音 の 映 画 裏 話 

その1 キャリーケースの幸福 (文:井澤 由利子

私は音の映画作りの裏方担当であった。

記録(ビデオ・写真)やちょっとした雑用を行っていた。
その2日間、「しょうぎ作曲」をジッと眺めていたわけだが、いくつか印象に残ったシーンがあった。
そこで、ここでは映像作品からこぼれ落ちている行間のような話をしようと思う・・・。

スカイブルーの少し壊れかけたキャリーケース。
これはファシリテーターの林加奈さんが持参する楽器入れである。
色とりどりの大量の楽器が次から次へと出てくる。
鍵盤ハーモニカやリコーダー、鈴、ゴム素材のおもちゃから手作り楽器まで20〜30はあるだろか。
恐らく全体で10s弱はあるのではないかと思われる程重い。
このキャリーケースが今回大活躍した。ある男の子が楽器として利用したのだ。
それは1日目の終盤に起こった。突如、ゴロゴロゴロ・・・ガーッという音がした。
見ると、彼が菖蒲園の板道を空のキャリーケースを引いて、猛ダッシュしていた。
足音とローラーの音が重なりながら遠のいたり、近づいたりする。
さらに、咲き乱れた濃淡の異なる紫色の菖蒲と木の板とその上を駆け抜ける男の子とスカイブルーのキャリーケースという情景と、配色の美しさがなんとも言えなかった。
もし、キャリーケースに表情があれば、あの時きっと幸福そうな顔を覗かせていたに違いない。
しかし、残念ながらこのキャリーケース、次の「しょうぎ作曲」では姿が見えなかった。
どうやら、完全に壊れてしまいその座を次の代へ譲ったようだ。 

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