ルポ トランプ王国2   ラストベルト再訪       金成隆一著

  共和党の支持の強いアメリカ中西部の「ラストベルト(さびついた工業地帯)」、都市と地方の中間に位置し揺れる「郊外」、さらにアメリカ深南部(ディープ サウス)に広がる熱心な キリスト教徒の多い「バイブル(聖書)ベルト」を取材している。

2016年大統領選では「民主党のヒラリーには投票したくないので、共和党のトランプに入れた」という声をラストベルトやアパラチア地方で多かった。あ の選挙は「トランプが勝った」というより、民主党が従来の支持層を取りこぼし、自壊したという方が実態に近いのではないか。


2012年の大統領選挙で共和党候補ミット・ロムニーが負けて、2016年の大統領選挙でトランプが勝った州は6つある。
オハイオ、ペンシルベニア、ウィスコンシン、ミシガン、アイオワ、フロリダの6州だ。
6州のうち、フロリダ以外の5州は五大湖周辺の「ラストベルト」に含まれる。
従来型の製鉄業や製造業が栄え、重厚長大型産業の集積地で「オールド・エコノミー」の現場と言える。
ラストベルトの労働者たちは、一般的に労働組合に属し、民主党を支持する傾向が強かった。
この一帯の大統領選では近年、民主党が優勢だった。
この5州ののうち、ウィスコンシン、ミシガン、ペンシルベニアの3州では20年以上も大統領選で共和 党候補が勝てなかった。
オハイオ州は民主党と共和党が揺れる激戦州だ。
ところが、トランプは多くの専門家や報道機関の予測を覆し、ラストベルト諸州で連勝した。
ラストベルトが2016年のアメリカ大統領選の震源地であり、2020年大統領選で「トランプ再選」のカギを握る。



@ペンシルベニア州ルーザン郡(ラストベルト)
2008年と2012年の大統領選民主党オバマが連勝したのに2016年は共和党トランプが逆転勝利した。
ルーザン郡は山あいの産炭地。
「トランプはクレージー。それが気に入ってトランプに投票した。チェンジを期待してオバマを支持したけど、次はトランプに投票した。彼ぐらいク レージーでないと、改革なんてやれない。」
「共和党が好む福祉改革に大賛成。働かない言い訳をしている人が多すぎ、福祉制度が悪用されている。福祉プログラムを削減しないといけない。削減 するにはガッツがいる。だからトランプぐらいクレージーな大統領でちょうどよい。」
「2020年の選挙で民主党が勝つには新しいアイデアを持った新顔が出てくること、労働者の家庭にとって重要なテーマに訴えて集中させること。よ りよい賃金、ヘルスケア。」

Bペンシルベニア州ワシントン郡(ラストベルト)
ペンシルベニア州西部は、天然ガス採掘が盛んな地域。
「トランプはずっとテレビに出ているので強い。扱われ方はグッドでもバットでもいい。出ていれば、皆の記憶に残る。政治に興味がない人でも、いざ 投票所に行けば、トランプの名前を思い浮かべる。」
「トランプはエネルギー業界を支援している。就任早々、パイプラインの建設に許可を出している。」
「トランプは原油やガス業界の手足を縛っている規制を取り除こうとしている。」

Fペンシルベニア州レビットタウン(郊外)
ニューヨーク州ロングアイランドの開発業者ウイリアム・レビットが手がけた、ミドルクラス向けの郊外住宅地。ニューヨークのマンハッタンから車で 1時間半の距離だ。
2018年の中間選挙前の連邦下院は共和党が240、民主党が195だった。これが選挙後は、共和党199、民主党235と逆転した(未定1)。 民主党が40議席増を果たしたことになる。
1990年代末からの都市部での民主党の、2009年ごろから地方で共和党の優位が強まり、その傾向を転換させるのは難しい。激戦区は、都市部と 地方の中間にある郊外に集中している。
Hアラバマ州ブラウント郡(バイブルベルト)
トランプが全米で最も高い得票率を記録したアラバマ州北部の選挙区を歩いた。得票率が8〜9割の郡もある。聖書を文字どおりに解釈する敬虔なキリ スト教徒、エバンジェリカル(福音派)が多い。
「このエリアは、バイブルベルトのど真ん中です。95%の人々が日常的に教会に通い、教会に属しているという意識を持っています。あの選挙では、 オハイオ州やペンシルベニア州の人々が経済的に置き去りにされて不満を爆発させたと言われましたが、ここの人々にも不満があります。ただし、それ は「経済的な不満」ではなくて、「文化的な不満」です。中でも同性婚は、この地域では激論を引き起こす争点です。徹底的に反対します。南部州に は、かつて中西部にあった自動車産業が移って来ているので景気は良い。中西部で「経済的な不満」がトランプ人気を押し上げたように、ここでは「文 化的な不満」がトランプを後押ししました。」

Iアラバマ州ウィンストン郡(バイブルベルト)
「中央政府の仕事は、インフラ整備や軍隊など、個々人が担うには大きすぎるもの。その他の社会的なニーズは、何らかの支援や食糧が必要な人の面倒 を見るのは、教会やコミュニティーの個々人なのです。社会的責任を負わないでいることを容認してしまうと、当然のように怠け者が出てきます。私た ちに必要なのは、昔から言われてきたように「働かざる者、食うべからず」です。働けるなら働かなければなりません。移民だって生産的な市民になる のであれば、何も問題でありません。一帯には農場もあり、多くの移民が必死に働いています。彼らは勤労者で何の問題もありません。」
2018年の中間選挙が終わると、全米の関心は2020年の大統領選に向いた。
2016年に「バーニー旋風」を巻き起こしたサンダースは2019年2月、2度目の大統領選への挑戦を表明した。
3月になると、生まれ育ったニューヨーク・ブルックリンで「キックオフ」の集会を開いた。

「今の政府は一般のアメリカ人ではなく、大企業と大富豪の代表になっています。1950年代のような税制に戻して、富裕層への税率を上げ、以前の ような偉大なアメリカに戻す必要があります。それをサンダースに期待しているのです」



民主党の有力候補
ジョ―・バイデン 元副大統領
バーニー・サンダース バーモント州上院議員
エリザベス・ウォーレン マサチューセッツ州上院議員
カマラ・ハリス カリフォルニア州上院議員
ピート・ブティジェッジ インディアナ州サウスベンド市長