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Richard Mullen インタビュー

出典: ej-l List Interview with Richard Mullen
Copyright 2000-2001 Richard Mullen/Park Street/Eric Johnson (ericjohnson.com)
「日本語文責: 山巻 由美子」


Richard Mullenは、Eric Johnson、Stevie Ray Vaughan、Omar & the Howlers他と仕事をして来たエンジニアです。彼の技量は、数々のレコーディングやライヴショウで窺い知ることが出来ます。
このインタビューは、EJ Mailing List(本家)のメンバーから募った質問をリストオーナーPark Streetがまとめ、Richardに渡して回答を得たものです。
。EJ-JPが、Park Streetの許可を得て、翻訳・配信致します。従って、引用・配布は固くお断り致します。
Q:
 「Battle We Have Won」での、キックドラム/ベース関係のとてもいいタイトな音は、どうやって得たのですか?マイク、セッティング、コンプレッション、EQ等は、どのようなものを?

Richard Mullen(以下RM):
 プレイヤーさえよければ概ね良好なものなんだが、それはさておき、あの曲では、Tommyはごく小さなキックドラムを使ったんだ。小さいキックドラムの方が、大きくタイトなサウンドを得られる場合があるということがわかったのでね。
 キックドラムのチューニングにおいては、たいがいピッチ的スウィートスポットがあるんだが、大きなキックドラムは、サブソニック(訳注:非常に低い周波。30Hz以下くらい)になり過ぎる傾向がある。周波数が低過ぎて、ほとんどのシステムで聞き取れないんだ。その点、小さめのキックドラムの方が、よりタイトなサウンドが得られる。
 キックドラムに使ったマイクは、いつも「キックにはコレ」と思って使っているヤツだよ。面白いマイクでね、70年代中頃にBeyerが発売したヤツなんだ。多分Senn 421の廉価版として出て来たものなんじゃないかな。Beyer Soundstarという名前。うまくやるにはかなりのEQが必要なんだが、250〜400Hzのレンジをすくい上げて、ハイを増幅させれば、非常にいい音がするよ。

 プリアンプも、いつも使っている512 APIプリアンプと、API 560グラフィックEQを使った。エフェクト用に使うのでない限り、ミックスダウンの時にコンプレッションを使うのはあまりいいとは思わないんだが、この曲に限っては、ドラムとベースにもうちょっとパンチを与えようと思ったので、ドラムとベースは全部、SSLQuadコンプレッサーを通したよ。
 ベースについては、普段使っている装備とそれほど変わらない。プリアンプとEQはAPIを、アンプのマイク録りにはAKG 414とCountryman D.I.を使った。ミックスダウンの時は、ドラムとベースを一緒に汲み上げ続けるために、ドラムと同じくSSL Quadコンプレッサーを通したんだ。
 Kyleが使っていたベースが何だったか憶えているとは言い難いんだが、間違いなくFender Jazzだね。彼はあのパートでは、スティックベースを模してやっていたんだ。どうやってやっていたのかは、彼に聞いてみないとわからないがね。

Q:
 貴方の水晶玉で占うと(別に水晶玉でなく、経験から見た推測でもちろん構わないんですが)、5年後、10年後のEricは、音楽的に、あるいは商業的に、どんな風になっているでしょうか?

RM:
 5年後、10年後のEricがどうなっているか言うのはちょっと難しいと思うねぇ。もちろんEricが異なるサウンドや方向をミックスしてまとめたいという望みを抱いていることはわかっているけど。より楽曲重視の、キ−ボード/ギター中心のCDの他に、アコースティックギターのCDからJazzの、あるいはJazzを含んだCDまで、それにもちろん、彼本来のメロディックなpopやインストもあるしね。可能性は幅広いよ。

 楽器の色々な方向性もそうだが、彼は曲作りや、書いた曲に自分のギタースタイルをどう統合していくかといったことに焦点を定めたいとも考えていると思う。Ericには出来ることがそりゃ一杯あるし、だから方向は、その時点で彼が何をいいと思うか次第、まあコインの裏が出るか表が出るか次第といったところだろうね

Q:
まず、ParkとRichardに、一般から質問を募るという形でのインタビューを実現してくれてありがとう。

質問1) よい録音機材やよいエフェクトは別として、ハードドライブベースのホームレコーディングのセットアップに良いとRichardが思う機材を3つ上げて下さい(特定のブランド名ではなく、機材のタイプとして)。

質問2) よいミックスが出来るようにするには、何かヒントがありますか?つまり、あるサウンドをきっちりつかめるのはどのあたりか、とか、ベストサウンドを録音するにはどんな方法がいいか、とか、経験的につかんだコツは?

