jumper's room&ハートに火をつけろ 合同企画
高校生のための環境ホルモン入門
神奈川県立鶴見高等学校理科教室
(1)「環境ホルモン」とは何か? |
(2)環境ホルモンの種類 |
(3)環境ホルモン(ダイオキシン)の発生源 |
最近、テレビや新聞等マスコミを「環境ホルモン」という言葉がにぎわせています。
「環境ホルモン」という言葉は、日本で生まれた言葉ですが、正確には
「外因性内分泌かく乱物質」とか「ホルモン阻害物質」と呼びます。
「環境ホルモン」という語源は「エンドクリン・ディスラプターズ」
内分泌(エンドクリン)を破壊(ディスラプターズ)するという意味です。
環境中に放出される化学物質で、一口でいえば「性ホルモン」の正常な分泌や
働きを乱す物質です。このような「環境ホルモン」という化学物質が注目を
あびるようになったのは1996年に「奪われし未来」が出版されてからです。
しかし、この問題については、すでに1962年アメリカの科学者レイチェル・カーソン
女史が書いた「沈黙の春」で警告していたのです。
この中では1940年来北アメリカで使用されていたDDTなどの農薬による
野生生物への影響について述べています。(資料@)
(表@)
| |
ワニ (米国) フロリダ州アポプカ湖のワニは、ふ化数が減少した。 生態のオスもペニスが小さく生殖不能な例が多い。 湖に流入したDDTなどの有機塩素農薬が原因らしい。 | |
コイ (日本) 横浜市大の井口泰泉教授らの調査で、 オスのコイ38匹中、11匹の精巣が小さかった。 水質分析で洗剤などに使われる界面活性剤のノニルフェノールが見つかった。 | |
カモメ (米国) 米国の五大湖で、メスとメスで子育てするなどの異常行動が見られた。 甲状腺の異常も目立つ。DDTやある種のPCBなどの影響と考える。 | |
アザラシ (オランダ) オランダのワーデン海でゼニガタアザラシ急減した。 生殖能力の低下、免疫機能も低下して感染症にかかりやすくなった。 PCBなどが疑われる。 | |
イボニシ (日本) 国立環境研の堀口敏宏さんの調査で、 日本沿岸の94ヶ所でメスのイボニシにペニスができていた。 貝の付着を防ぐための船底塗料(有機スズ化合物)が原因。 | |
ニジマス (英国) オスの精巣が小さく、メス化が進み、数も減少した。 汚水処理場からの放出水に含まれる界面活性剤のノニルフェノールが原因と疑われる。 |
日本の環境庁の中間報告(1997)では、
67種の疑われている化学物質が環境ホルモンとして報告されています。
分類すると農薬(除草剤・殺虫剤・殺ダニ剤)が全体の64%にあたる43物質を占めています。
アメリカ政府では、8万5000種の懸念される化学物質をリストアップし、
年間4.5トン以上生産される15,000種に絞り込み、21世紀初頭には結論を出すことになっています。
このような「環境ホルモン」という化学物質で、オスのメス化等の生殖異常、発癌性、
奇形の発生、免疫力の低下等いろいろな疑いが懸念されています。
ここでは、ゴミの焼却によって発生するダイオキシン、夢の農薬といわれたDDT、
船底の塗料に用いられる有機スズ化合物、
学校給食用ポリカーボネート食器や哺乳瓶に含まれるビスフェノールA、
合成洗剤や界面活性剤に使用されるノニルフェノール、
塩ビ系のおもちゃに使用されるフタル酸エステル、
カップ麺容器から溶け出されると言われるスチレン類などについて学習する事にします。
私たちは、「環境ホルモン」についての基本的な知識を身につけることにより、
この問題を良く理解し、私たちの社会や将来を守るために
どのように行動したら良いかを考える機会にして欲しいものです。
表@ 環境ホルモンの野生生物への影響に関する報告一覧(環境庁・研究班のまとめより) | |||||
生物 | 場所 | 影響 | 推定される 原因物質 |
報告された年 | |
貝類 | イボニシ | 日本の海岸 | 雄性化、個体数の減少 | 有機スズ化合物 | 1994 |
魚類 | ニジマス | 英国の河川 | 雌性化、個体数の減少 | ノニルフェノール *断定されず |
1985 |
ローチ (鯉の一種) |
英国の河川 | 雌雄同体化 | ノニルフェノール *断定されず |
1994 | |
サケ | 米国の五大湖 | 甲状腺過形成 個体数の減少 |
不明 | 1992 | |
爬虫類 | ワニ | 米国フロリダ州の湖 | オスのペニスの矮小化 卵のふ化率低下、 個体数減少 |
湖内に流入したDDT等 有機塩素系農薬 |
1994 |
鳥類 | カモメ | 米国の五大湖 | 雌性化、甲状腺の腫瘍 | DDT、PCB *特定されず |
1987 1986 |
メリケンア ジサシ |
米国ミシガン湖 | 卵のふ化率低下 | DDT、PCB *特定されず |
1989 | |
哺乳類 | アザラシ | オランダ | 個体数の減少、 免疫機能の低下 |
PCB | 1986 |
シロイルカ | カナダ | 個体数の減少、 免疫機能の低下 |
PCB | 1995 | |
ピューマ | 米国 | 精巣停留、精子数減少 | 不明 | 1995 | |
ヒツジ | オーストラリア (1940年代) |
死産の多発、奇形の発生 | 植物エストロゲン (クローバー由来) |
1946 |
(3)環境ホルモン(ダイオキシン)の発生源
環境ホルモンとしての代表的なダイオキシンは、全体の90%以上が焼却場から発生しています。(表B−1)
特に一般廃棄物(ゴミ)の焼却に伴うもので81〜84%、
産業廃棄物によるものが11〜13%を占めています。
