2003年4月 EJインタビュー
Eric Johnson Mailing List dd 27/Apr/2003
ericjohnson.com, 2003
Interviewed by: Park Street, ej-l/ericjohnson.com
Original text transcribed by: Paula Beard, ericjohnson.com
「日本語文責: 山巻 由美子」
PS: Park Street(質問者。EJの親友、本家リストオーナー)
Eric Johnson(ご本尊)
訳者より: このインタビューは、2003年1月下旬から2月初旬のある一日、行なわれました。今年最初のツアーを開始する直前です。
従って、文中の「今回のツアー」は、既に終わっているそのツアーを指しています。
PS: まず最初の質問はこれ。君は自分が使っていた機材やらペダル類やらを売ったりしてるよね。で、今現在なんだけど、装備に何か変更があったり、試してる機材があれば聞かせてもらいたいんだが。
EJ: 大きな変更はないよ。リズム用アンプ2台がDeluxe ReverbからVibroverbになったくらい。
PS: 100WのMarshallは持ってるんだ?
EJ: 多分100Wは使わないだろうと思うよ。小さい場所で演ってるから。
PS: ペダルボードは縮小したのかい?
EJ: うん、どんどん小さくなってるよ。去年くらいから同じ規模になってるね。
PS: 忘れてたんだが、先週電話で、今使ってると言ってたペダルが2つあったよな。
EJ: うん、ToneBoneペダルね。ほんとにいい真空管プリアンプなんだよ。今はTube Driverがあるからペダルボードの方では使ってないんだけど、でもToneBoneは好きだよ、とてもいいんだ。
PS: 装備変更についてはこれぐらいにしておこう。今回たくさん質問があったのは、どんな風に創造するのか、どうやって曲を書くのか。僕としては、色々違った方法で創造するのだろうし、曲の方もそれぞれに異なったやり方で書かれるんだろうと思うけどね。聞かせてもらえる事があるかな?
EJ: 絶えず演奏に触れていること、自分個人としても演奏すること...つまり技術的訓練だけじゃなく、楽しみのための演奏もするってことね。演奏に対してそういう個人的意味合いを持ち続けて、練習などの規則的な演奏スケジュールをきちんとこなしていれば、肝心なものをいつでも受け取れる状態になっていられる訳。
PS: ということはつまり、君の場合、宇宙やら夢やらをヒントに頭の中で曲が浮かぶというより、ギターやピアノを実際に弾きながら創造するってことだ。
EJ: まあさ、夢とかもありはするんだけど、でもほとんど憶えちゃいないんだよね。
PS: じゃあ基本的には、座って、練習して、遊びで弾いて、そして何か出てくる、と。ギターを弾く時はそういう具合なんだ?
EJ: いや、実際はギターよりピアノのことの方が多いんだ。60対40くらいの割で、60%がピアノ。
PS: 次は「レコードに色々盛り込むのを止めたり、トラックに付け足しをするのを止めたりする潮時をどうやって知るのですか」という質問。
EJ: 何かをするには、そりゃたくさんの色々な方法があるんだってことが、結局はわかるんだよ。曲が1つあったとしたら、そこに盛り込んでいくものは無限にある。で、かつての僕の哲学は、とにかく出来ることは全部試して、石を全部ひっくり返してみる、ていうものだったんだけど、それだとはまり込んじゃって永遠に終わらないんだよね。 「ここだ」っていうポイントに達する方法は、とても一杯あって、何かが起こる時っていうのは、位置だとか構成だとかバランスだとかの中でぽこっと起こるんだから、とにかくやってみて流れに任せればいい訳。あるものをあるがままにってことだよ。何かが起こり始めるところに達したら、そのまま流れに乗って動いていけばいいんだ。
PS: ところでProToolsだけど、あれだと録ったバージョンを幾らでも保存しておけるだろう? つまり、写真家としての僕に例えて言うと、まず、ある景色を様々な方法で撮影して、それからカットに入る。「極上」のカットを探す訳だね。まあ全部の中からとりあえず10ばかり選りすぐって、それから更に削っていって.....といった作業が全部保存出来て。
EJ: うん。ああいうテクノロジーのおかげで、可能性はどんどん無限になっていくよね。
PS: テープなんかに録音する必要がないから、そういうコストもかからなくなるよな。で、質問だ。曲を書く時、ライヴで演奏することを考慮して、敢えて複雑にならないように制限してるかい?
