消費者金融 実態と救済         宇都宮健児著

 サラ金などの消費者金融を利用して返済困難に陥っている多重債務者の数は、少なく見積もっても150万人から200万人は存在するだろうといわれている。多重債務者の大半は、債権者の厳しい取立てを恐れて借金返済のための借金を繰り返すという自転車操業を余儀なくされている。また、多額の借金や債権者の厳しい取立てを苦にして自殺や夜逃げをする多重債務者も跡を絶たない。
 多額の借金を抱えて返済困難に陥る多重債務者や自己破産が急増する一方で、消費者金融は史上最高の利益を上げ続けている。テレビでは、一日中サラ金のCMが大量に流されつづけており、新聞や雑誌でもサラ金の広告が氾濫している。また、日本中どこに行っても駅前や繁華街のビルは、サラ金の看板や店舗で占領されており、街頭ではサラ金会社の従業員が頻繁にティッシュペーパーを配る姿が見受けられる。
 サラ金では、健康保険証や運転免許証などがあれば、50万円近くの現金を無担保・無保証で簡単に借りることができる。さらに、無人契約機を利用すれば、誰にも会わずに借金することができる仕組みになっている。しかしながら、サラ金の金利は年25〜29.2%の高金利であるため、たった1回のつもりで気軽にサラ金を利用した場合でも、多重債務者の立場に陥ってしまう危険性がある。経済不況が長期化・深刻化する一方で、サラ金の広告や無人契約機が氾濫しているわが国の社会においては、誰もが多重債務者の立場に陥る危険性があるといっても過言ではない。

多重債務者
 サラ金から多額の借金を抱かえて自分の収入ではとても返済できなくなる多重債務者の立場に陥った場合、毎月の返済を一度でも怠るとサラ金業者から厳しい督促・取立てを受けるようになるので、最初のうちは両親や兄弟、会社の同僚などから返済資金を借り入れて返済しようとする。しかしながら、毎月毎月借金の依頼をしていると、そのうち両親や兄弟、会社の同僚から見放され、借金を断られるようになる。このような状態に陥った多重債務者の多くが、借金返済のために新たにサラ金から借金をする自転車操業を繰り返すようになる。

多重債務者救済への道
サラ金業者の直接取立ての停止
 貸金業規制法に関する金融庁の事務ガイドラインでは、「債務処理に関する権限を弁護士に委任した旨の通知、又は、調停破産その他裁判手続きをとったことの通知を受けた後に、正当な理由なく支払請求すること」を禁止している。このため、サラ金業者の多重債務者に対する直接取立てを止める方法には、以下のものがある。
●多重債務者が弁護士に債務整理を依頼し、弁護士がサラ金業者に介入通知を出したとき
●多重債務者自身が調停・個人再生手続・自己破産などの手続をとったとき

任意整理
 弁護士が多重債務者から債務整理の相談を受けた場合、債務額がそれほど多額でないときは、任意整理で債務整理を行っているのが一般的である。任意整理とは、裁判所などの公的機関を利用しないで、私的に直接サラ金業者と和解交渉をして債務整理をする。任意整理では、サラ金業者毎に取引経過を調査して、利息制限法に基づいて債務額を計算した上で、債務者の収入の範囲内で一括弁済または分割弁済の交渉を行っている。利息制限法では、元本10万円未満の場合は年20%、元本10万円以上100万円未満の場合は年18%、元本100万円以上の場合は年15%をそれぞれ制限利息とし、これを超過する部分については、利息契約を無効と定めている。

調停
 
債務額がそれほど多額でない多重債務者が、多重債務者自らが債務整理を行おうとする場合は、簡易裁判所に調停申立てをして債務整理を行うのが一般的である。簡易裁判所の調停委員の斡旋を受けながら、和解の成立を図る制度である。調停においても、サラ金業者毎に取引経過を調査し、利息制限法に基づいて引き直し計算をして残債務を確定させる方法で、和解の話し合いが行われる。

個人再生手続
 個人再生手続は、2001年4月1日より導入され、負債総額が3000万円以下の個人で、将来において一定の収入を得る見込みのある個人が利用できる。再生計画案を立て、この再生計画案が裁判所によって認可され、再生計画に従って原則3年間に債務の一部を将来の収入の中から返済すれば、残りの債務が免除される。個人再生手続には、債権者の消極的同意を要する「小規模個人再生手続」と債権者の同意を要しない「給与所得者等再生手続」の二つの手続がある。

自己破産
 任意整理や調停も困難になるほど多額の債務を抱かえた多重債務者にも再出発の機会が与えられる最後の救済手段として「自己破産」という制度がある。自己破産の申立てをして、その後「免責決定」を受けると債務が免除される。