ネットビジネス戦略入門すべてのビジネスは顧客志向型になる
                    パトリシア・シーボルト/ローニ・マルシャク著

 本書は、ネットビジネスを推進する企業エレクトロニックコマースで最大限の収益を得る方法と、そのネットビジネスから顧客が利益を得られるようにする方法を解説した本である。

製品志向型から顧客志向型へ移行

 顧客利益率を算出して、顧客を保持するために組織化を進める企業は、戦略的に優位性をもってくる。顧客は自分が誰かを認識し必要なものを届けてくれることを企業に期待するようになる。最も利益率の高い顧客をいくつか識別し、その顧客との緊密な関係を強固にするためにエレクトロニックコマース・ソリューションを設計するのである。

エレクトリックコマースとネットビジネスを成功に導く八つの原則

適切な顧客を狙う
 どの客層に狙いを定めるかを明確にし、この客層の要求を満たすために、常にサービスを向上させる。

顧客の振舞いを総合的に把握する
 
顧客の個人情報は業務プロセスの出発点であり基礎となっている。何らかのビジネスイベントが発生したら顧客情報と照らし合わせて何が起きたのか把握する必要がある。正確かつ詳細な顧客情報を得るため、顧客がいつでも個人情報を修正できるようにする。

顧客に影響を与える業務プロセスを合理化する
 
顧客の視点から見た分かりやすさというものを実現するには試行錯誤が重要だ。まずは顧客を調べ尽くし、顧客が何を求めているかを知り、顧客の要求に最大限応えることから始める必要がある。その際、実際に起こることを忍耐強く気長に観察することが必要である。これをもとにして、サイト内の移動を効率化するための手段を講じることが可能だ。サイバースペースにおけるプロセスの合理化は即効性がある。

顧客との関係を広い視野で捉える
 
顧客は、ワンストップ・ショッピング(そこだけですべての取り引きができるようなサービス)の提供により、迅速かつ効率よく事を運びたいと思っている。逆に、顧客の全体像を従業員全員が把握することも同じように重要である。

顧客に主導権を与える
 
顧客は自分の都合のよい時に自分で情報を収集して、取り引きを行い、その状況の確認までしたいと考えている。ウェブサイトは、顧客の意思決定や問題解決を助ける情報を提供できる。

顧客の業務を支援する
 顧客の業務を支援するには、顧客がどのように仕事を進めているか正確に把握しなければならない。そのために必要とされているものは何か、顧客の仕事が企業内でどのような位置付けなのかを理解しなければならない。顧客がやろうとしていることと今できていることの狭間にあるすべての障壁を取り除くため提供する製品やサービスは、顧客の業務の効率化に役立つ。

個別化したサービスを提供する
 顧客のプロファイリング(個人の嗜好・性格分析)をしなければ個別化されたウェブサイトは構築できない。何らかのサービスを提供する見返りとして、顧客が提供してもよいと思っている情報を収集する。当然ながら、顧客は自分の情報を確認したり修正したりできるようにする。

コミュニティーを育てる
 インターネットは自然とコミュニティーを構築し、維持する場所になる。コミュニティーを育てることはビジネスに多くの利益をもたらし得る。

事例

アメリカン航空

優良顧客、すなわち3,200万人に上る会員に自社のウェブサイトの照準を合わせている。顧客は旅行を計画し、電子的にフライトの予約を行い、座席のアップグレードを申請し、提携ホテルやレストランをオンライン上で探すことができる。

ナショナルセミコンダクター

製品購入に最も重要な決定権を持つ人々、つまり設計技術者に照準を合わせている。こうした技術者のうち、毎月50万人以上がナショナルセミコンダクターのサイトを訪れ、半導体を探し、データシートやシュミレーションソフトをダウンロードし、サンプルを注文している。

ハーツ

レンタカーサービスを提供する企業である。ウェブによる車の予約からGPSによる道順案内に至るまでさまざまなサービスが提供される。単一でグローバルな顧客情報データベースを使い顧客の好みが尊重されるように顧客情報が活用される。

アマゾンコム

ウェブを通した仮想書店である。アマゾンコムで本を買うと顧客情報が作成され、購入の履歴が作成される。また、顧客の興味のある最新情報を電子メールで知らせるサービスを行っている。

バブソン大学

入学手続、科目の登録などの管理業務をウェブ環境で取り扱えるようにした。入学申請から卒業に至るまで、学生は効率的で個別化された電子サポート環境が提供される。

全米科学財団

ウェブ環境で研究者に年に20億ドルの研究助成金を自動的に支払っている。助成金申請処理が従来よりも分かりやすくなり、ペーパワークを削減できた。また助成金の応募者は申請処理の進捗状況を正確に把握することができる。

ベルアトランティク

電話会社。ワンストップ・ショッピング・サービスを提供するインフラをもち、販売員が利用しているのと同じプロセスや情報を、顧客が電話やウェブ経由で利用できる。

ウェールズファーゴ

銀行。スーパーマーケットなどの店内に、小さくて便利な支店を増やして、分散する支店のコストを削減した。銀行はテレホン・バンキングやインターネット・バンキングサービスを使ってもらえればコストを削減できる。

デルコンピュ−タ

顧客への直販、受注後のシステム組立て、在庫の最小化で成功を収めている。直販ビジネスモデルを拡張して、自社のマーケティング、販売、受注、サービス、サポートまで、顧客とのネットワークに組み込んでいる。

アイプリント

ウェブベースの印刷サービスを開発し、このサービスを専門のソフトウェアと共に配布して「手間のかからない特急印刷」を目指している。

ボーイング

航空機の修理や整備に必要な部品の有無、保管場所、在庫についての問い合わせ、情報収集、注文をウェブサイトで行っている。

フォトディスク

グラフィックデザイン業界に出版レベルの写真を提供するという新しいビジネスモデルを開拓した。最初に低額のライセンス料を支払えば、顧客は無制限にデジタルライブラリーにアクセスして、ほしい写真の購入とダウンロードができる。

ダウジョーンズ

ダウジョーンズのブランドと高度な分析能力への評価を活かし、コンピュータは利用するが日刊紙の購読習慣かない顧客を狙っている。ウォールストリートジャーナル・インタラプティブ版には、便利な個別化サービスと顧客を引き付けて放さないコミュニティーとが備わっている。

ゼネラルモータズ

GMはオンスター・サービスにおいて、商品の販売から会員制に基づく個別サービスの販売に移行しつつある。成功すれば、生涯にわたる顧客を獲得することになる。 

シスコシステムズ

ネットワーク関連製品の会社。シスコの顧客は、ウェブサイト上で互いに技術情報を交換して、助け合っている。この顧客サポート・コミュニティーの成功により、顧客サポートにかかる経費を年間5億5000万ドル以上削減している。

トライポット

100万を超えるメンバーからなる、活気に満ちたオンラインコミュニティーは広告主に魅力的で、1998年初頭5800万ドル(従業員一人あたり百万ドル)でライコスに買収された。

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