沖縄の不都合な真実             大久保潤・篠原章著

 本書の中心的なテーマの一つは「米軍基地問題」です。その象徴が、沖縄本島中部にある普天間基地の辺野古移設問題です。米海兵隊の普天間基地は宜野湾(ぎのわん)市の真ん中にある。人口密集地で軍用ヘリなどが頻繁に発着を繰り返していることから、『世界一危険な基地』ともいわれてきた。その危険性を除去するため、橋本龍太郎首相の強い意向を受けて普天間基地の返還・移設が決まったのは1996年4月のことである。2006年には、普天間代替施設を本島北部の名護市辺野古に移設する案が日米政府間で最終的に合意され、移設に反対する県民の声も本土に届くようになった。
 2009年9月に首相に就任する鳩山由紀夫氏が、その年の7月に遊説先の沖縄で、『最低でも県外』と発言し、移設問題はにわかに紛糾する。『辺野古で決まり』と思っていた多くの県民が鳩山発言に期待を寄せたが、鳩山首相はそれには応えられなかった。その結果、沖縄では、政府に対する失望が広がり、移設反対運動もこれまでになく激化した。
 2013年暮、仲井眞弘多(なかいまひろかず)知事が、県民の反対の声を押し切って移設のための埋め立てを強引に承認すると、知事と同じく保守派の重鎮でありながら、辺野古移設に反対してきた翁長雄志(おながたけし)那覇市長が革新派をも糾合して知事への対決姿勢を強めた。
 2014年11月の知事選では、仲井眞(なかいま)・翁長(おなが)両候補が激しく争い、翁長氏が当選した。

 翁長知事は、那覇市長時代に「振興策なんかいらない」と言ったことがあります。これを知事としても言い続けることができるかどうか注視していくべきでしょう。翁長知事は自民党の沖縄県連幹部として、仲井眞前知事とともに日本政府から振興策を引き出してきた人です。政府に依存してきた過去を振り切り、「振興策はいらないから基地を減らせ」と安倍晋三首相に面と向かって言えるかどうかが、沖縄の将来を決定づけます。日本の安全保障を支えるために多くの基地を抱える沖縄は、迷惑施設を抱かえる見返りに国から振興資金がもらえる構図になっている。迷惑施設を受け入れる理由は過疎です。

 沖縄は1609年に薩摩藩が徳川幕府の許可を得て琉球に侵攻し、琉球は薩摩藩の支配下に置かれました。琉球国の政治的・外交的な意思決定は薩摩藩が幕府と相談しながら下し、内政の大半は琉球の自治に任されていました。人口の六割余りのハルサー(百姓)が三割余りサムレー(士族)を養っていた構図になります。「公務員の優位」という沖縄の特徴は琉球王朝時代に出発点があった。

 琉球国が1879年(明治12年)に強制的に日本に編入されました。この「琉球処分」は沖縄版の「廃藩置県」で、「処分」という言葉には、琉球側が明治政府の度重なる「廃藩置県」の要求に応じなかった懲罰的な意味がこめられています。王政は廃されたものの、不平士族を懐柔するために彼らの封建的な経済基盤そのまま温存・継続されました。富国強兵を急ぐ明治政府は、琉球士族の抵抗に時間と労力を割くのを回避するため、まずは琉球の日本への編入を急ぎ、琉球の体制内矛盾である支配・被支配関係の解決は先送りしたのです。

 沖縄県にとって最大の経済的な課題は何よりも「貧困」にあります。
@所得が公務員に偏在している。
A所得上の著しい公民格差が存在する。
B政治的に影響力のある公務員が経済的なイニシアティブも握っている。
C結果として「民」の優位ではなく、琉球王朝以来の「公」の優位が温存されている。

 本土復帰で公務員の給料は本土並みに高騰し、民間では電力、銀行、建設大手が公共工事を背景に極端な市場支配力を手に入れ支配階級が固定化されました。復帰を先導した公務員は、戦争と米国支配と基地の三重苦を訴えて振興策を求める行政と一体化し、マスコミと学識者も共闘しました。琉球王朝は先島(さきしま)(宮古・八重山)に過酷な人頭税を課し、明治政府は琉球王朝の士族にだけ配慮して人頭税を温存させ民衆の側には立ちませんでした。今も日本政府は支配階級にだけ配慮し、抑圧されている市民の側には立ちません。沖縄の支配階級の一体観をより強固にしているのが、琉球大学OB社会です。琉球大学出身者が県庁、政財界、マスコミ、学識者の中枢を占め意思決定に関わっています。公務員と大企業だけが潤う階級社会は本来、左翼勢力からの批判で修正されるのが健全な姿ですが、支配階級と闘う労組がなく、「反日」の沖縄民族主義でマスコミ・学識者・官公労が行政と一体化する、他の地域では見られない特殊な階級構造を形成しています。

 沖縄の基地の四分の三を占める海兵隊を減らせば、借地料も減り、振興予算も削減できます。振興予算は沖縄の地域社会を壊している元凶です。海兵隊基地を減らすことは、沖縄の基地周辺住民の騒音を減らし、事件や事故を減らしたうえ、自律経済に貢献します。国民の税負担も減ります。「減らす」メリットを全国民で共有すれば沖縄の海兵隊を減らすことは可能だと考えている。