EJ: いや、考えてない。思いつくままにやってるよ、展開していくままにね。
PS: もしツアーしなくてもよかったり、付帯的パートを受け持つミュージシャンをバンドに入れたり出来たら、曲の書き方も変わるかな?
EJ: 変わるね。
PS: リードたる君の負担を軽減するために、単純なパートを受け持ってくれるセカンドギタリストを入れるという案とセットになる訳だ?
EJ: そう、それ考えてるんだよね。
PS: 今度のツアーでは"Paperback Writer"はやるつもりでいるかい? 以前はよくやってたけど、当時はバンドに唄えるメンバーが多かったろ?
EJ: うん、今のところSouvenirから何かやるかとかも考えてないんだ。
今回はTommy (Taylor)が参加してくれるから、やれることがどっさりあるんでね。彼と僕とで、以前よく一緒にやってたものを試してみるつもりなんだ。あと、ツアーにかけてみたい新曲が2つばかりある。
PS: よし、それちょうど質問にも入ってるよ。今回のツアーではどんな曲をやるつもり?
EJ: 多分、それぞれのレコードから数曲ずつと、新曲を2、3。アコも1曲やるつもりだし、それとピアノも1曲ね。それと、Chrisが割と最近書いた曲と、あと、Tommyが1曲唄えるかも。
PS: コピーものは?
EJ: やろうかなーと何となく思ってるのが2、3あるな。新譜に入れる予定のBob Dylanのやつがあるから、それとか、Paul Simonの曲とかJoni Mitchellの曲とか。ずっともて遊んでいじくり回してるのが一杯あるんだヨ。
PS: Joni Mitchellは何?
EJ: "Circle Game"
PS: さて、例によって技術系質問が色々来ているよ。まず、ストラトのスウィッチは、以前の3ウェイのと後年の5ウェイ、どっちがいいか? 理由もね。
EJ: 僕は5ウェイを使ってるよ。そっちの方が選択の幅が広いから。
PS: (本家)リストメンバーの間では、ヴィンテージ対現行ものネタが繰り返し話題になるんだ。そういう現行ものは試したりするかい? でなくとも、例えばストラトにLace Sensorのピックアップを付けるとか、"Elite"ストラトだとか、あるいはモデリングアンプの類とか、そういうやつは?
EJ: うん。どんどんよくなってきてはいるよね。つまりさ、悪くないやつもある。イケてはいるんだけど、でも、すばらしい真空管アンプといいスピーカーをpoint-to-pointで配線してホントに純粋な信号を得るって点だと、現行ものはまだそこまでは行ってない。そういった純粋なディストーション・トーンについてはね。
僕が持っているFulton-Webbの新型アンプ2台は、そもそもそういうトーン、古い機材のようなトーンを前提にデザインされてるんだ。それなりの価格はするんだけどね。プリント基板やアンプをいじくるようになるとスピーカーの中のヴォイスコイルを変えたりして、エッジの効いた、より"EQ"タイプのサウンドを得るようになるんだけど、これがディストーションとなると、大概は、同じように心地良いって訳には行かないんだ。少なくともモデリングものについては、そんな風らしいよ。なかなかいいとは思うんだ、練習用にはね。でも応用して使う段になると、すっかり希望通りとは行かないんだよ。例えば、山のふもとに立って見るきれいな景色は、正真正銘の、有機的なものでしょ。ところが同じ景色を写真で見るとすると、やっぱりすばらしい景色ではあるんだけど、でも有機的じゃない訳だよ。空気も嗅げないし、風も感じられない。写真からは、そういう、本物の持つ分子レベルの経験は得られないでしょ。モデリングは、それと同じなんだと思うんだ。本物にどんどん近くなってはいくし、実地訓練的な面では、ほぼ同じ音が出るようにはなっていくんだけど、でもやっぱりそれは、写真見てるみたいなものじゃないかな。
PS: でも、ほとんどの場合、みんな撮影された現地へ行く余裕はないんだよな。
EJ: そうそう。今日びは昔みたいなものを造り上げるのは難しいよ。工数やら価格やらに響いてくるから。
PS: 君の50W Plexiに合うスピーカーとしては、どれがいい? Celestionかね?
