老いてゆく未来少子高齢化は世界をこう変える  ピーター・G・ピーターソン著 山口峻宏訳

 グローバルな高齢化の問題が、巨大な氷山のように先進国の未来に横たわっている。
 水面上に見えるのは、今後数十年における前例のない高齢者の増加と若者の減少である。水面下にあるのは、まだあまり認識されていないが、人口構成の変化に伴う経済コストと社会コストの急激な増加である。グローバルな高齢化の問題が、今後あらゆる先進国の公共政策の中心課題となるだろう。
 

財政の現実

年金給付の増大
 賦課方式年金給付への財政支出が爆発的に増大すると予想されている。日本ではすでに高齢化の波が押し寄せているが、政府の年金支出は1995年のGDPの6.6%から、2030年には13.4%に倍増すると、OECDは予測している。日本では、今後年金を支払うために、労働者の給与所得税の比率を、現行の約17%から34%までひきあげなくてはならない。

医療費負担の増大
 高齢者は一人当たりの医療費が、若い人の3倍から5倍かかる。高齢者の高齢化が、これまで以上のペースで、一人当たりのコストを増大させていく。高齢者の長期的なケアの巨額な医療負担は十分に見込まれていない。

年金危機を克服する戦略

退職の延期の奨励
 退職年齢の低下と寿命の延びが年金コストに及ぼす甚大な影響は計り知れない。早期退職させるより退職を遅らせるほうが、高齢化による財政負担は相当軽くなるはずである。退職が一年遅れるたびに、年金給付が一年分少なくてすみ、給与所得税負担は一年分多くなる。OECDによる予測で、退職年齢を徐々に70歳まで引き上げていくと、最終的にほぼすべての国において、年金支出の合計は20%〜40%減少する。退職の延期は、単に財政的な理由からだけではない。仕事を続けることは、高齢者たちの健康と福祉の増進になるという。

働き盛りの労働人口を拡大する
 生産年齢の市民にもっと仕事に就いてもらうか、生産年齢の移民の流入を増やすのである。今後数年のうちに、若年労働者の不足がさらに深刻化するのは明らかである。生産年齢の国民で、現在雇用されていない人は仕事を見つけ、雇用されている人は勤務時間を長くするのである。また、技能をもった若い移民をもっと多く引き寄せ、いっそう経済を繁栄させていく。それによって、即座に税金や保険料の支払いが生じるという利点がある。

育てる子供の数を増やし、より生産性の高い人間に育てる
 高齢者を扶養する負担を軽くするために子供の数を増やしコスト負担を分散させる。出産奨励策によって、子供をもつ親への税制優遇措置や家族手当の支給を続ける。

親孝行を強調する
 高齢になった自分の親の世話を進んでしようとする子供たちを増やしていくことである。

給付をより緊急性の高いものに絞る
 金銭的な逼迫を基準として対象を絞り、給付金を節約することである。給付対象を絞る戦略は、高齢者への社会保障を本来の目的に戻し、コスト全般を減らす一方で、貧しい人へ振り向ける給付を増やすものである。

老後に備えた貯蓄を国民に求める
 国民に、老後に備えて、現役のうちに貯蓄を増やし投資を行うように求める。将来受け取れる年金の資格を個人に与えることは、国民貯蓄を増大させ、かつ今後の納税者に害を及ぼすことのない年金制度をつくり出す唯一の効果的な方法である。

まとめ

 カエルは熱い湯のなかに落ちると、すぐ飛び出すが、冷たい水のなかでゆっくり温められると、煮えるまで辺りをのんびりと泳ぎ回っている。
 人は近い将来に必ず起きる壊滅的なトラブルをわかっていながら、あまり対応しようとしていない。先進国の高齢化には、幅広い経済的変化が伴い、経済成長の急激な減速があり、財とサービスの国民生産において慢性的な減少を生じる国も少なくない。さらに年金給付の急増に伴う容赦ない財政圧迫によって経済が悪化することはまちがいない。