「大破局」の真実   ケンジ・ラーセン/篠崎 忍共著

 コンピュータチップ技術者のケンジ・ラーセンが「日本の電気・ガス・水道・交通網・銀行預金、すべてが危険だ。」とわが国の「2000年問題」対応の現状について警告している。2000年1月1日午前零時は、全世界のコンピュータ・システムにバグが現れる“運命の日”なのである。コンピュータ全盛の現代、人類史上初めての大混乱がどのようなものなのか、その答えは、「2000年1月1日」の幕開けとともに明らかになっていく。

 2000年問題の調査で、もっとも世界で権威のあるガートナー・グループは、その国の企業が2000年問題に対してどのくらい「危機管理」ができているかで4つのグループに分けた。

グループ1(15%)

米国、イギリス、オーストラリア、カナダ、オランダ、デンマーク、スイスなど

グループ2(33%)

日本、ブラジル、ノルウェー、シンガポール、フランス、イタリア、韓国など

グループ3(50%)

アルゼンチン、オーストリアブルガリア、エジプト、インド、マレーシアなど

グループ4(66%)

アフガニスタン、カンボジア、中国、フィリピン、パキスタン、ルーマニア、ロシアなど

 1998年12月12日、120カ国以上が参加して「2000年問題」対策についての国際会議が国連本部で開かれた。国連側は、加盟国の大半を占めている途上国において「2000年問題」の準備が遅れていることを指摘した。そして、世界的なネットワークを通じて、途上国から先進国へ誤動作が“ドミノ倒し”のように連鎖的に広がる可能性を警告、国際協力の必要性を訴えた。

 本来ならば米国がリーダーシップを取って、「2000年問題」にもっと集中的に取りかかるべきなのであるが、米国の好景気が奇妙な安心感を育み、危機感を希薄なものにしてしまった。その結果問題がはっきりと認識されていたにもかかわらず、過小評価されてしまったのである。

 逆に景気が低迷をつづける日本では、政府は、政府系金融機関の低利融資制度を設け、支援制度の活用を呼びかけているが、銀行の貸し渋りなどで流動資金が逼迫している企業が多く「2000年のことより明日のこと」で、余裕がないのが現状だ。金融危機のとき、日本が世界から非難されたのは「対応が遅すぎる」であったが、まさに今回も、その言葉があてはまる。

ヨーロッパは、1999年1月1日、各国通貨と単一通貨ユーロとの交換比率を固定し、「ユーロ」は誕生したが、紙幣・コインの一般への流通など、実質的な導入は2002年1月1日で、2000年問題に注意を払えないという状況にある。

 「2000年問題」が、実社会にどのような影響をおよぼすかを検討していくうえで、電気エネルギーの供給が成立しているということは、大前提条件となる。電力の供給が確保されてはじめて、コンピュータは作動するからである。そういう意味では、ガスも水道もガス会社や水道局の設備を稼動させる電力がなければ機能しない。電力会社で構成される電気事業連合会の報告では「2000年問題」への対応を見るテストを実施、1999年中にはすべて完了できるという。そして現在、現在八割以上が対応済みだとしている。しかし、この報告を鵜呑みにすることはできない。問題なのは「埋め込みシステム」なのだ。日付情報が利用されているか否かは関係ない。ソフト交換を無事終えたからといって、設備面でのハードにおいて、「チップ」が埋め込まれている限り、コンピュータ・バグから逃れることはできないのである。

 「2000年問題」が金融業界もたらす恐怖のひとつは「信用の崩壊」である。ATMが正常に作動しなくなると、人々は窓口の前に長蛇の列をつくらなければならない。人々の不安は増大しこぞって自分の資金を引き出し、現金化しようとする。ある程度の人数がこうした行動をはじめると、実際に銀行システムは崩壊をはじめ、それは負の連鎖となって、他行にも同様なことが起こることになる。また、2000年1月1日、コンピュータ・バグにより国際決済が不可能になった時点で、世界貿易はストップする。コンピュータ故障が修復されるまで、海外との貿易決済ができず、資源が通常通り海外から入ってこなくなることは致命的だ。それは、経済活動だけでなく日常生活にも支障をきたすだろう。日本発の「世界恐慌」のシオナリオは、こういうかたちで起こるかもしれないのだ。

 各家庭や職場では、食料や飲料水はできるだけ多く備蓄すべきであろう。相互に依存したインフラでは、どの部分で破綻が起きても、雪崩のように破綻が広がり、全システムを停止するという事態がありうる。とすれば、個人の「サバイバル・プラン」をつくるときには、個人の欠かせないものを検討し、それが欠けた際に耐えられる許容量を確認することだ。第一に優先すべきことは、自らの命を守ることで、次にライフスタイルの維持を考えるという順序である。