質問3) スタジオにこもって同じテープや同じテイクをさんざんいじり回している時、どうやってマンネリにならないようにするのですか?

RM:
(1)の答
 うーむ、スタジオで出来ることはすごく沢山あるから、3つだけ挙げろというのは難しいな。録音に関係して、気をつけるべき機材は、マイクロフォン、プリアンプ、イコライザーだね。特に、音がかなり透明になってしまう新型のデジタルレコーディングフォーマットでは、音楽的によいサウンドが得られる機材の必要性がポイントだ。「透明」という言葉は、アプリケーションによってはいい意味になるけどね。いったん「これ」というサウンドをつかんだら、自分の機材がそのサウンドに何か作用を及ぼしたり、そのサウンドを損なったりしないようにしたいと思うよね。どんなものに録音するにしても、よいマイクとよいアンプが、ここではキーになるんだ。
 最近の透明なプリアンプと違って、古いプリアンプは、サウンドをもっと音楽的に豊かにするようなトランスや回路が積まれていることがあってういう音が録れるんだ。みんな何年もアナログテープを使って、そういった豊かさを録音することに慣れてきている。一方、デジタルとなると、そういう音楽的豊かさを最早テープからは期待出来ない訳だ。だから、音楽的なサウンドのプリアンプやイコライザーが一層重要になってくるんだよ。

 今度はデジタル機材の方だが、まず、デジタルの長所と短所を心得ておくことが大切だ。操作性や編集機能がデジタルの長所だね。音的には、まだまだ2インチ16トラックアナログマシンに対抗出来るほどのものじゃあない。録音機材にもしデジタルを選択するなら、いいサウンドを録ろうと思ったら、マイク−プリアンプ−EQ−ハードドライブのルートの各過程で、出来ることを総動員することになるのは覚悟しておくことだ。古い真空管プリアンプ、古いNeveやAPIのプリアンプを使って音楽的サウンドを得るのが私の好みだね。ファンキーな安いコンソールすら使ってるよ。Panasonicの、Ramzaというコンソールで、これがEricのギターサウンドに、様々な色づけをしてくれるんだ。

(2)の答
 そうねぇ、ミキシングには、絵に色を塗るようなクリエイティヴな才能が必要なんだな。その糸口があるかないかだね。才能の代わりになるようなコツは存在しない。糸口があったとして、私がミスを犯さないように気をつけている事なら、いくつかあるよ。中でも一番大変なのはしっかり実像把握をするということだ。ミキシングをしている部屋でミックス用に使っているスピーカーが、実像の原型。ある部屋で非常にいいミックスが出来たとしても、もしその部屋が適切でなかった場合、結局その部屋でしかいいサウンドにならないミックスが出来上がってしまうんだ。

適切なボトム、適切なトップ、中間レンジの適切なバランスを得るためには、実像と参照出来るようなものを持っていることが大切だ。私は2つの方法をとっている。まず、リアルタイムのアナライザーを使用すること。私が使っているのはPro Audio Analyzerで、周波レスポンスに関しては、どうなっているかはこれで把握する。スピーカーがどの周波でだめなのかといったようなことがわかるんだ。サブソニックが制御不能になっていないことやハイが伸び過ぎていないことなどが確認出来る。自分の好きなレコーディングをアナライザーにかけて、どんな風になっているか目で確かめてみるといい。何がいいか何が 機能しないか参照出来るものが、そうやって得られる訳だ。
 もうひとつはヘッドフォンで、録音に関係のないルーム・アコースティック(訳注:室内の音響特性)を取り去り、非常に良いフラットレスポンスを聴かせてくれるやつを2セット見つけたんだ。Beyer 160DTとGreyco Series Oneの2つで、とても使える。

(3)の答え
 今やってることに無感覚にならないようにするコツは特にない。そういうことは、レコーディングにはつきものなんだよ。70年代にバンドをやっていて、初めてのレコードを制作した時、あるプロデューサーと組むことになったんだ。私の好きなレコードをずいぶん手がけた人で、とても尊敬していた。初めて彼の家に行った時、レコードのコレクションを見渡してみて、彼の手がけたレコードが全然ないのに気がついたので、理由を尋ねてみると、「いずれ君にもわかるよ」とだけ答えたんだ。

