税の負担はどうなるか 石弘光著
国の2003年度予算で、衝撃的な数字が世の中の注目を集めた。一般会計は歳出81.8兆円であるのに対し税収が41.8兆円でその税収比率が51.1%と半分をわずかに上回る程度に過ぎない。国の予算は本来経常収入たる税収でその大半を賄うべきもので、その半分が公債発行による借金と税外収入に依存せざるを得ないというのは、異常事態である。バブルのピークであった1990年には、一般会計の税収比率は86.8%と高い水準にあったのが、その後、低下を続け、今日のような状況になったのである。異常に低い税収依存体質になった第一の理由は、バブル崩壊後の長引く低成長、景気停滞である。とりわけデフレ傾向の下で名目所得の伸びが低迷し、これが所得税、法人税などの主要な税収の減退を招いている。第二の理由は景気対策のために連年のように採用されてきた制度減税による影響である。制度減税は、累進税率の引き下げおよび控除水準の引き上げにより減税を行うものである。税率引き下げや諸控除の拡大は、そもそも税収を制度的に確保しにくくする「税の空洞化」を招いてきた。「税の空洞化」とは本来徴収すべき税収を徴収できていない現行税制の欠陥を表現するために用いられている。2003年現在就業者(パートタイマーやアルバイトを含む)のうち、約四分の一が所得税を払っていない。法人税も、約三割の企業しか納税していない。全法人の約七割は赤字法人であり法人税を納めていない。また消費税の納税者である事業者のうち、六割強が免税事業者である。これは非課税水準3000万円を反映したもので、2003年度税制改正で、非課税水準は1000万円に引き下げられた。相続税を負担するものも100人に5人の割合に過ぎない。課税ベースをもっと拡大し、税の空洞化を改めない限り、国にとって必要な税収を確保できない。
所得税
所得税はこれまでの長年にわたる大規模な減税措置により税収確保の機能を著しく減退させ、また課税ベースを縮小させ、その税負担に不公平や歪みを生じさせている。税負担を「広く」「薄く」という所得税改革の目標は、税率のフラット化のみいたずらに先行し「薄く」だけが実現している。今後の所得税改革においては、課税の公平・中立性の確保のために、雑多な所得控除をできる限り統廃合し課税ベースを広げることが求められる。すべての人が「広く」「公平に」税負担を分かち合うような税制に改めねばならない。
・配偶者特別控除の廃止(2004年1月)
夫の年収が1,000万円以下で、配偶者のパート収入が年間103万円(給与所得38万円)以下の世帯では、配偶者控除(38万円)に配偶者特別控除(38万円)が加算されていたが、この加算部分の配偶者特別控除が廃止された。
・住宅ローン控除
住宅ローン控除による減税は一部の利用者にのみ優遇する制度であり、景気対策としての効果でも疑問がある。政治的には2008年までに段階的に縮小が決まったが、将来はもっと大幅に見直す必要がある。
・公的年金控除(2005年1月)
公的年金等控除はその最低控除額が140万円から120万円に引き下げられ、同時に別途老年者控除50万円が廃止される。この結果、年金受給者の課税最低限は、288.5万円から205.3万円に引き下げられることになった。
・その他の控除・非課税
給与所得控除、退職所得控除も縮小し、将来もっと給与や退職金を課税の対象にする必要がある。非課税になっている遺族年金、失業給付も例外なく所得税の対象とすべきである。
消費税
2004年度予算において、所得税13.8兆円、消費税9.6兆円、法人税9.4兆円で消費税が第二位の地位を占めるにいたっている。長引く不況のため税収確保の困難にあえぐ所得税、法人税に比べ、消費税は過去に一貫して安定した収入をあげてきた。世界最悪となった財政赤字や高齢社会の下での財政需要に対応するために、これからの日本経済の立ち直りを待って消費税率の引き上げは不可避と思われている。消費税を、いかにスムーズに引き上げ、欧米先進諸国のように、税制の中核により確実に定着させるかである。もちろん、次の消費税率引き上げまでに国民の支持を得るため、もう一段の行財政改革、歳出削減が必要であることは言を待たない。少子・高齢社会の下で年金・医療・介護など福祉水準を充実させるために、消費税に依存せざるを得ない。
2005年度の国の一般会計決算 税収 49兆 654億円(7.6%増) 所得税 15兆5859億円(6.2%増) 法人税 13兆2736億円(16%増) 消費税 10兆5834億円(6.1%増) 新規国債の発行額 31兆3000億円 |
2006年度の国の一般会計予算 税収 45兆8780億円 所得税 12兆7880億円 法人税 13兆 580億円 消費税 10兆5380億円 新規国債の発行額 29兆9730億円 |