス・カメラのCM「ピカピカの君は光って〜」の頃から、私のお気に入りだったんですよ。

 

『梟の城』(1999年・「梟の城」製作委員会/監督:篠田正浩)

原作を忠実に映画化したことで、焦点がボケてしまい散漫になった感じです。秀吉が登場するシーンに、それほど時間をかける必要があったか……

CGを駆使した映像には見るべきところはあるのですが、チャンバラ映画の面白さとは別物ですね。信長の伊賀攻めシーンは確かに迫力がありましたよ。だけど、1963年の東映作品と比較するとチャンバラの香りがしないんですね。

黒澤明が『椿三十郎』で血しぶきを見せて以来、血しぶきがチャンバラの魅力と勘違いしているのではないでしょうか。チャンバラの魅力は立回りにあるのであって、もう一度原点に戻って、チャンバラそのものの面白さを追求しないことには、時代劇の復活はないような気がします。

 

『助太刀屋助六』(2002年・日活/監督:岡本喜八)

仇討の助太刀をして稼いだ金で、母親の墓をリッパにしようと故郷へ帰ってきた助六(真田広之)は、関八州の役人が総がかりで助太刀をするという大掛かりな仇討に出くわす。しかし、討たれる相手は老武士(仲代達矢)一人だけ。その老武士が助六の父親とわかり……

岡本喜八監督らしい作品ですね。プロローグで喜八映画の顔馴染がカメオ出演しており、嬉しくなりますよ。ストーリーは単純だし、テーマも今日的でないけど、役者の個性を引出すことで成功しています。
 真田広之は『陰陽師』よりも、こちらの方が持ち味が出ています。身体が軽く、立回りの動きも良いし、どんどんチャンバラ映画に出演して欲しいですね。鈴木京香が予想外の上出来。ダイコンになるか、ならないかは監督の腕によるのでしょうかねェ。そして抜群だったのが岸部一徳。岸部一徳ならではの味わいある演技(真面目に演技するだけで可笑しい)でした。「全部で行くことはないだろう、2〜3人置いていけえ」には、笑ってしまいましたよ。

それから、敵を一人ずつ倒していくラストの立回りは、西部劇の決闘を意識した感じです。喜八監督は西部劇が好きですからね。スペンサー・ライフルが出てきたときには、思わずニンマリしましたよ。

 

『座頭市』(2003年・松竹/監督:北野武)

ヤクザの銀蔵(岸部一徳)と、商人の扇屋が支配する宿場町に座頭市(ビートたけし)がやって来る。市は手助けした百姓女(大楠道代)の家に腰を落ち着けるが……

町にやって来た浪人夫婦(浅野忠信、夏川結衣)と旅芸者の姉弟(大家由祐子、橘大五郎)の過去をフラッシュ・バックで描くシリアスな部分と、金髪座頭市や下駄タップといった飛んでる部分がリンクしておらず違和感を持ちました。

カツシンの座頭市を超えるには、金髪や下駄タップは否定しませんが、やるなら徹底して欲しかったですね。畑を耕す鍬の音のリズムにあわせて市が歩いたり、音楽に乗ってチャンバラをするとかね。

殺陣は映像処理でごまかしていましたが、カツシンのような動きのある立回りは端から無理なので許しましょう。伊藤大輔の“丹下左膳”を超えるために、『百万両の壷』で“丹下左膳”をスクリューボール・コメディした山中貞雄のような、思いきった発想の転換が欲しかったなァ。

 

 

 

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