オレ様ランチ

「・・・はぁ?」

思いっきり唖然とした声と、なおかつめいっぱい不審そうな顔してそう言ったのは。

「すみません、あの、もう一度ご注文を」

オレたちの注文を聞きに来た・・・この店のウエイトレス、だった。

「・・・・・・」

まぁ・・・確かに耳を疑うわな、普通。
そりゃそうだ、とオレは顔をしかめてみせる。

なのに言われた当のアンジェときたら、『ひょっとしたら聞き取れなかったのかしら?』なんて表情をして・・・。
で、大体次の台詞の予想がついちまって。

・・・おい、ヤメロ。
おめーがハジかくだけだぞ?

だが。
そんなオレの心の祈りもムナシく、ご丁寧にもあいつはもう一度ハッキリと繰り返した。
にっこりと、満面の笑顔つきで。

「ですから・・・『お子様ランチ』をひとつ、お願いします」

などと。

はああ、ヤッパリ言いやがった。ったく、このオンナは・・・。

「・・・・・・」

それを聞いたウエイトレスはどうやらかたまっちまってるみてぇだ。
・・・ま、無理もねぇか。
どう考えたってそいつはフツー、ちっちぇえガキが食うモンだ。
こいつみてえに胸も尻もそこそこ発達してる、立派なカラダしたオンナがする注文じゃあねぇ。

だから。
「・・・ホラみろ」
オレは、思わず舌打ち混じりにそうつぶやいた。
「・・・だって・・・」
なんで?・・・どうして?
あいつの目が不思議そうにオレとウエイトレスを交互に見比べる。

『わたし、そんなに変な事言ってるのかしら。ちゃんとメニューにもあるものを頼んだのに、どうしてそんな反応が返ってくるの?』

多分、あいつが考えてるのはそんなトコだろう。
あのなぁ・・・んなコトぐれぇジョウシキだろ?

「あ、あの・・・」
申し訳なさそうというよりはむしろ「このコ頭がおかしいんじゃないの?」とでも言いたげな視線をアンジェに向けて、ウエイトレスが答える。
「『お子様ランチ』は、十二歳以下のお子様に限らせていただいてるんですが」
オレが想像した通り、至極もっともな台詞が返ってきた。
けど。
「えええっ?駄目・・・なの?」
アンジェにとっちゃあ心底意外な言葉だったらしく、すっとんきょうな声をあげて。
「はい」
そんなあいつの抗議にも、ウエイトレスは慇懃に返事をする。
そらみやがれってんだ。ホントに世話が焼けるったらねぇぜ。
大体、聞く前にてめぇで気付けよ。そんくらいは!

・・・で。大抵はココで話が終わるはずなんだが・・・。
「あ・・・でも」
まだ何か言おうとするアンジェ。

ぎく。嫌な予感。

「わたし別に『おまけ』はいらなくて、ただ『お子様ランチ』が食べたいだけなんですけど・・・それでも駄目なんですか?」

ああ、そんな念押しすんな莫迦っ!

「・・・ええ」

あきれかえってモノも言えない、っつう感じのウエイトレス。

ったりめーだ!
ドコの世界に高校生にもなって、未だにビニール製のワケわかんねーおもちゃを貰いたいなんつうオンナがいるってんだよ?
もう、そばにいるコッチの身にもなってくれよ・・・。

・・・と。

くすくすくす。

案の定、このやりとりを聞きつけた他の客が、オレたちの方を見て笑ってやがる。

「ヤダ、あの子」
「お子様ランチだって」

ちくしょう!見せ物じゃねぇぞ!

オレはすかさずギロリと辺りをねめつけて、そいつらのひそひそ声を黙らせた。

そりゃあ、アンジェはお世辞にもイロッポイとは言えねぇぜ?
・・・カラダ以外はな。
けど、こいつの事どうこう言っていいのはオレだけだ!

