炭水化物が人類を滅ぼす 糖質制限からみた生命の科学             夏井睦著

 穀物がこの世になかったら、文明はこれほど発達することはなかっただろうし、人類はこれほどまで繁栄することもなかっただろう。現代文明の源泉は1万2千年前にメソポタミア平原でコムギの栽培を始めたことにある。穀物は人類を増やしてくれたが、そのために穀物は世界中の土壌から養分を吸い尽くし、地下水を飲み干そうとしている。従来型の灌漑農業と穀物生産は、もうほとんど限界まで来ていて、そう遠くない未来に破綻することは目に見えている。穀物に執着していては、いずれ人類は穀物と共倒れになる運命だろう。

 私たち日本人が食品の多くは糖質そのものである。
◇米(ご飯、米粉パン、お菓子など)
◇コムギ(パン、うどん、パスタ、お菓子など)
◇トウモロコシ(食用油、お菓子、果糖ブドウ糖液糖など)
◇イモ類(イモ料理、お菓子、果糖ブドウ糖液糖など)
◇サトウキビ・甜菜(てんさい 別名:砂糖大根)(砂糖)

さらに、牛肉も豚肉も鶏肉も、飼料はトウモロコシであり、どの家畜も穀物をエサに飼育され、まさに人類の食を支えているのは穀物であり、糖質なのである。さて、その穀物は、どこで作っているかといえば、米だけが日本国産で、コムギもトウモロコシもほとんどすべてが、海外の耕作地で作られたものを輸入している。2011年の数字を見ると、アメリカから320億トン、カナダから130億トン、オーストラリアから100億トンとなっていている。つまり、アメリカやオーストラリアで獲れたコムギで作られたパンやうどんやお菓子を食べ、アメリカで獲れたトウモロコシをエサに育てられた牛や豚や鶏を食べているわけだ。また、アメリカの穀物生産の中心地はアメリカ中西部であり、オーストラリアは南東部が中心である。これらの地域を「世界の穀倉地帯」と呼んでいる。穀物中心に成立している私たちの食を支えているのは、まさにこの「穀倉地帯」なのだ。つまり、この地域での農業が将来も安泰であれば、私たちの食も安泰といえる。ところが、この「日本の食を支える穀倉地帯の農業」が、じつは先行き不透明なのである。持続可能型農業だとばかり思っていたら、じつは持続不可能なシステム、環境破壊型農業、持続不可能な農業だったのである。
理由は次の3つだ。

◇窒素肥料にによる「緑の革命」の弊害
1960年代に始まる「緑の革命」が、穀物生産と食料生産に大革命をもたらす。じっさいに、1960年ごろから、世界の耕地面積は増えていないのに、単位面積あたりの収穫量は右肩上がりに増大していて、それはまさに、人口の爆発的増加にピッタリと一致している。緑の革命とはようするに、化学肥料や農薬の大量使用、機械化と大規模化、品種改良、灌漑技術の進歩などがもたらしたものだが、その中核をなすのが、窒素肥料の開発と、灌漑技術の進歩とされている。しかし、緑の革命からわずか40年ほどで異変が起き始めたのだ。過剰投与した窒素肥料が湖沼や海に流れ出し、富栄養化を起こしたのだ。この結果、世界各地の海岸を、くりかえし赤潮が襲い、沿岸漁業に深刻な打撃を与えるようになった。そして同時に、右肩上がりに順調に伸びを続けてきたすべての穀物と大豆の反収が、2005年ごろから頭打ちになり、国によっては減少し始めているのだ。さらに肥料中の窒素は地下に浸透して、地中微生物の作用で硝酸に変化し、それが世界各国で深刻な地下水汚染をもたらしている。

