ネクスト・ソサエティ       P・F・ドラッカー著

 ニューエコノミーが論じられはじめた90年代の半ばに、急激に変化しつつあるのは、経済ではなく社会のほうであることに気づいた。人口構造の変化、若年人口の減少は、それまでの長い流れの逆転であり、前例のないものだった。逆転は他にもあった。富と雇用の生み手としての製造業の地位の変化だった。製造業は、政治的には力を増大させるかもしれない。だが、もはや唯一の主役ではない。されにもう一つ前例のないこととしては労働力の多様化があった。これらの変化が本書の主題である。1950年から90年代、大きく変化したのは、経済と技術であり社会は安定していた。迫り来るネクスト・ソサエティは、経済よりも社会の変化のほうが重大な意味をもつ。

bs011.gif (1058 バイト)ネクスト・ソサエティの姿

Image1.gif (868 バイト)雇用形態
 いまから20年後あるいは25年後には、組織のために働く者の半数は、フルタイムではなく、契約ベース、非常勤、臨時、パートタイムで働くようになる。特に高年者がそうなる。したがって、雇用関係にない人たちをいかにマネジメントするかが、企業だけでなくあらゆる種類の組織にとって中心的な課題の一つになる。

Image1.gif (868 バイト)市場の変化
 第二次大戦後に出現した大量消費市場は、若年中心の市場だった。これが中高年中心の市場となる。若年中心の市場は、残るとしても、中高年中心の市場よりもずっと小さくなる。
 

Image1.gif (868 バイト)高度の競争社会
 ネクスト・ソサエティは知識社会である。
知識が中核の資源となり、知識労働者が中核の働き手となる。知識社会としてのネクスト・ソサエティには、三つの特質がある。第1に、知識は資金よりも容易に移動するがゆえに、いかなる境界もない社会となる。第二に、万人に教育の機会が与えられるがゆえに、上方への移動が自由な社会となる。第三に、万人が生産手段としての知識を手に入れ、しかも万人が勝てるわけではないがゆえに、組織にとっても一人ひとりの人間にとっても、高度に競争的な社会となる。

Image1.gif (868 バイト)主役の交替
 20世紀には、製造業の肉体労働者が社会と政治の中核を占めていた。これからはテクノロジスト(技能技術者、専門職業人)が、社会の、そしておそらくは政治の中核を占めるようになる。

Image1.gif (868 バイト)保護主義の復活
 製造業の地位の変化が、新たな保護主義をもたらす。補助金、輸入割り当て、諸処の規制による保護主義である。あるいは、域内においては、自由貿易、域外に対しては保護貿易という地域共同体の発展を通じての保護主義である。すでに欧州のEU、北米のNAFTA、南米のメルコスールがその方向に向かいつつある。

Image1.gif (868 バイト)グローバル企業の未来像
 今日のところ、グローバル企業の多くは、株式の保有によって一体性を保っている。いまから25年後のグローバル企業は、戦略によって一体性を保つことになる。所有による支配関係も残るが、少数株式参加、合弁、提携、ノウハウ契約が大きな位置を占めるようになる。もちろん、そのような事業構造のもとではトップマネジメントのあり方も大きく変わる。グローバル企業のトップマネージメントにとってもっとも重要な仕事となるのが、短期と長期のバランスである。同時に顧客、株主、知識労働者、地域社会などの利害当事者間の利害のバランスをとることである。