オバマのグリーン・ニューディール        山家公雄著

  オバマ大統領は、選挙運動期間中から、環境・エネルギーを最重要課題として、取り上げて、中長期的な体系だった政策を打ち出してきた。 大統領に選出されてからも、選挙公約は、環境・エネルギー政策のベースとなっている。 グリーン・ニューディールという名前の由来は、グリーンエネルギー、環境に優しいエネルギーにある。 グリーン・ニューディール政策は、環境に焦点を当てて将来にわたり競争力のある産業を起こし、雇用を作ることが主目的とされる。 また、ニューディール(New Deal:新規まき直し)に示されるように、不足しており、また老朽化が進んでいるインフラを整備し、国力の基礎を整備し、やはり雇用を生むことを目指している。 省エネ・再生可能エネルギー等への積極的な取り組みにより、地球温暖化問題に率先して取り組む姿勢を示し、その実現を図っていく。 米国での環境産業の中心を担うのが、再生可能エネルギー、電気自動車の一種ともいえるプラグイン・ハイブリッド(PHEV)、そしてバイオ燃料である。急浮上したスマートグリッドというインフラの概念も、これらと密接に関連する。

 米国政府は、推進すべきエコカーとして、バイオ燃料対応車とともにプラグイン・ハイブリッド(PHEV:Plug-in Hybrid Electric Vehicle)を名指した。 PHEVは電気自動車とハイブリッド車の中間に位置する電気自動車の一種である。 PHEVの特徴は、輸送用のエネルギー源として電気を使用すること、動力がエンジンから電気モーターを使用することで自動車のエネルギー効率は大きく改善する。 PHEVは、自動車のエネルギー源をガソリンから電気に代えるものであるが、米国の電源の5割は石炭である。 したがって、エネルギー資源を輸入原油から石炭に代えるとみることができる。 米国内のエネルギー資源で最大なのものは、石炭である。 可採年数は200年を優に超え、多くの雇用を抱かえる重要な国内産業でもある。 ガソリン代替を石炭でできれば、好都合である。 石炭のアキレス腱はCO2排出量が多いことであるが、発電用に使われ、その電気がPHEVのエネルギー源として利用された場合は、CO2の増加を伴わないでガソリンを劇的に減らすことができる。 PHEVは、自動車産業の復権と石炭利用が仕掛けられている。 バイオ燃料も、さらに使用料を増やしていくが、自動車産業の復権に加えて、残された切り札である農業・穀物の足腰を強くする。


 スマートグリッドは、グリーン・ニューディール政策の中核である。 スマートグリッドは名前の通り、「賢い電力線」「賢い電力系統」という意味であり、基本は老朽化した、旧式化した送配電線を、米国自慢の情報・通信技術を駆使して近代化、効率化を進めるものである。 電気の使い方を「見える化」し、ピーク(最大需要)をシフトして供給側の電力設備を有効に活用することである。

 スマートグリッドの基本は、スマートメーターなる自動検針・監視装置を家庭等の需要家に取り付けて、ディマンドサイドの電気機器の利用状況をリアルタイムで把握し、その情報が需要家とユーティリティ(電力会社)に伝わり、必要に応じてあるいは自動的に需要側に指示を出す、というものである。 料金の高いピーク時の使用を控えることで、需要家はコストを削減できるとともに停電等を回避できる。 供給側は、ピーク時の需要をカット・シフトすることにより、設備投資をしないで済むという効果を享受できる。

 スマートグリッドは省エネ普及、エネルギーシステム効率化、送配電線増強等々、様々な見方ある。 しかしスマートグリッドが最も革新性を帯びるのは、自然エネルギーやPHEVを利用する分散型エネルギーにマッチするシステムと理解する場合である。 太陽光、風力に代表される再生可能エネルギーが、今後飛躍的に普及することが予想されるが、普及していくための最大の課題は、既存の電力インフラとの調和である。 現在の交流を前提にした発電、送電、配電体系の中に、直流を前提とした不安定電源が大量に入り込み、限度を超えると、システム全体に不都合が生じる可能性が出てくる。 また、再生可能エネルギーの発電は、一般にコストが高く安定した出力が期待できないことから、既存ネットワークとつないで、自家消費以外の余った電気を電力会社に販売したり、不足したときや故障したときにバックアップしてもらわないと、採算や安定供給の面で立ちいかないことになる。 地域単位でかなりの程度自給自足体制を構築したうえで、既存の大規模ネットワークと接続すれば、系統へ及ぼす影響は格段に小さくて済むことになる。 電力会社も、全国津々浦々まで、効率のよくない地域を含めて、投資し維持する負担から解放される。 このような、バッテリーの設置、情報・通信テクノロジーの使用により、ローカルなエネルギーの需給を制御し、系統との連携を円滑に行いうるシステムが、本来あるいは未来のスマートグリッドといえるのではないか。