あああ、ホント・・・オレってなんて不幸なんだろ?
彼女のアンジェときたら、カラダはこんなにオイシそうに育ってるってぇのに、頭はまるっきりお子様だ。
十七になった今でもガキみてぇに天真爛漫で、おまけにソッチの方はてんで幼稚園児並みときてる。
大体オレたちがカップルになったんだって、オレ様の涙ぐましい努力があってこそで。
しかもすでに付き合って三ヶ月にもなんのに、まだキスすら済んでねぇんだぜ?くそっ!
オレのすこぶる健全で青春まっさかりなココロとカラダをどうしてくれる!?

「・・・じゃあ・・・えっと・・・マカロニグラタンで」

おっと。
どうやらオレがちっとばかり意識を飛ばしてる間に、なんとか話がまとまったらしい。

憮然としたウエイトレスが「かしこまりました」と言い放ってテーブルを去っていく。
と、アンジェはひどく寂しそうな目をして、オレの方を向き直った。

どきん、と。
胸が、鳴った。

そんな目すんなって・・・オレのせいじゃねーだろ?
おめーのそんな顔見んの、苦手だって知ってるよな?

「だからオレが止めたろ?」
「だって・・・なんだか急にすっごく食べたくなったんだもん」
アンジェは、まるで叱られた子犬みてぇにしょんぼりしてる。
「メニューを見て、あ、なつかしいなって思って・・・写真でもとっても美味しそうだったし・・・」

・・・そうだな。自分の心に素直だってのはおめーのいいトコだよ。
世間がどうたらじゃなくて、自分の物差しで事をはかるってのも。

・・・でもな。
「しょうがねぇだろ」
他に何言ってやればいいかわかんねぇから、オレはとりあえず水を飲む。
「うん、わかってる」
流石にその辺は十七歳らしく、いつまでも駄々をこねたりはしなかった。
そんなアンジェにオレはほっとする。せっかくのデートがこんなんで台無しにならずに済んだって事に。
が、そのアンジェはオレにちらとも視線をくれず。

・・・へ?
おい、おめーなんだってまだメニューを見てんだ・・・?

「なんだよ。まだ何か食いてぇのか?」
「あ、ううん、そうじゃなくて」
オレのその声にアンジェがあわててメニューから顔をあげる。
こんな風に返事が遅れたって事は・・・こいつがまた何か妙な事を考えてる証拠だ。

「どーせおめーのこったから甘ぇモンでも食いてぇんだろ?」

まったく、おめーときたら。
んな食いモンの事ばっか考えてねぇで、ちったあオレの事も考えやがれ!

「・・・違うもん」
ひどいヌレギヌとばかりにアンジェが口を尖らせて抗議する。
・・・そして。

「あのね・・・お子様ランチってどういうイメージがある?ゼフェル」

次に出てきた言葉は、オレの想像範囲外だった。

「・・・はぁ?」

お子様ランチ、だと?
まだソレにこだわってんのか?

んだよ・・・そんなに食いたかったのか?
・・・ったくしょうがねぇなぁ、ガキっぽくて。

「ねぇってば」
「食ったことねぇよ、んなの」

少なくとも、オレの記憶にゃねぇな。
そう思って返事した途端、

「えええーっ!?」

店中に響くような大声で、アンジェが叫ぶ。

ばっ、莫迦っ!・・・ヤメロって!
これ以上注目を集めんなよ!

「大声出すんじゃねぇ、阿呆」

オレが渋い顔して注意する。と。
「あ、ごめん」
ぺろっと舌を出すあたり、本当に反省してるかもアヤシイもんだ。

「だってびっくりしたんだもの・・・ね、嘘でしょ?」
「んな事で嘘ついてどうするよ。見たコトも食ったコトもねぇな」
大体どういうモンかってのは、知識としてあるだけだ。

すると。

「可哀想!なんて可哀想なの!?あの胸ときめくプレートを見たこともないなんて・・・」
はぁぁぁぁ。
心底同情したような表情で、アンジェが深々とため息をついた。
うっすら涙まで浮かべてる始末。

