日本文化の基層を探る ナラ林文化と照葉樹林文化        佐々木高明著

稲作以前の日本の基層文化は、北方的な文化の「ナラ林文化」と南方的な文化の「照葉樹林文化」が形成された。
遠賀式土器は弥生時代の前期を代表する土器で、初期の稲作文化を象徴するものといえる。その分布は縄文時代晩期の突帯文土器の分布域とほぼ重なり、突帯文土器圏には、初期の稲作文化を受け入れる条件があったと推定される。

照葉樹林文化
常緑のカシ類のほか、シイ・タブ・クス・ツバキなどのように、表面に光沢のある葉をもつ常緑の照葉樹林帯でアジア大陸の暖温帯の南からの文化です。稲作以前のある時期に、江南地方から雑穀・根栽型の焼畑農耕と、それに伴う照葉樹林文化の諸要素が西日本に伝わり、西日本各地に深く根をおろした。やがてそれらは弥生時代になってひろがってきた稲作文化のなかに組み込まれ、再編成されて、日本の基層文化のきわめて重要な部分を構成するに至った。
・アワ、モロコシ、シコクビエ、ハトムビ、オカボなどのさまざまな雑穀類とサトイモ、ヤマイモ、ヒガンバナ、ウバユリなどのイモ類を主作物とする雑穀・根栽型の焼畑農耕
・ミソやナットウなどの大豆の発酵食品
・コンニャク
・オコワやチマキやモチをつくり、儀礼食として用いる慣行
・茶の葉を加工して飲用する慣行
・ナレズシ
・マユから絹をつくる技術
・イモ類や堅果類を水にさらしてアク抜きをする技法
・漆器をつくる技法
・雑穀や米を粒のまま麹を用いて発酵させて酒を醸造する方法
・小豆を祭事儀礼に用いる習俗
・高床構造の穀倉
・鵜飼の習俗
・歌垣の習俗
・焼畑の豊穣を占う儀礼的狩猟の慣行
・山ノ神の信仰
・正月の儀礼食にサトイモを用い、また八月十五夜に月を拝み、芋祭を行う習俗
・昔話や説話(羽衣伝説、花咲爺、サルカニ合戦、炭焼小五郎、絵姿女房)

ナラ林帯文化
ミズナラ、モンゴリナラ、ブナ、シナノキ、カバノキ、ニレ、カエデなどで構成される落葉広葉樹帯で北からの文化です。縄文文化は典型的なプレ農耕段階のナラ林文化として位置づけられます。縄文文化のなかで最も絢爛たる文化の花を咲かせたのは、東北地方を中心に栄えた亀ケ岡式文化です。弥生時代のはじめに、日本列島へ稲作文化が伝来したときには、水田稲作技術や鉄器や青銅器とともに、のちの小国家を生み出すような社会的・政治的統合原理が、朝鮮半島からもたらされました。おそらくこの種の社会的・政治的統合原理は、遼寧青銅器文化の回廊地帯(遼河の西の台地から遼東半島、朝鮮半島北部に至る地域)をへて、ナラ林文化の諸要素とともに、朝鮮半島にもたらされ、さらに日本列島にもち込まれたものと推定できる。
・堅果類(クリ、クルミ、トチ、ドングリ)や球根類(ウバユリ)の採集
・サケ・マスの漁労
・トナカイ、シカ、クマ、海獣の狩猟
・加熱によるアク抜きの技法
・深鉢型土器
・シラカバの樹皮製容器
・皮衣の着用
・北方系作物群(オオムギ、カブ、ゴボウ、ネギ、カラシナ、タイマ、エンバク、ライムギムギセンノウ、アワ、キビ、ソバ)
・ブタの飼育
・トリカブトの毒矢の使用
・人尿を溜めて手や顔を洗う習慣
・竪穴住居
・熊祭り