若山牧水歌集

若山牧水

白鳥はかなしからずや空の青海のあをにも染まずただよふ

春のそら白鳥まへり嘴紅しついばみてみよ海のみどりを

雲ふたつ合はむとしてはまた遠く分れて消えぬ春の青ぞら

幾山河越えさり行かば寂しさのはてなむ国ぞ今日も旅ゆく

白つゆか玉かとも見よわだの原青きうえゆき人恋ふる身を

いざ行かむ行きてまだ見ぬ山を見むこのさびしさに君は耐ふるや

白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけり

雲去れば雲のあとよりうすうすと煙たちのぼる朝間わが越ゆ

秩父嶺のうねりの端か低く見えてただよへる雲は四方をとざせり

高山のそのいただきに額あげて風の寒きに触れましものを

この幾日ながめつつ来し浅間山をけふはあらはにその根に仰ぐ

富士が嶺や裾野に来り仰ぐときいよよ親しき山にぞありける

わが登る天城の山のうしろなる富士の高きはあふぎ見飽かぬ

夏雲はまろき環をなし富士が嶺をゆたかに巻きて真白なるかも