「・・・あのなぁ」

たかが食い物にそこまで思いこみがあるのはおめーだけだろ、とのどまででかかったが、ヤメた。
こいつの食いしん坊ぶりは今に始まった事じゃねぇ。
それで妙にこじれてケンカにでもなったらコトだしな。

「あのねあのね、お子様ランチっていうのはねっ」

イキオイこんでアンジェが語り出そうとする。しかも、身振り手振り付きで。
「いい・・・説明すんなって」
そう言って、軽くあいつのイキオイをいなしたつもりだった。
が。

「一枚のお皿にしきりがいくつもあってね、それぞれにごはんやおかずやデザートがのってて、すっごく可愛いのよ」

目が夢見るようにあさっての方を向いている。ヘタすりゃ星かハートが浮かんでたりして。
・・・こりゃオレの台詞はちっとも耳に入ってねぇな。
大体、メシにカワイイってのは何事だ?

「まずね、ケチャップライスが綺麗な型抜きしてあって、それのてっぺんに国旗が立ってるの。で、グリンピースがいくつかトッピングされてたりするのよ。これはもう基本中の基本ね」

爛々と目が輝きを増していく。
その様子がなんとも怖い。

「おかずは、なんといってもハンバーグかな?ちゃんと子供の口の大きさに小さくなってるの。それからエビフライ。わりと衣ばっかりだったりするんだけど、ないとやっぱり寂しいのよね。あとは赤いウインナーソーセージ・・・これは飾り切りされてて、となりにスパゲッティナポリタンね。もう思いっきりおうどんみたいな感じのやわらかいめんなんだ。あ、お店によってはゆで卵とかポテトサラダなんかも付くと思う。その時、ゆでたまごの切り口はちゃんとギザギザでなきゃいけないわ。黒ごまふったりね」

「・・・・・・」

もはや何を言っても無駄だ。オレは黙って聞くしかねぇ。

「それから、デザートはバナナをカットしたものとかのフルーツだけど、レモン汁なんかはかかってないからすぐ茶色くなっちゃったりするの。あとは・・・ババロアかゼリーかプリンかな?あ、忘れちゃいけないのがヤク○トだわ!」

「・・・は?」
「乳酸菌飲料よ!やっぱりコレがなくっちゃ!」

「・・・・・・はぁ」

「それでね、さらにちっちゃなおもちゃのおまけが付くのよ!ね、ね、スゴイでしょう?」

オレの同意を求めて身を乗り出すアンジェに、オレは力無くうなずいた。

「・・・・・・・・・まぁな」

すげーのはおめーのその思考回路だよ。

「そりゃあね、今考えるとあんまり彩りとか栄養のバランスは良くないと思うの。でもね、なんてったってお子様ランチは、子供の好きなものばっかり集めてあるお料理なのよ?すごいと思わない?これを考え出した人って尊敬するわ・・・」

「・・・へぇへぇ」
オレはそういった事にもマジで感動できる、おめー自身のの事を尊敬してるぜ?
その・・・おめでたい頭をな。
けど、そんなくだらねぇ事にも真剣に目を輝かせる事ができるなんて、おめーは・・・。

「どれから食べようかなって考える、あのしあわせな悩み!ホント楽しかったなぁ」

おめーは・・・やっぱ、カワイイ。

「そっか・・・ゼフェルはお子様ランチを食べたことないのね?じゃあ、わたしが今度とびっきり美味しいのを作ってあげる!!」

かろうじて家庭科はそこそこの成績なアンジェが、いきおいこんでそう言った。

「そうね・・・いつにしようかなぁ・・・わたしも早く食べたいし・・・」
「・・・勝手にしろ」
おそらく聞いてない事を承知で、オレはつぶやいた。

ハッキリ言って、オレはその、お子様ランチとやらにゃ興味はねぇ。
けど・・・ちょっと、おめーと似てるトコあるかもな、ソレ。
いろんな料理が一皿に・・・ってのは、おめーの性格もそんな感じだし。
甘ったれなのに時々妙にしっかりしてたり、泣き虫な割にゃあ結構頑固でよ。
普段はベタベタしてくるクセに、肝心な時はすぐ逃げやがる。

