◆ドン・キホーテ
スペインの作家セルバンテスの作品、ドン・キホーテの主人公は作者の生き写しだという。
初老で古い甲冑に身をつつんだ主人公は、旅先のあちこちで嘲笑に見舞われる道化師役を演じていた。
そんなドン・キホーテは、シェークスピアの作品中のハムレットと同じく、ヨーロッパ文学作品の典型的登場人物と並び称されていると言う。今回はそんなドン・キホーテの名を冠したディスカウントショップのお話。私の住む小平市内にもこのほど新店舗が誕生したので、早速行ってみることにした。
府中街道沿いにあるこのお店へは、私は珍しく徒歩だった。店に近づいてまず気付いたのは「ドン・キホーテ開店反対」の看板がやたらと多いこと。まるでフーゾク関係のお店が出来るかのような、地元住民の毛嫌いぶりに驚かされる。
小平市の行政は街の景観を保つのにかなり労力をかけているようで、電柱に貼られた宣伝広告等はすぐに撤去してしまう。開店反対の看板は明らかに違法な掲示なのだが、しかしそれらの看板が撤去されることはないようだ。ドン・キホーテは深夜営業がウリの店だが、小平に出店している店は深夜1時まで。どうやら地元住民にかなり気を使っているかのようだ。
とはいえ付近にある同様の大型店舗は、午後9時閉店が平均的なので、営業時間帯は突出して遅い。やはり地元住民には迷惑な存在なのだろうか?店に入ってみると、店内全体に雑然と品物が置かれているのに驚ろかされる。
まず品物のレイアウトの関連性が弱く、同じような商品が店内の数ヶ所に分けて置かれていることも珍しくない。
また客が通る通路にも、商品が山積になっている場所があり、そこは当然通行止め。店内はあたかも迷路のよう、と言ってもあながち誇張ではない。なんでも創業者のお話しによると、ドン・キホーテは深夜営業を前提にした時間消費型の小売店なのだそうだ。
深夜営業の店舗は、昼間営業の店舗とは客層が180°違うという。昼間の客層は商品を求めるのに対して、深夜営業は時間を消費しに来ているのだという。
そんな時間つぶし目的の客層への演出が、あの雑然とした分かりにくいレイアウトなのだと言う。そんなお店、今まで聞いたことがない!店内の品物は確かに安い。新品のCDが¥2500ほどで売られているのを見て、何だかキツネに包まれた気分になる。CDは再版制度のおかげで定価売りされている商品だよね!?一体全体、どういう流通経路で商品を揃えているんだろう?
でも一見不真面目そうな、あるいは冗談を本当に実現したような、こんなお店があってもいいと思う。
単に安いだけのチェーン店は雨後の竹の子のように、これからも出現するだろうが、アイディアで人を楽しませるようなお店は、この日本ではあまりお目にかかれない。それだけにドン・キホーテに対する、地元住民や一部マスコミのバッシングは気にかかるところ。斬新なコンセプトで急成長を遂げた同社だが、出る杭は打たれてしまうのだろうか。
小説の主人公、ドン・キホーテはただ単騎で、巨大な権力に立ち向かおうとするピエロのような役回りであった。
しかし流通業界のドン・キホーテは巨大で疲弊した流通業界に大きな風穴をあける孤高の勇者であって欲しい、そう願いたいものだ。
[2001.03.13 by かっきい]