プロフェッショナルの条件いかに成果をあげ、成長するか       P・F・ドラッカー著

 20世紀の最大のできごとは、人口革命である。 量的には、世界の人口の爆発的な増加であり、今日の先進社会の高齢化をもたらしつつある平均寿命の爆発的な伸びである。質的には、さらに重要なこととして、先進社会における労働人口の中身の変化、肉体労働者から知識労働者への重心の移動である。

 今日の知識労働者の平均寿命は伸びたが、彼らの雇用主たる組織の平均寿命は着実に短くなっている。今後、グローバル化と競争激化、急速なイノベーションと技術変化の波の中にあって、雇用主たる組織、特に企業が繁栄できる期間は確実に短くなっていく。知識労働者が、雇用主たる組織よりも長生きすることを念頭におかなければならない。第二の人生のために、新しいキャリア、新しいアイデンティティ、新しい環境の用意をしておかなければならない。

 知識労働者は知識という生産手段を所有する。しかも、その知識は頭の中にある携行品である。知識労働者は雇用主たる組織よりも長生きする。知識労働者の帰属先は、雇用主たる組織ではなく、自らの専門領域そのものとなっていく。

 今後、組織の競争力は、人をして何かを生み出させることにかかっている。もはや、生産資源(土地、労働、資本)から競争優位は得られない。今日では、あらゆる企業が、同一の価格でいかなる原材料も手に入れられる。資金は世界中から調達できる。意味ある競争力要因は、知識労働の生産性である。

 知識社会では、専門知識が、一人ひとりの人間の、そして社会活動の中心的な資源となる。とはいえ、個々の専門知識はそれだけでは何も生まない。他の専門知識と結合して、初めて生産的な存在となる。知識社会が組織社会となるのは、そのためである。組織の目的は、専門知識を共同の課題に向けて結合することにある。

 組織は、イノベーションをもたらすべく組織される。イノベーションとは、アメリカの経済学者ジョセフ・シュンペーターが言ったように創造的破壊である。組織は絶えざる変化を求めて組織されなければならない。組織の機能とは、知識を適用することである。知識の特質は、それが急速に変化し、今日の当然が明日の不条理となるところにある。新しい組織社会では、知識を有する者が、4,5年おきに新しい知識を仕入れなければならない。さもなければ時代遅れとなる。

 組織は社会の機関である。外の世界へ貢献することが存在理由である。組織は成長するほど、特に成功するほど、組織に働く者の関心、努力、能力は、組織の中のことで占有され、外の世界における本来の任務と成果が忘れられていく。したがって、組織に働く者は、意識的に外の世界を知覚する努力をしなければ、やがて内部の世界の圧力によって、外の世界が見えなくなる。

 知識労働者は、自らの組織よりも長く生きる。自らをマネイジメントすることができなければならない。自らもっとも貢献できる場所に置き、成長していかなければならない。自らが行うこと、その行い方、行うとき、さらにそれらをいつ、いかに変えるかを知らなければならない。自らをマネイジメントするためには、強みや仕事の仕方とともに、自らの価値観を知っておかなければならない。組織には価値観がある。そこに働く者にも価値観がある。組織において成果をあげるためには、働く者の価値観が組織の価値観になじまなければならない。さもなければ、心楽しまず、成果もあがらない。