 レコード録音の過程は延々と続く退屈なもので、全てをやり尽くした後では、創り上げた完成品を楽しむなんてことはそうそう出来るものじゃあない。10年たってその作品を聴き返してみて、やっと楽しめるなんてこともあるよ。マンネリ脱出のためにやっていることといったら、なるべく他の音楽から離れている、くらいのものだね。日がな一日音楽の録音やってて、家に帰って音楽聴くなんて、出来たものじゃない。それでは音楽的インプットが多過ぎるんだ。マンネリに陥らない方法としてひとつ有効だと思うのは、プロセスを混ぜこぜにするということ。レコーディングの各過程には、それぞれ楽しい部分、困難な部分がある。以前Ericとやった時、どうにも動きがとれない状況になったことがあったんだ。リズムパートを全部やり、それからリードをやり、その後ヴォーカルを全部やる、という方法がある。その時は、それが有効だと思っていたのでその方法でやったんだが、結局それで皆消耗し切ってしまった。もっと小さな区切りに分けた方が楽しくやれるんだ。後になってわかったんだが、一度に2曲やると楽しく出来る。  そうするとA点からB点への切り替えも、もっとパッと出来るし、努力のし甲斐もあるというものだ。

Q:
スタジオでの普段の就労時間はどうなっていますか? 時によって変わりますか、それともEric(とRichard自身)には、創造性や生産性が最も高まる時間帯のようなものがありますか? 夜遅くの方が創造性が高まるというミュージシャンやプロデューサーが多いですが、あなたとしてはどうですか?

RM:
Ericと私は、遅い時間帯を好む傾向にあるね。普段は大体午後4時頃に始めて夜中の12時まで、時にはもっと遅く、午前2時くらいまでやることもある。二人とも毎回、「次回はもっと早く始めよう」と思うんだが、結局は普段の時間帯に戻ってしまうんだ。個人的には、遅い時間帯の方がいいね。日中だと、色々仕事が立て込んでいるので、電話などの邪魔がしょっちゅう入るから。遅ければ、そういう中断も少なくて済むのでね。

Q:
Ericのマテリアルのミキシングについて、2つ質問があります。まず、ギタートーンや音のスペースの維持目標がありますか? ミックスダウンの時、ギタートラックに適用するEQはありますか? EJが自分のギタートーンの創造や捕捉に非常な努力を費やすことはつとに有名だから、ミックスダウンの段階で変更を加えるのはいやなんじゃないかと思うんですが。

RM:
ミックスダウンの時は、ギタートラックには必ず少しだけEQをかけている。ある曲のトーンに対するEricのヴィジョンは、彼がプレイしているトラックにフィットする必要もある訳なので、基本的に、彼は欲しいトーンをアンプからの音で得て、私の方でそれをトラックにフィットさせるんだ。マスタリングの時に、ほんの少しEQをかける。いつもは、丁度5〜10K(Hz)の間くらいだね。録音済みの分の音波のエンベロープ(訳注:包路線。波形の先端をつないで出来る曲線を言う)にマッチさせるために、ちょっと引き立たせるという感じだ。ミックスダウンの時には、リヴァーブもエコーも加えるし、EQもずっと大きくかけて、トラックにマッチさせる。そういう時のEQは、いつもはトラックに合うようにハイとローを調整するためにかけているんだ。一般的には、ミッドレンジはそのままにしておく方が、私は好きだね。

Q:
ALC(Live and Beyond)とEJ(Venus Isle)では、全体的なサウンドに顕著な違いがあることに気付きました。VIの方が、ローの肉付きがよくキックドラムの叩きもよくて、引き立っています。ベースも、ALCの方では全体的にローが強くないのに対し、VIではもっと厚いし。一方ALCのCDの方のベースは、そういう鮮明さがありません。ALCのレコードは、もっと肉付けすべきだったということなのでしょうか、それともこれは、マテリアル又はライヴレコーディングそのものの作用によるところだったのでしょうか? ベースが結果論的にそういうことになったのでしょうか、それとも、違う方法をとったということですか? (礼儀正しく尋ねようと努めていますが---なんだかベースパートにはギターパートに「立ち入る」ことが許されないみたいに聴こえるのです。これは厳密に意図したことなんでしょうか、それとも、単なる他の要因による作用なんでしょうか?)