それに。
ふわふわくるくるの金の髪とか。
白くて柔らかい肌だとか。
大きくて澄んだ色した翡翠の目とか。
ぷくぷくしたほっぺただとか、ころころとした声だとか、それからそれから。
つまり、おめーのドコをとっても、オレが好きなモンばっかりで出来てて・・・。

いや、違うな。
惚れちまったからドコをとっても好きなんだろうな。

だからこいつがどうなったって、何をやらかしたってしょうがねぇやって思っちまうんだよな。
さっきみてーにこっぱずかしい事態になったとしたって。
口じゃあ一応つっぱってっけど、腹ん中じゃあ卒倒寸前なくらいにメロメロだ。

それに。
なんだかんだ言っててもアンジェに本気で手を出せねぇのは
・・・。やっぱ大切にしてやりてぇから。だから出来るだけ我慢してやるって決めたんだ。

そうだよな。

そもそも、こいつのまるでガキみてぇな屈託のねぇ笑顔に参っちまったのが、オレの運のツキって奴で・・・。

「ね、見て!」

ジャーン!

そんな擬音付きでアンジェがオレの目の前に突き出したのは・・・ノート?

「アンジェ特製お子様ランチ、完成予想イラストよ!」

なんと、こいつは。
オレがちっとばかしぼっとしてる間に、ノートに鉛筆でなにやら落書きしてたらしい。
あんまり近すぎて見えねぇから無言でそいつを押しやると・・・げっ!

「・・・・・・」
ああ、ホントにご苦労なこった。
さっきまで熱弁ふるってた内容を見事に細かく書き込んで、あろうことかご丁寧に彩色までしてやがる。
しっかり『ひみつのおまけ』なんてクエスチョンマークまで付けて。
・・・まったく・・・。

「これぞ『お子様ランチ中のお子様ランチ!』って感じに出来たと思うわ!ね、ね、どう?どう?」

えらい?わたしってえらい?
顔中にそんな風に書いてるのがミエミエ。

ホントに・・・ちっちぇえ事にも真剣で、呆れるくれぇ素直。オレにねぇモンばっか持ってやがるぜ・・・まったく。
そういうトコが、たまんなく・・・カワイイなんて思っちまう。

「いち、に、さん、しぃ・・・。全部で十品かな?ちゃーんとゼフェルの好きなフライドチキンも入れたし。ねぇ、これってカンペキじゃない?」

ね、ほめてほめて!ほめてってば!
今度はきっぱりと声にもそんな感じが含まれてる。

「ああ、まぁ・・・さんきゅ」

曖昧に語尾を濁してそう言ったってのに、アンジェはすっげぇ嬉しそうに微笑んだ。
いや、オレだって嬉しいぜ?・・・一応はな。
多分オレの為に・・・ホントにそうかはこの際おいといて・・・一生懸命考えたんだろうしな。
ただ、おしむらくは・・・なんつーか、現実認識能力にいささか欠けてて・・・ま、そこもまたなんつーか・・・ってワケだけど。

「そりゃあ確かにゴーカそうだけどよ、ひとりでそんなにいくつも作んのか?結構大変なんじゃねぇの」
ひとつひとつじっくり作ってたりしたら、あっという間に日が暮れちまうだろうな。けど・・・料理を何品も同時進行出来る程、こいつって器用だったっけか?
「うっ・・・確かに」
「・・・ま、気持ちだけもらっとくぜ」
せっかくそうオレがご辞退申し上げても、気持ちはもうすっかりお子様ランチ一色になってるアンジェは、少し腕組みしながら考えて・・・。

