(RIDE WITH THE DEVIL)
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(スタッフ) 原 作:ダニエル・ウッドレル 脚 色:ジェームズ・シェイマス 撮 影:フレデリック・エルムズ 音 楽:マイケル・ダナ (キャスト) ジャック・ブル・チャイルズ……スキート・ウーリッチ ダニエル・ホルト ……ジェフリー・ライト スー・リー・シェリー ……ジュエル ピート・マッキーソン ……ジョナサン・リース・マイヤーズ ブラック・ジョン ……ジム・ガヴィーゼル ジョージ・クライド ……サイモン・ベイカー (2001年2月3日 日比谷シャンテ) |
(解 説) 1863年8月21日未明、クアントレルに率いられたブッシュワッカー(南軍ゲリラ)450人がカンザス州ローレンスの町を襲撃し、150以上の建物を破壊し焼き払い、180人以上の住民を殺戮します。この4時間におよぶ掠奪事件は、
“セント・ローレンスの虐殺”として南北戦争中の有名な出来事で、アメリカ西部劇史上に名を残しています。 この史実が映画の背景として登場するだけで、私にとって『楽園をください』は西部劇になります。 |
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物語は南北戦争が始まった直後(1861年)のカンザス州境、ミズーリの小さな村から始まります。ジェイクとジャック・ブルは幼なじみの親友。ジャックの父親がジェイホーカーズ(北軍ゲリラ)に殺され、ジェイクとジャックはブッシュワッカーに加わります。 南北戦争開始前、ミズーリは奴隷制度を持った奴隷州だったんですね。ところが、南北戦争が始まると、北部・合衆国側につきます。ミズーリが南と北の境界州として位置していたため、奴隷制度に反対する人もいたわけです。そのため、ミズーリの住民はバラバラになり、住民同士が敵対するという最悪の状態になります。 ことを優位に進めるためは、相手側の人数を減らすという過激な方法がとられ、カンザスの北軍ゲリラ・ジェイホーカーズが奴隷制度賛成の住民を襲撃します。このジェイホーカーズに対抗して組織されたのがブッシュワッカーという南軍のゲリラ部隊でした。 歴史的にみると、このブッシュワッカーもやがて政治的信条を失っていき、凶悪な野党集団になりさがるのですが……。 |
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1年後、ブラック・ジョンが率いるブッシュワッカーの一員となったジェイクとジャックは、仲間(ジョージと彼によって奴隷から自由人になった黒人のホルト、冷酷な殺し屋ピート)たちとジャックの父を殺したジェイホーカーズを襲って仇をとる。 しかし、北軍の追求は厳しく、援助してくれていた南軍親派のエヴァンス一家がジェイホーカーズに襲われた時、救出にいったジャックは腕を負傷し、一命を落とす。 北軍派だったジェイクの父も息子が南軍ゲリラに加担している理由で殺されており、今また親友を失ったジュークは北軍をもとめてローレンスの町の襲撃に参加する。 しかし、町には北軍の姿はなかった。無抵抗の住民を殺害し、掠奪を行なうことを潔しとしないジェイクとホルトは、ピートの残虐行為を止めるが、逆に命を狙われることになる。 |
ピートの銃弾に傷ついたジェイクとホルトは、ジャックの恋人だったをスー・リー預かってもらっているブラウン牧場で養生する。そして、ジェイクとスー・リーの間に恋が芽生え、二人は結婚し、テキサスへ母を捜しに行くというホルトとともにカルフォルニアに向けて旅立つ。 そして、彼らは途中でピートに出会い…… |
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西部劇として分類するならば、この作品は南北戦争ものの、『騎兵隊』や『グローリー』のような“軍人”ものでなく、『友情ある説得』や『シェナンドー河』と同じような“庶民巻き込まれ型”南北戦争ドラマになるんでしょうね。だけどこの作品から“西部劇らしさ”や“西部劇の臭い”をあまり感じないんですよ。確かに背景は西部劇の世界なんですけど。 “西部劇らしさ”は、西部劇の約束事といってもいいかもしれません。この作品におけるジェイクとピートは味方同士であっても敵対関係にあります。敵対関係の決着方法はひとつしかないんですが、ラストでは見事に裏切られてしまいました。観ていて「あれえ、それはないだろう」という感じなんですよ。 この作品で“西部劇の臭い”がしたのは、ジャックの女性に接する態度でした。南部気質丸出しで、ジョン・フォードの『駅馬車』に出てくる賭博師を思い出しましたよ。 それと、スー・リー役のジュエルがいいですね。土の臭いのするカントリーガールがよく似合っていました。映画初出演とは思えない彼女の存在が西部劇の雰囲気を醸し出していました。新天地に住みついたら、『シェーン』のジーン・アーサーのような良妻賢母になるんじゃないかと、ふと思いましたよ。 |
私は『楽園をください』を西部劇の観点からみてきましたが、アン・リー監督の狙いはそんなところにあるんじゃないんですよね。 台湾出身のアン・リー監督は、同国内の異邦人という視点を重視していますね。この映画にはそれを象徴する二人の人物が登場します。一人は主人公のジェイクです。彼はドイツ系アメリカ人です。南北戦争当時、ドイツ系アメリカ人は北軍派でしたが、友情と生まれ育ったミズーリのため、南軍として戦います。 もう一人は黒人のホルトです。彼は奴隷でしたが、自由にしてくれたジョージ・クライドのため南軍として戦います。彼らは、南軍仲間から時として“ドイツ野郎”、“ニガー”という侮蔑的な言葉をはかれます。二人とも南軍では“よそ者”なんですね。こうした人物設定は、アメリカの白人監督では描けない世界だと思います。アン・リーもアメリカ人社会にあって“よそ者”扱いされたことがあるんじゃないですかね。 パンフレットのインタビューで監督自身が語っているように、“よそ者”が真の自由をつかむために闘う物語、それがアン・リー監督の狙いだったと思います。 |