(The Claim)
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(スタッフ) 監 督:マイケル・ウィンターボトム
原 案:トーマス・ハーディ(『カスターブリッジの市長』)
脚 本:フランク・コトレル・ボイス
撮 影:アルウィン・カックラー
音 楽:マイケル・ナイマン
(キャスト) ダルグリッシュ :ウェス・ベントレー
ルシア :ミラ・ジョヴォヴィッチ
エレーナ :ナスターシャ・キンスキー
ダニエル・ディロン:ピーター・ミュラン
ホープ :サラ・ポーリー 2000年/イギリス=カナダ合作
スコープ・サイズ/カラー/2時間1分
2002年12月14日 シネマスクエア東急 |
(解 説) 1867年、カリフォルニア州シェラネバダの鉱山町キングダム・カムへ二人の女性(母娘)がやって来る。母のエレーナは病を患っており、余命はいくばくもない。金鉱の採掘により町の富と権力を一手に握っているかつての夫ダニエル・ディロンへ、娘のホープために必要なお金を要求にきたのだった。 ディロンは、金鉱の採掘権との交換で、エレーナと当時赤ん坊だったホープを売ったという心の傷を持っていた。愛人のルシアと別れ、ディロンはエレーナに改めて求婚する。
一方、ホープは、鉄道建設のために町にやってきた測量隊の技師・ダルグリッシュと知り合い、お互いに心が惹かれ合う。測量の結果、鉄道はキングダム・カムを通らないことが決まり、ディロンと別れて傷ついていたルシアは、ディロンからの手切れ金を元手に鉄道の近くに土地を買い、娼婦たちを引き連れて測量隊とともに町を出て行く。町の住民たちも後に続き、鉄道の近くに新しい町作りを開始する。
エレーナに死期が訪れ、ホープもダルグリッシュを追って、ディロンのもとを去る。キングダム・カムの町に、ディロンがひとり佇み…… |
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この映画は、“人間の愛と憎しみ、出会いと別離、傲慢と贖罪、希望と再生”(パンフに書かれた解説の文言をそのまま引用)を描いた人間ドラマであるとともに、
“ゴールド・ラッシュ”と“鉄道建設”という、西部開拓史における大きな出来事を描いた西部劇ともいえます。 1848年、サクラメント川で良質の砂金が発見され、サンフランシスコの住民は金を求めてこの地方へ殺到し、太平洋岸各地の人々も押し寄せてきて、カリフォルニアのゴールド・ラッシュがはじまります。噂は電光のように東部へ、そして、世界の各地に伝わり、翌49年には、かぞえきれない幌馬車の列が、荒野を突破し、ロッキーの険しい山々を越えてカリフォルニアを目指しました。何百隻もの船が“金鉱探し”の人々を満載して、サンフランシスコへ入港してきます。これらの人々が有名な“フォーティ・ナイナーズ”です。 ディロンもおそらくフォーティ・ナイナーズの一人で、アイルランドから金鉱を求めてアメリカへやってきたのでしょう。そして多くのフォーティ・ナイナーズがそうであったように、黄金の夢が破れて妻子とさまよっていた時に、富は得たものの孤独感から家族愛に飢えていた男と出会うんですね。 |
金の採掘権と交換にエレーナを得た男は幸福だったかもしれません。金を掘り当てても、大金持ちの夢が実をむすんだ人は、ほんの一握りだったと云われています。たいていの人は、ハデに使いはたしたり、騙されたり、命をもろとも奪われたりして、悲劇的な結果を招いているんですよ。 ディロンは、妻子と引き換えに、破れかけていた夢を実現しますが、鉄道建設という大事業の中で、夢が破れた男として最期を遂げます。
鉱山町として発展したキングダム・カムも、1867年頃には、おそらく金をとりつくしていて、これから先の発展はおろか、衰退がディロンには予想がされていたと私は思うんですよ。 |
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そこへ、鉄道建設の測量隊がやってきます。鉄道建設にあたっては、普通、約1千人の労働者が組みとなって飯場を作りますから、飯場の近くの町は経済的に潤うことになります。特に、酒場と売春宿は大盛況となります。そして、多くの人が町に住みつき、労働者が移動しても、そこは沿線の都市として発展していくわけです。ディロンが鉄道に夢をたくしたのが、わかるでしょう。 しかし、鉄道がキングダム・カムを通らないことに決まり、測量隊とディロン率いる町の男たちが銃を構えて睨み合います。これに似たことは史実でも、結構あったんじゃないですかね。
酒場と売春宿の権利をディロンから引き継いだルシアが町を出て、鉄道の近くに移るのは当然で、住民たちも町を見限って、新しい職場を求めて出て行きます。
ディロンは、めぐりあえた家族を再び失い、自分が築いた町も失います。富は得たものの孤独感で情熱をなくして、金の採掘権を交換した男と同じ境遇になるんですね。違っていたのは、愛を与えてくれる人間が、もう現れなかったこと。
結局、早いか遅いかの違いだけで、ディロンもゴールド・ラッシュの犠牲者かもしれません。 |