「じゃあ、人が大勢集まる時に作るわ。そしたら友達に手伝ってもらえるし。そう、ピクニックなんていいかも!」

・・・ガク。

どうやら、アンジェは「特製お子様ランチ」自体ををあきらめたワケじゃなかったらしい。
つまり、どうあってもオレに、ソレを食わせようってんだな?
なら・・・それは腹をくくるとして・・・せめて。
「・・・で?ダレがんな重てぇ皿だの何品もある料理だのを抱えてくんだ?言っとくけどオレはヤだかんな。それともまさかあっちに行ってからわざわざ作ったりするって訳じゃねぇんだろ?」
多分、そうなれば間違いなく手伝わされるんだろうが・・・人前でアンジェのお子様シュミに付き合わされるのは・・・やっぱ結構ハズカシイもんがある。
まぁ、ふたりっきりなら・・・別にかまわねぇけどな。

「あ、それもそうか。・・・じゃ、家でやれるパーティ・・・お誕生日会は?」
「・・・ダレのだよ」
嫌な予感に、思いっきり声を低くして尋ねてやる。
「もちろん、ゼ・・・」
「却下!」
すかさずオレは判決を言い渡した。

ばかやろ、何だってオレの誕生祝いの料理が「お子様ランチ」なんだよ!
てめぇ、オレの身長に対してなんか言いたい事でもあんのか?ああん?

「自分の時にやりゃあいいだろ」
いささかぶすったれてそう答えると、アンジェは。
「だって・・・自分のお誕生日に自分でごちそうを作るの?」
なんだかつまんないなどともごもごとつぶやいて。
「イヤならあきらめろ」
そう、引導を渡してやった。「うーん・・・」
・・・なのに、不意に目が輝きだす。
「あ、じゃあ、ゼフェルが作って・・・」
あほう!
これ以上とんでもねぇ事言われんうちに、瞬時に判定を下す。
「却下だ!」
何が悲しくてオレがウインナーやゆで卵相手に包丁いれなきゃなんねぇんだよ?
おめーな、ちったあてめぇの彼氏の性格考えて発言しろよ!
「む〜・・・」
あまりに素早いオレの返答に、アンジェが多少拗ねながらうんうんとうなる。
「う〜ん、じゃああと他にパーティって言うと・・・あ!」
・・・またか。
アンジェの思いつきは、大抵オレにとって嬉しかねぇんだよな・・・とほほ。

「そうよ、レシピを渡して他の人に作ってもらうって手がある・・・そう、結婚式よ!そしたら『おまけ』は『引き出物』になるのよね!・・・うわぁ、素敵!我ながらなんていいアイディアなのかしら!」

あ?

結婚・・・式?

・・・・・・・・・。

ちょっと・・・待て。

「・・・・・・」

ああ、ダメだ、余計な事考えちゃ。
今まで何度肩すかしをくってきたかわかりゃしねぇんだから、まずはちゃんと真意を確かめてからでねぇと喜べねぇ。

で。
意を決して・・・オレは。

「アンジェ」

「・・・なぁに?」

やっぱりあいつは無邪気な微笑みのまんま、自分のアイディアに酔ってるみてぇだ。

「それ、オレに食わしてぇって、その為に考えたんだよな?」
「うん、そうよ?」
「フツー、結婚式に異性の知り合いは呼ばねぇよな?・・・シンセキでもねぇ限り」
「・・・うん?」
「ってぇと・・・おめー、オレと結婚してぇって言ってんのか?」

「え?・・・・あっ!」

ようやくオレの言葉の意味がわかったらしく、大仰に手で口元を押さえて驚いてやがる。

・・・はぁあ。
やっぱり・・・と言うか、なんと言うか。
イシキしてアイの告白とやらだったワケじゃねぇと判って、がっくりと肩が落ちる。
ま、そうだよな。こいつがそんな事言うハズねぇもんな・・・ちくしょう。

今日何回目かのヤレヤレをしょいこんで、オレがひそかにため息ついてると。

「あ、あのね」

何故か真っ赤になりながら、アンジェがもじもじとつぶやいた。

「あのねあのねあの。ゼ・・・ゼフェルがもしも・・・イヤじゃなかったらわたし・・・」

「・・・なんだよ」

どうせこいつのこったから、またなんか期待はずれな事を言うに決まってる。

だから頬杖ついたまま、あさっての方向を見ながら相づちをうった。

「いつか一緒に並んで食べようね?・・・お子様ランチ」

・・・へ?