◇塩害
紀元前6000年ごろに始まった灌漑農法も、乾燥した不毛の大地を緑の耕作地に変えたが、やがて塩害をもたらすことになった。同じ耕地に水を撒くことで、水が次第に地中に浸透し、そこで地中奥深く眠っていた塩と出会って塩水となった。やがて塩水は浸透圧差でゆっくりと上昇して地表に顔を出し、水分が乾燥して塩が残ることになる。耕地を増やそうと、乾燥した地域に大量の水を撒けば撒くほど、塩があがってくるのである。塩が析出された土地では、ほとんどの作物は栽培不可能となった。このような塩害が世界各地の農地で起きているのである。

◇地下水の枯渇
アメリカ中西部のオガラ帯水層は、アメリカ全土の灌漑に使われる地下水の3分の1をまかない、帯水層の上にあるいくつもの大都市の人々の生活と工業を支えている。しかし、この無限に思えたオガラ帯水層も、じつは有限な資源だった。取水できる水位が毎年低下しているのだ。専門家の間では、オガラ帯水層はあと25年ほどで枯渇するという意見が多いそうです。そして、アメリカ同様、地下水を汲み上げて灌漑農業を行っているすべての地域で、地下水位の低下が起きているのである。オガラ帯水層は数百万年かけて形成されたと考えられるが、われわれはそれを、わずか数十年間で飲み干そうとしているのである。日本人の食べている穀物や肉の多くは、オガラ帯水層を使って作られているのだから、私たちも地下水の鯨飲に参加しているといえる。地球上の淡水の総量に比較して、70億人は多すぎるのだろう。そして同時に、慢性的な水不足に苦しめられる人々が増え始めた。1960年ごろまでは、乾燥地域に暮らす人々でも水の心配をせずに生活できていたのに、2000年では5億人が水不足で苦しめられるようになり、現在では7億人を超える人が水不足のために生命の危機に瀕している。

 これらの事実から穀物は、これ以上増産できそうにないし、それどころか、穀物の生産量は今後、減少していく可能性は極めて高いのだ。


やってみてわかった糖質制限の威力
 糖質とは血糖値を上げる栄養素である。摂取した後、すみやかに血糖に変わるのが糖質である。血糖が上がると人体に害があるため、体はそれを筋肉細胞などに取り込むことによって減らすことになるのだが、糖尿病の人の場合には血糖を減らす機能のスイッチとなるインスリンがうまく働かないため、高血糖状態が続き、目の網膜や腎臓に障害が起こることになる。

 筆者は糖質制限をして半年で体重が70キロから59キロに11キロも痩せた。
しかも高血圧も高脂血症も自然に治っていた。

糖質を摂取しなくても人間は普通に生活できるし、それどころか、肥満も糖尿病も高血圧も高脂血症も治ってしまい、スタミナが付き、どんどん健康になっていく。薬もインスリン注射も不要な糖尿病の根本治療が糖質制限だ。糖質制限するだけで糖尿病にはならず、糖尿病になったとしても糖質制限食にするだけで血糖値が正常化する。

人間の生存に欠くことができない必須アミノ酸に関しては、食事で外部から取り入れるしか方法がないが、アミノ酸を材料にブドウ糖を合成する「糖新生」というシステムが人間には備わっていて、タンパク質さえあればブドウ糖は自分で作り出せる。

 糖尿の糖質制限治療の提唱者、高雄病院の江部康二先生は、糖質制限を次の3パターンに分けている。
◇プチ糖質制限(夕食のみ主食抜き)
◇スタンダード糖質制限(朝食と夕食のみ主食ぬき)
◇スーパー糖質制限(3食とも主食ぬき)

まず、糖質制限に興味を持たれた人は、「プチ糖質制限」に挑戦してほしい。これだけでもダイエット効果があり、ウエスト引き締め効果があるからだ。 筆者は「スタンダード糖質制限以上、スーパー糖質制限未満」といったあたりの食生活を続けている。

●筆者のホームページ『新しい創傷治療』の中でミニエッセイの項目に糖質制限の記述があります。