RM:
そうね、二つのCDには明らかな違いがあるね。片方はスタジオレコードで、オーバーダビングをたくさんして作り上げているので、あまりスペースは残っていない。一方ALCの方は、3人編成のバンドのライヴCDだ。ライヴレコードには、肉付けしたり出来る余地ももう少しある訳だが、小さなクラブで録音されているので、音を濁らせがちな色々なものがマイクで拾われてしまう。そう、ギターレコードである事に焦点を合わせてはいるよ。ギターがまず第一になるようにね。別に意図的に削ったものは何もないんだが、そういうことが起こることは、ままあるんだ。

Q:
Ericは24ビットPro Toolsより16ビットPro Toolsの方を好んでいるらしいと聞きます。この二つの主要な違いは、ソフトウェア自体への内部的要因ではなく、インプットコンバーターにあると思いました。ALCのレコードは3台か4台のADATで録音されたという話しを読んだのですが、ADATの内部A/Dコンバーターは使用しましたか? もし使ってないとしたら、外付けコンバーターは何を使用したのですか? レコーディングの時は、どんなビット深度/サンプリング周波数等が使われましたか?
 EJのPro Toolsに対する好みは何に根ざしているのか、お考えはありますか? その裏付けを聞かせて下さい。

RM:
24ビットより16ビットの方が好ましいという話は、基本的には本人の口から出た確かな話だよ。Ericと私は、16ビットのシステムを購入して、非常に気に入っていた。それでDigidesign(訳注:Pro Toolsのメーカー)が私らに興味を示して、24ビットシステムをオファーして来たので、喜んで受けたんだ。それで2日ばかり24ビットシステムを使ってみた結果、Ericも私も、これはなんかまちがえたな、と感じた。音的には、16ビットシステムの方がずっとイイ感じだったんだな。だからその時点で、よくチェックして広範な比較をしてみて、自分たちの最初の感じの方がいいということになったんだ。これは私らの感覚の問題なのであって、24ビットシステムがダメなのだ等と言うつもりは毛頭ない。
 単に、24ビットシステムより16ビットシステムの方が、私らには好ましいというだけの話だ。色々な意見もあるだろうが、Pro Tools IIIシステム16ビット版は、Ericと私が気に入った初めてのデジタルシステムで、24ビット版の方のサウンドは、こちらのニーズに合わない、ということなんだ。明らかに、24ビットシステムの方がハイエンドがオープンで、そういったところはいいんだが、私らは、16ビットシステムの方が、より暖かくよりアナログな音だと感じたんだよ。

 ハイエンドについては、10K〜16Kの間で少しばかりEQをかけるだけで、その方がハイエンドでもいい音になると私らは思っている。その代わり、ハイは2〜4dbばかり落ちてしまうんだが、それでもEQをかけてしまえば、24ビットよりも心地よいサウンドになる。技術的にがたがたやらずに一番単純にやれる手が、よりアナログなさウンドである16ビットの使用、という訳だ。24ビットはハードエッジでいかにもデジタルなサウンドなのでね。24ビットがしっくりこないのは888(訳注:Digidesignのオーディオ用インターフェイスのシリーズ名。Pro Tools使用時のオーディオI/O用に推奨されている)のせいじゃないという説には頷ける。
 888は16ビットの方で使っているんだが、音はとてもいい訳だし。ここまで言ってきた事は、私らが「......と思っている」ことであって、技術的裏付けは全然ないんだ。例えば「出てきた音がどこをどう通るからだ」といったような、コンピューターの内部的要因みたいな裏付けはね。
 多分ここで披露した私らの感覚に対して、随分異論もあるだろうとは思うが、個人的にはそれは問題じゃないね。好きなものが好きだし、私は16ビットを気に入っていて、Pro Toolsというソフトも気に入っている、というだけの話だ。私らは、今でも録音の70%は2インチ16トラックアナログでやっていて、録ったものをPro Toolsに落とし込む。その時点で、全部デジタルになるという寸法だ。
 ライヴレコード(Live and Beyond)の場合は、Tascam DA-88を3台使って録音して、それを16ビットのPro Tools 888を通して、アナログパスから48KでPro Toolsに落とした。

Q:
EJがデジタル・オーディオを導入するに際しては、ベストなギタートーンを捉えるために、今までとは違ったテストサイクルがあったんでしょうか?
 説明して下さい。(歴史のテスト問題みたいな聞き方ですが、詳細を教えてもらえたらと思っているだけです)

