佐倉市立美術館
体感する美術2002  耳をひらいて  Open your ears

吉村弘「佐倉の鼓動」 1日め(2002年7月20日)
 


■このテキストは、吉村弘ワークショップ「佐倉の鼓動」の中で行ったサウンドオブジェ作りについて、
IFSメンバー井澤由利子さんが、参加者に説明した時のものです。

「Secret Sound in Sakura −佐倉のかくされた音−」
秘密のつくりかた 「デュシャンと泉と秘めたる音に」  

                        文とイラスト:井澤 由利子

 皆さんこんにちは!
音採集、暑い中いかがでしたか?素敵な拾い物はみつかりましたか?
これから、それらを使ってサウンド・オブジェを作りましょう。
題して、「Secret Sound in Sakura −佐倉のかくされた音−」!!

 それでは、その前に「Secret Sound in Sakura −佐倉のかくされた音−」にヒントを与えてくれたマルセル・デュシャンというアーティストのことを少しお話ししようと思います。
キーワードはデュシャン、泉、秘めたる音にです。この3つを新しい言葉として皆さんの中に蓄えてもらえたらうれしいです。

 マルセル・デュシャンは1887年にフランスで生まれました。皆さんは彼が30才のとき発表した《泉》という作品を知っていますか?これは、油絵でもブロンズ像でもありません。なんと!!既製品の男性用便器が作品になっているのです。
想像してみてください。もし、今現在、美術館にウォッシュレット付きの便器が作品として飾ってあったらどう思います?私だったらビックリします。もしかして、さきほどまであなたがトイレで使っていたかもしれない便器と変わらない物体ですよ!?
当時の周囲の驚きもすごかったようです。その証拠に《泉》の展示を拒否されてしまいました。
しかし、後にマルセル・デュシャンの代表作となった《泉》をはじめとする作品は"レディ・メイド(既製品)"と名付けられ、今日の美術を語るには省くことのできない美術作品となったのです。
マルセル・デュシャンは言っています。
「芸術家が使用する絵の具のチューブは製品であり既製品であるのだから、世界中の全ての油絵は「〈手を加えたレディ・メイド〉」であり、アッサンブラージュの作品だと結論づけなければならない。」
〔アッサンブラージュ(assemblage)=さまざまなものを寄せ集めた立体作品。戦後は絵画彫刻の枠を越えて広く行われている。〕
この逆説めいた言葉通り、"レディ・メイド"によって、彼は新しい物の見方、考え方を私たちに教えてくれたと言えます。

 さて、これから私たちが取りかかろうとしているサウンド・オブジェ「Secret Sound in Sakura −佐倉のかくされた音−」は、マルセル・デュシャンの《秘めたる音に》と呼ばれる作品からヒントをもらいました。
この作品が作られたのはマルセル・デュシャンが《泉》を制作する1年前のことです。
作品の外見はやや横長の立方体でそれぞれの幅は約10cm。
これに足が付いたようなものです。紐の巻き玉を二枚の銅板ではさみ、4本の長いボルトで4つの角が留めてあります。
(右のイラストを参照してください。)
 また、銅板の上下には3つの短文が書いてあります。
例えば、1文目は「火、四角形、うねる長波、くぎ、決定した、片づけられた」となっています。意味不明の文ですよね。しかも、単語がところどころ欠けていたので、親切な人が解読に挑戦した結果が上の文です。
マルセル・デュシャンはこれらを「まるで一文字点灯していないために単語がわからなくなったネオンサインのようです。」と言っています。
この《秘めたる音に》は、手に持って振ると何やら音が鳴ります。どうやら、巻き玉の中に何かが入っておりそれが音をたてているようです。しかし、デュシャンはその正体を永遠に知らなかったのです。実は、友人のウォルター・アレンスバーグが密かに何かを入れたのです。彼以外誰も知らない何かとは・・・?

 それでは、さっそくサウンド・オブジェ「Secret Sound in Sakura −佐倉のかくされた音−」にとりかかりましょう。
作り方はとっても簡単。いくつかの紙コップをつなげた中にフィールド・ワークで見つけた拾い物を自由に詰めるだけです。ここで、ちょっとした仕掛けを紹介します。紙コップの中に軽くまるめたアルミホイルを一緒に詰めたり、外から竹串をたくさん刺してみるのも面白いですよ。サウンド・オブジェを振ったとき、音色や音の早さなどの変化が楽しめます。そして、完成には「Secret Sound in Sakura」のスッテカーを貼って下さいね。

 そうそう、皆さん、誰にも中身の正体をうちあけないようにお願いします。
《秘めたる音に》と同じく、永遠の秘密となる佐倉のかくされた音なのですから。
それでは、はじめましょう!!
                                                 
おわり

【参考文献】
ミシェル・サヌイエ編・北山研二訳『マルセル・デュシャン全著作』(未知谷、1995年)
中原佑介『新潮美術文庫49 デュシャン』(新潮社、1995年)

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