「・・・・・・?」

イツカ、イッショニ。
ナランデ、タベル。

お、おい・・・それって!?

「お、おめー・・・」

ホントに本気かと聞こうとして顔をのぞき込んだけど、アンジェがノートで表情を隠しちまってる。

「・・・・・・」

そこからちらりと見える耳たぶは、相変わらず真っ赤のまんまだったけど。

へぇ・・・そ、そっか。そうだったんか。
おめーも、一応、先まで考えて付き合ってるって事だよな?

こいつ、オレと、結婚したいってよ。
・・・へへっ。

自然、顔がにやけてきちまいそうで、なんとかそいつを遙か彼方へとけっとばしながら考える。

しゃあねぇなあ。・・・たいして食いたいとは思えねぇけど・・・そういうコトなら、一生に一度くらい食ってやるか。
その、特製お子様ランチとやらを。

でも、なぁ・・。
オレにとっちゃあ、アンジェ本人がまるでお子様ランチそのもの。
こっちの方のが喰いたいし・・・ホントはもうぼちぼちよさそうなモンだと思うんだが・・・この状況じゃあなぁ・・・。
おめーだっていずれその気なんだったら、なるべく早く食わしてくれたって良さそうなモンなのによ・・・

ん?

待て。

本格的に食う前に、味見くれぇはしたっていいんじゃねぇのか?

ほら、スーパーなんかだって、試食販売とかやってんだろ?
今すぐ全部・・・は食えなくっても、ほんのちょびっとくれぇは・・・なぁ?

「アンジェ」

偉大なるシタゴコロをなんとか押さえつけて、オレは平静な笑顔を浮かべる。

「え?」

ノートからちらりとのぞく緑の目が、所在なげに揺れている。
オレの反応を伺う姿が小動物みてぇで・・・くうっ、たまんねぇ!

「・・・な、なぁに?」

びくびくしてる様子を見てると、心がぐらぐらと揺れてくる。

ああ・・・やっぱ食いてぇなぁ、アンジェを。
でも、あんまり美味くって・・・ひとくちだけの味見ですまなかったらどうすっかな?

・・・・・・。

ま、そん時はそん時だな。

でも、まずは。
「オレにちゃーんと、味見させろよな?」
にっこり笑ってそういうと、アンジェが
「あ・・・うん、わかった」
と、はにかみながら、そう答える。

「・・・そっか」

そっか、イイのか!

オレの台詞にほっとしたのか、えへへと笑ったりして、それがまた・・・ちくしょー!
ああ、まさに食べ頃って奴かっ!?

「本番の前に美味しいかどうかちゃんと味見してもらうね?」

食わなくったってわかるさ!
美味いに決まってんだろーがっ!

でも、問題はソコじゃねぇよな?・・・へへへっ。
思わず、顔が緩んじまって。

おっとアブネェ、気付かれちまう。
こういうのはタイミング。だから、出来たてをすぐ食べんのが一番イイんだよな。その方が抵抗も少ねぇだろうし。
じゃあ・・・ま、そういうコトで。

いただきますの手を合わせるのが先か、この店を出るのが先かはちと迷うけど。
・・・とにかく。
今日のオレの昼飯は、美味くてカワイイ「特製オレ様ランチなアンジェ」に決定だ!

うっしゃあ!とばかりに、オレは拳を力強く握りしめた。
そして・・・・・・。

END