日本人は何処から来たか 血液型遺伝子から解く    松本秀雄著

Gm遺伝子の頻度分布図
北方型蒙古系民族と南方型蒙古系民族の二つのパターンがある。

 Gm(ガンマー・マーカー)型という血液型は、人種の識別、混血の有無、混血の割合、民族の移動の跡をたどるのに有効である。血液学や遺伝学そして分子生物学の立場に立って、日本民族バイカル湖畔起源説を提示している。
 蒙古系民族は、青のag遺伝子、緑のaxg遺伝子、黄色のab3st遺伝子、赤のafb1b3遺伝子を持つ集団である。蒙古系民族には、北方型蒙古系民族と南方型蒙古系民族の特徴を持つ二つのパターンがある。
 北方型蒙古系民族の特徴は、東北シベリアや朝鮮半島、日本で、青のag遺伝子が45〜50%と高く、黄色のab3st遺伝子も14〜31%と高く、逆に赤のafb1b3遺伝子の10〜14%は南方型の集団と比較して低い頻度を示している。黄色のab3st遺伝子は蒙古系民族を特徴づける標識遺伝子であり、シベリア・バイカル北部のブリアートで最高の30.7%を示し、バイカル湖北部を中心にして四方に流れている。一方、南方型蒙古系民族の特徴は、赤のafb1b3遺伝子を高い頻度で見られる。先史時代の北方型蒙古系民族の中心はバイカル湖畔にあり、南方型蒙古系民族の中心は、中国南部の雲南・広西地域にあるということができる。

 日本民族全体では、青のag遺伝子が45.8%、黄色のab3st遺伝子は26%、赤のafb1b3遺伝子は10.6%である。日本人集団の中で、黄色のab3st遺伝子が26%という高い頻度で保持されており、また日本民族が全土にわたって等質性を示している。ウルム氷河期(7万〜1万
年前)、日本列島がユーラシア大陸と陸続きであった時期には、日本への渡来は容易だった。朝鮮半島に人々が定住するようになると、小さな単位であっても、多くの集団が朝鮮半島を通り抜けて、日本列島にたどり着くことには大きな無理が生ずる。したがって、原日本人が日本列島へ渡来した時期は、朝鮮民族の祖先の集団と同時期か、あるいはそれに先立つ時期であったと考えられる。朝鮮民族のGm遺伝子のパターンは、基本的には北方型といえる。朝鮮民族の北方型の黄色のab3st遺伝子は145%、南方型の赤のafb1b3遺伝子は14.7%である。朝鮮民族は日本民族のほぼ半分くらいの頻度で、北方型の黄色のab3st遺伝子をもっている。朝鮮民族は、日本民族と中国北部の漢民族との中間的なGm遺伝子のパターンを示している。黄色のab3st遺伝子の流れをみても、日本民族が朝鮮半島に先住している朝鮮民族の中を通り抜けて、日本列島に到着したと考えるのは無理である。日本列島への原日本人の渡来時期は、今から1万数千年以上前であると推測することができる。紀元前1万3千年頃のものと判断される細石刃がバイカル地方から広く日本にかけて発見されていることから、考古学的にも裏づけられる。
 日本人がもつ南方型の赤のafb1b3遺伝子は10.6%である。ブリアート、ヤクート等の北方型蒙古系民族が、この南方型の赤のafb1b3遺伝子を5%前後でもっていることを根拠にすると、もともと5%前後の割合で南方型遺伝子をもっていた原日本人が、南方型の蒙古系民族、たとえば華南の漢民族(福州、広州)などの混血によって現在の10.6%になったとすれば、混血率はおよそ8%でそれほど高いものではないと考えられる。
原日本人の数が多かったために縄文中期に渡来した人々、飛鳥、奈良時代の渡来人の血も原日本人の中に吸収され、同化してしまったのである。事実、現在の日本人には依然として黄色のab3st遺伝子が26%の高さで保持されており、北方型蒙古系民族の特徴が明確に保持されている。

ag axg ab3st afb1b3
日本(本土) 45.8 17.6 26.0 10.6
アイヌ 57.1 13.4 25.2 4.3
ブリアート 47.3 16.2 30.7 5.8
朝鮮人(韓国) 50.1 20.7 14.5 14.7
漢(北京) 42.8 21.4 11.7 24.1
ミャオ(貴州省) 9.5 1.5 1.5 87.5

ag axg ab3st afb1b3 fb1b3 ab1b3 ab1 ab3s
蒙古系
白人種
黒人種