EJ: うん。
PS: モデル番号とかあるのかい?
EJ: 古いCelestionってだけ。ちょうど今Celestionとシグネチャースピーカーの仕事してるところなんだ。オリジナルスピーカーより信頼性の高いバージョンになる予定。例えばCelestion25Wのリイシューと30Wのリイシューは、実は細部はオリジナルをそれほど忠実に再現したものじゃないんだ。ヴォイスコイルに相違があってさ。Celestionが送ってくれた試作版は、もっと忠実に再現されているし、何よりすごいのは、ほんとに古いスピーカーみたいな音がするところなんだ。だからホントいいよ。大量生産に踏み切るのかどうか、それがいつになるのかといったことは僕にはわからないけど、でも僕らは一緒に色々いじくり回して、実験を重ねてきてるんだヨ。
PS: そりゃいい! それじゃ君は、スピーカー供給源を確保出来るってことだ!
EJ: そうなんだよ! 問題はただ1つ、新しいスピーカーは、コーンに違いがあるって点なんだ。だから古いスピーカーを持っていたとしても、コーンは直さなくちゃ同じ音は出ない訳。だからあらゆる点で古いやつに忠実に作られた新スピーカーがあればってね.....新しいリイシューは、古いやつにかなり近づいてるんだけど、まだ2点ほど同じじゃない部分があって、そのせいで、随分違っちゃってるんだ。
PS: 「Marshallで高めのゲインをセッティングする時、FenderとGibsonではサステインに劇的な違いが出てしまうことに気づきました。あなたのパフォーマンスを聴いていてわかったのは、どちらのギターでもすばらしいサステインをほどんど失ってない。僕の場合だとGibsonでしか得られないのに。何か特別なワザや、ストラトで同様のサステインを得る方法についてのヒントはありますか? 僕の知る限り、あなたのセットアップにはコンプレッションの類はないですよね?」という質問。
EJ: うん、ないね。彼がリードのことを言ってるんだとしたら、ゲインをもっと上げて、トーンコントロールをもっと下げるんだ。トーンコントロールをもっとフラットに、よりフラットなEQになるところまで下げて、それからゲインのために上げるように、僕はしてるよ。この方法だともっと簡潔なEQ帯域になるんだけど、そこでゲインが上がるからぐいっと押し上げられるんだ。これはストラトのゲインに限った話だよ。もっと充分過ぎる程上げると、Gibsonそっくりになってはくるけど、今度は違う問題が出て来ちゃうんだ。ストラトを使う時はシングルコイル・ピックアップの問題にてこずることになるんだよ。ハムがすごくて、ほんとに耳障りになっちゃってね。二律背反なんだよ。ピックアップを変えてハムから逃れるって手もあるけど、そうすると今度はトーンに影響が出るからねえ。どこで折り合いをつけるかだね。
PS: 「ギターやピアノ演奏をするに当たって、Alexander Techniqueを活用したことがありますか?」
(訳注:アレクサンダー・テクニーク。F.M.アレクサンダーによって考案された、無意識の身体的クセなどに端を発する緊張を解く技法)
EJ: いや、ないね。
PS: 君は何でもとても軽々とやってみせるよね。長年の汗と苦労の賜物だということはわかってるけど。でもさ、難しいと思うものは何かあるかい? あるとすれば何? (((((笑)))))
EJ: 難しいことだらけさ。深く関われば関わるほど、つまりリハーサルでも練習でも熱心にやればやるほど、指先の下というか本質に近づき易くなるんだ。リハーサルや音楽演奏という行為と親密な会話を続ける必要があるんだよ。そのためには、生活の中である種の優先順位を保って、そういう時間を毎日2-3時間はやれるようにしておかなきゃいけない-----でないと、円周の外側に出ちゃって、内側に入るために一からカリカリ地道に削っていくようなことをやらなきゃならなくなるんだ。緊張や負荷がかかる作業をね。いつも円周の内側との接触を保つようにしていれば、そういう点でもっとスラスラ楽に行ける訳。