RM:
いや、特にはないよ。彼のギターの98%は今でも2インチ16トラックアナログで録っているからね。デジタルは、むしろ編集作業における途方もない可能性の方を買っているんだ。構成やギターパートの構築がずっと容易だし、おまけに、作ったテイクは全て保存しておいて後で聴き返すことも出来る。録ったものが、切った貼ったで原形を失うこともなく、全部残せるという訳だ。
 ギターの録音は、今までの標準とほとんど変わらないんだよ。直接デジタルで録音してみたりもしたけどね。私らとしては、今でもギター録音はアナログの方がいいんだ。

Q:
ALCのディスクを聴いていて気付いたんですが、あなたもEJも、CD大音響戦争には参加したくなかったようですね。ALCのディスクは近頃出ているCD群に比べ、明らかに静かです(これには喝采!)し、そのため全体的な音質もずっといいです。あなたとEJは、マスタリング過程にどのように関与しましたか? コンプレス過多になったりマテリアルが制限されたりしないように、マスタリング・エンジニアとかなりやり合ったりする破目になりましたか? それともマスタリング・エンジニアの方も、他のアーティストみたいにマテリアルが台無しになるほど音をデカくする必要がなくてホッとする、というところでしょうか?

RM:
いつもマスタリングをしてくれているBernie Grundmanは、各レコード会社から、音を可能な限りデカくしろとずいぶん圧力を食らっている。
 このインタビューの最初の方でも言ったが、仮にマスタリング後にミックスの正弦波を見てみるとしたら、角刈りアタマみたいにフラットトップなんで驚くことだろうさ。私らは心地よさが若干失われたように感じたし、Ericはギターサウンドについても満足出来なかった。

 私らはBernieに、コンプレッションを和らげるように頼んだんだ。彼は、自分もコンプレッションをいいとは思っていないが、なにしろCDの音レベルは最大にするようにという相当な圧力があるのだと教えてくれた。で、いくつかのCDにそれぞれ違った量のコンプレッションをかけてみて、結論として、中間ともいうべきセッティングで行こうと決めてね。このリモートコントローラーの時代に、レベルが最大かどうかなんざ誰も気にしやせんよ。聴き手は、音がデカくないと思ったら、自分のリモートコントローラーで音量を上げるだけの話なんだから。私としては、ぼやけた部分にちょっとコンプレッションかけて引き立たせるのは好きだが、rock物がコンプレッション的にがんがんやられるのはいやだね。コンプレッションのセッティングには、少しばかりの妥協も止むを得まいが、もっとソフトでも全然構わんと思うよ。コンプレッションを最大にしても、何の助けにもならんね。

Q:
新しいテクノロジーで、レコード産業はどうなると思いますか? コンピューターソフトウェアプログラムが何百万ドルもするスタジオに取って代わり、レコード契約を探している人々のホームスタジオにも、門戸が開放されると思いますか?
大手レコード会社はこういった傾向を、レコーディングに経費をかけず、経費以上の利益が期待出来る新人発掘方法として認識していると思いますか?

RM:
それは、もう既に起こっていることだよね。10万ドルもあれば、誰でも相当いいデジタルスタジオが作れるからねえ。設備はほんとに手頃な値段になってきてるし。残念ながら、そういうスタジオは音響がよくないという現実は今だにあるが、そういうスタジオでやってる連中で幸運を手にする者もたくさんいるし、設計が月並みなスタジオ使ってても、サウンドは問題ないよ。音的な見地では、ノイズフロアはデジタルのスタジオではまず問題にならない。いいマイクと、いいプリアンプと、ちょっとしたEQがあれば、大スタジオに対抗する足がかりとしては充分だね。
 ほんとのプロ用のスタジオで録音するのが、そりゃ今でも最高なんだが、最先端でも、ばか高いわりにツカエない録音スタジオは一杯あるからねえ。金ばっかりかかって平凡な音しか作れないという。あえてスタジオ名は挙げずにおくがね。小さなホームスタジオがすごくよかったりすることもある。なんだかわからんがうまくいっちゃうって場合があるんだ。高価な大スタジオと同じくらいツカエる小さなワークステーションはたくさんあるよ。個人的には、色々異なる環境で録音するのが好きだから、いくつか違ったスタジオをそういう風に使うのがいい。
 各スタジオ間の音的な質の違いが、サウンドに違った色を醸すといったところかな。サウンドに色々な風合いを持たせるために、違うプリアンプや違う部屋を使うようなもんだよ。
 まとめとしては、アーティストは、安く出来るそこらのスタジオを使って今までよりずっと洗練されたデモを作ることも出来るようになっているし、最後にそのデモを本番CDに使うことだって出来る、ということだね。
-------おわり--------