台湾の主張    李登輝著

 李登輝は農業経済学の学者だったが、蒋経国総統から政治を学び台湾総統となった。台湾が日本統治時代の教育を受け、日本の古典や日本の思想家、文学者の本を読んで精神的な影響を受けた。また、アメリカにも二度留学し、アメリカの社会、政治にも詳しい。現在台湾は国として認められていない微妙な立場にあるため、敏感に世界の情勢を受けとめている。マスコミに報道される表面的な情報だけでなく、底流の流れを把握しないと判断を誤ることになる。

経歴

・1923年台湾に生まれる
・1942年(19歳)京都帝国大学農学部に入学
・1946年(23歳)台湾大学農学部に編入
・1952年(29歳)アイオワ州立大学修士過程に入学
・1961年(38歳)キリスト教に入信
・1965年(42歳)コーネル大学大学院博士過程に入学
・1968年(45歳)コーネル大学の農学博士号を取得して帰国
・1978年(55歳)台北市長に就任
・1981年(58歳)台湾省政府主席に就任
・1984年(61歳)蒋経国総統により副総裁候補に指名され選出された
・1988年(65歳)蒋経国総統の逝去後、総統となる 

政治哲学

 われわれは自我をもつ利己的な個人に他ならないが、社会という場で生きるには、お互いが愛をもって生きていくべきだということである。その愛が、神の愛を顕現させるような深い肯定の心であれば、社会は思いやりと活力に満ちたものとなる。 

いま中国に望むこと

 中国大陸は政治的には共産主義だが、経済的には市場経済だというような制度には、基本的に重大な矛盾が存在している。経済的な生産が上昇して生活が少しでもよくなれば、人民は一時的には満足するが、この矛盾から生まれてくる混乱は抑えることができない。中国大陸では、これまでの量的な変化を経て、質的な変化の構造転換を行おうとしている。時間をかけ大陸地区の民主化と両岸関係の発展により平和統一する「一つの中国」政策を進めることを望む。

いまアメリカに望むこと

 アメリカが中国大陸に望んでいることは、台湾のような方法で自由化・民主化して、安定した勢力になることだと考えている。しかし、そうなるまでには時間がかかるから、現在のような状態でも、ともかく中国大陸に「エンゲージメント(約束)」して、中国大陸を国際秩序に従わせる必要がある。

 台湾の国際機関(WTO、IMF、世界銀行)への加盟をアメリカがサポートしてほしい。国際連合の加盟は最終的な問題としても、台湾の現在の国際的地位からいって、諸国際機関に参加させておくことは、アメリカの新国際秩序形成にとっても重要だろう。

いま日本に望むこと

 日本が停滞している理由は、世襲制がはびこってしまったこと、官僚主義が変化への対応を遅らせてしまったこと、必要以上に自信喪失したことを指摘している。日本がアジアの経済協力体制をリードするのが好ましい。これまで、日本は多額にのぼる援助を行い、多くの企業を進出させながら、どこか及び腰のところがあって、ASEANの国々の信頼を獲得していない。日本人は、何事にも真面目で、真剣に取り組むが、信念が希薄である。大事なことは信念をもち、行動を起こすことである。