その他金属精練や石油添加剤の焼却によるものを加えると全体の99%になります。
驚くことに、煙草の煙からもダイオキシンが発生されることが報告されています。
表B−1 日本におけるダイオキシン年間発生量 | ||||
発生源 | 排出量 | 備考 | ||
g−TEQ/年 | 割合 | |||
燃焼過程 | 一般廃棄物焼却 産業廃棄物焼却 金属精錬 石油添加剤(潤滑油) タバコの煙 黒液回収ボイラー 木材・廃材の焼却 自動車排ガス |
4300 547〜707 250 20 16 3 0.2 0.07 |
81〜84% 11〜13% 5% 0.4% 0.3% 0.06% 0.004% 0.001% |
一般廃棄物焼却炉は「ゴミ焼却炉に係るダイオキシン類発生防止等ガイドライン」 その他は平岡京都大学名誉教授らの試算 |
小計 | 5140〜5300 | 99.99% | ||
漂白過程 | クラフトパルプ | 0.7 | 0.001% | 環境庁試算 |
農薬製造 | PCNB | 0.06 | 0.001% | 環境庁試算 |
合計 | 5140〜51300 | 100% |
*PCNB : ダイオキシンを含む農薬製剤。主に殺虫剤として使用される。
出典 : 厚生省「ごみ処理に係るダイオキシン類発生防止等ガイドライン」平成9年1月
平岡正勝「廃棄物処理におけるダイオキシン類の生成と制御」廃棄物学会誌Vol.1
No.1 1990,p20−37など
他の先進諸国に比べ、日本の環境ホルモン(ダイオキシン)汚染がひどい原因は、
焼却場の数と焼却施設の性能にあります。
日本の焼却場の数は1854ケ所、ちなみにアメリカ148ケ所、
ドイツ53ケ所、カナダ17ケ所、オランダ11ケ所です。
しかも日本の場合、日量5トン以下の焼却場や産業廃棄物処理場はこの中に含まれていません。
1997年12月の政令で対象となる民間、公共施設の焼却炉の数は11,371施設になります。
この他に全国の学校(44,341校:84%が1998年5月現在使用取り止め)や家庭の焼却炉があります。(表B−2)
焼却場の煙突から出されるダイオキシンの全国調査(1996.7〜97.3)では80ng/m3(
ナノグラム毎平方センチメートル)以上の施設が105ヶ所もありました。
兵庫県では990ng/m3 、神奈川県大磯町でも370ng/m3 が検出されました。
ドイツの場合、規制値が0.1ng/m3 です。
それ以上の場合はその焼却場は閉鎖されます。
日本ではドイツの800倍以上排出する焼却場が、全国に105ヶ所も存在していることになります。
1994年産業廃棄物処理場の最も多いと言われる
埼玉県所沢市周辺では12,000ng/m3が報告されています。
ダイオキシンは、有機塩素化合物とベンゼン環をもった物質を燃焼させた場合に発生します。
つまり、文房具、家具、電気製品、レジャー用品などのプラスチック類や
梱包材料の発泡スチロールなど私たちの生活を豊かに便利にしているものばかりです。
このゴミ焼却場で、年間100〜500kg のダイオキシン類を発生させ、
そのうち猛毒であるTCDDは約6kgと推定されます。
この中には民間の日量5トン以下の焼却場によるものは含まれません。
ちなみに日本より10年前にダイオキシン対策に取り組んだドイツでは、
焼却によるダイオキシン発生量が、1990年 400g 1997年 4g と確実に削減制作が進んでいます。
また、焼却場の他に製紙工場からの流れる排水からも検出されています。
これは、紙を白くする漂白剤としても塩素によるものです。
静岡県富士市では日量150トンの排水から、約8gのTCDDを流していることになります。
これらが海に流れ魚介類に蓄積し、生物濃縮され、最終的に私たちに大きな影響を及ぼしているのです。
表B−2 各国の都市のゴミ焼却率(1986年)およびゴミ焼却施設数(1993年) | |||||||||||||||||||||||||||||||||
|
出典:酒井伸一京都大学助教授資料 |
*環境ホルモン(ダイオキシン)発生のしくみ
環境ホルモン(ダイオキシン)発生のしくみについて資料Cに示してあります。
「ゴミを燃やす」と言う発想は、物を燃やすとゼロになると言う間違った考え方にあります。
物を燃やすと言う事は、「有機化合物合成プラント」に等しいのです。
資料Cにあるように、有機塩素化合物(ポリ塩化ビニル等)を燃やすとダイオキシン生成のために必要な塩素が発生します。
これがダイオキシン前駆体(ベンゼン核を持った化合物)と結びつくとダイオキシンが合成されるのです。
ダイオキシンの生成は300〜400度が適しています。
日本の大きな焼却炉は、600〜800度でほとんどダイオキシンが分解されるはずです。
しかし、現実には多量のダイオキシンが分解されず、発生しています。
これは、焼却炉の煙を少なくするために、集塵機を取り付けているのですが、この集塵機の温度が、
ダイオキシンの発生に都合の良い300〜400度になり、結果的にダイオキシン発生の大きな原因となっています。
1998年12月より新しく作る焼却炉は、これらを改善し、0.1ng/m3 になるように義務づけられるようになっています。
資料C ゴミ焼却場からのダイオキシンの発生のしくみと塩素ガスを発生するもの | |
塩素ガスを発生するのも
|
*参考資料
|
編者 阿藤 治夫/大田原 玲子/具志堅 明/地代所 達也/福田 浩之/本坊 敏郎/森尾 秀基 jumper : jumper's room & 無我 : ハートに火をつけろ! |
1998年10月29日作成