PS: 「プロの立場として質問です: 「Souvenir」の録音とリリースを自分のレーベルで行なうことの利点として、ひとつには自由が得られるということがありますが、他にはどのような利点がありますか?」
EJ: インターネット・リリースを始めるってこと自体がいいことだったし、それは当然、将来への青写真にもなるよね。あとね、ぱっと行ってワーキングテープを聴いて、「これ、いいカンジだ」と言うっていうそのことが、僕にはいい治療になったよ。1-2年前とかそれ以前の意思決定方法でやってたら、「このギターのここのG弦が1センチずれてる」とか、あんまり上手く合ってないとか色々言って、きっとリリースしなかったと思うんだ。ホントこれって、治療的なリリースだったと思ってる、個人的にね。だって今回はさ、「ここはいいカンジだし、つかめそうなものが醸し出されてるし、よし、これを実践しよう。時間ばかり喰って役にも立たないことをちまちまとやるんじゃなく、手を放して流れのままに行かせる方に力を入れよう」と思ったからね。「労多くして報いなし」についちゃ、もうCharles Atlas級なんだしさ。実践してれば、お手の物になるよ。
(訳注:Charles Atlas: アメリカの雑誌等によく広告の載っている、「あなたもXX日でマッチョマン」的ボディメイクプログラムの主)
PS: じゃあそれでレコードが変わったかい?
EJ: うん。僕の他のアルバムよりも好きだっていう人も実際いるもん。「Souvenir」は、そういう何かがあるんだよ。つまりさ、「サージェントペッパー」とかそのテの名作レコードな訳じゃないけど、ある種の雰囲気とか、違う形で生きたものとかが入ってるんだ。
PS: 今後のリリースもこのセンで行く?
EJ: うん。
PS: 「Souvenir」の中で、お気に入りがあるかい?
EJ: "Get to Go"が好きだな。新鮮で、ちょっと違うから好きなんだと思う。TommyとKyleとこの曲を演るのは楽しかったし、ギタープレイはいつも普通にやってるのとちょっと違うんだ。なんていうか、ちょっと違うアプローチにしたんで、結果もそうなったんだよ。プレイバックを聴いた時、「これは、いつものリードなんかをやってる自分じゃないな」って思ったもん。この曲以外では、あの曲のあの部分とか、そういうお気に入りがぱらぱらと。
<Parkより: この後のいくつかの質疑応答は、録音機器の不具合で失われてしまいました>
EJ: そう、時々あるよね、CD買ったはいいけど、いい曲とか気に入った曲はその中のほんの1-2曲っていうこと。全部の曲を楽しんだり、絶対ほしいと思ってCDを入手したりすることは、どんどん少なくなって来てるよ。レコード産業は、ヒットする1曲を得るかどうかですごいプレッシャーにさらされていて、それ以外は及びじゃない。他のものと一緒にともかくその1曲をCDに突っ込んで、はいリリース、と。だから、ある意味、結果についちゃ、ちょっとばかり負担も背負うはめになってる訳。そういうことから考えてみると、実はみんなCDをまるまる買うことにはそれほど興味なくて、単にその1曲だけを求めるようになって来てるのかもね。全曲楽しめるCDを手に入れるなんて、すごくまれな話で。
PS: シングルを買うって手もあるが。
EJ: 多分、CDを買うっていうアイデア自体がわずらわしいんだろうね。今日びは、ぱっとダウンロードして、小さなプレイヤーに入れとけばいいんだから。
PS: <Parkより: 残念ながらインタビューの最後の部分も失われています。もし自分の質問が出ていなければ、また次回の質問募集の時にお願いします>
=おしまい=