未来の年表 人口減少日本でこれから起きること             河合雅司著

 わずか50年で日本の総人口は現在の70%の水準となり、100年後には40%にまで落ち込む。しかも国民の半分近くが高齢者といういびつな社会が到来する。国立社会保障・人口問題研究所が描き出した日本の「最新未来予想図」は極めて厳しい姿であった。

2015年 12709万人
2065年 8807万人 69%
2115年 5055万人 40%
出生中位・死亡中位


 2020年の東京オリンピック・パラリンピックを終えたころから、日本は急速に高齢化が進むと見込まれる。2024年、戦後のベビーブーマーである団塊の世代が全員75歳以上にとなるからだ。「2025年問題」が有名になって、団塊の世代すべてが75歳以上になる年を2025年と思い込んでいる人も多いが、厳密には2024年なのである。国民の3人に1人が65歳以上、6人に1人が75歳以上になる。毎年の死亡者は150万人を超え、出生数の2倍になる。

 少子高齢化はこれまで地方が先行してきたが、今後は東京圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)をはじめとする大都市部で急速に進むことが予想される。急速な高齢化は重度の患者や要介護者の激増を生む。とりわけ東京圏では、こうした人たちに対応する医療機関や介護施設の整備が追い付かない状況が懸念される。

 認知症患者の増加や、社会保障費の膨張、「地域の足」や高齢者向けの住宅をどう確保していくのかなど、これまで問題視されてこなかったような課題が、2025年を前にして一気に表面化してくると見られる。

 日本医師会総合政策研究機構によると2011年に比べて2025年の東京都の脳血管疾患の入院患者は53%増、糖尿病は39%増、虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)は37%増の予測だ。東京は、日本最大の医療集積地であるが、ビジネス中心の街づくりをしてきたため、介護を要する高齢者用のベッドが極度に不足している。仮に、高度な治療を受けられたとしても、その後、転院先や療養先に困ることになる。東京都の介護施設利用者数が2025年には2010年の定員数の2.5倍程度に膨れあがる。地価が高い東京で高齢者向けの病院や施設を新設するのは容易ではない。政府は社会保障費の抑制に向けて、病院や介護施設から在宅医療・介護へのシフトを進めており、施設整備が一挙に進むとは考えづらい。これが東京医療・介護地獄の風景である。老後も東京圏に住み続けるのは、介護難民に陥るリスクを覚悟するようなものだ。


日本を救う10の処方箋
@高齢者を削減
日本老年学会などのワーキンググループが、2017年1月に高齢者を「75歳以上」に引き上げ、65〜74歳については「准高齢者」との区分を新設し、社会の支え手として捉え直すように提言を行った。高齢者から外れる65〜74歳の多くが働くのが当たり前の社会となれば、労働力不足も社会保障の財源問題も大きく改善することだろう。

A24時間社会からの脱却
「便利すぎる社会」からの脱却だ。「過剰サービス」を見直すことで、不要な仕事そのものを無くす。あるいは社会全体の労働時間を短くすることで、そこで必要とされる働き手を減らすのである。

B非居住エリアを明確化
山の中の数軒のために、道路や水道などの公共インフラを整備し続けることは非現実的である。民間サービスだって行き渡らず、買い物難民や医療難民を生むことになろう。そこで、居住エリアを決めて人々が市街地区域に集まって住むようにするのだ。エリアでは社会インフラが整備され、住民が不自由なく暮らせるだけの行政サービスや民間サービスが提供される。コンパクトシティでは、自家用車がなくても用事が済ませられる。

C都道府県を飛び地合併
遠く離れた自治体同士が飛び地として合併する。人口減少化の合併は、それぞれの強みと弱みを補完することを目的とする。

D国際分業の徹底
限られた人材や資本を日本が得意とする分野に集中投入し、世界をリードする産業として発展させていく。

E「匠の技術」を活用
「匠の技術」を活用した高付加価値の製品づくり、「小量生産・小量販売」のビジネスモデルを選択する。日本の地方企業や伝統工芸には世界に通用する「匠の技」がいくつもある。「匠の技」と他業種の製品づくりや最先端技術と組み合わせることで「ジャパン・オリジナル」のブランド製品を造ることは可能であろう。

F国費学生制度で人材育成
給付型奨学金をすべての進学希望者に一律に支給するのでなく、国として確保したい分野で学ぶ学生に優先配分する制度とする。選抜試験で成績優秀者をセレクトし、「国費学生」として、大学在学にかかる費用をすべて手当する。国として必要な人材を確保するには、育成したい分野や人材像を明確にすることが不可欠だ。

G中高年の地方移住推進
日本版CCRC(Continuing Care Retirement Community)普及による中高年の地方移住を推進する。リタイア後のまだ元気なうちに都会から移住し、大学キャンパスで学生生活を楽しみ、体が弱って医療や介護が必要となったら、同一敷地内にある大学病院直結の分院で介護施設で不安なく最後まで暮らせる地域共同体である。

Hセカンド市民制度を創設
都会の住民がお気に入りの旅行先などを「第2の居住地」として選び、「セカンド市民」として、住民登録する。セカンド市民に登録したした人たちには「第2の居住地」の行政サービスの一部を受けられるように特典を与える。地元自治体は、「セカンド市民」に便宜を図る代わりに、町おこしのアイディアづくりの協力や地域イベントへの参加を求める。祭りやイベントの裏方業務を依頼したり、ボランティア活動への参加を呼びかけ交流を深める。

I第3子以降に1000万円給付
第3子以降がたくさん生まれる社会とならなければ、出生数減少に歯止めを掛けることはできない。出生動向基本調査によれば、3人目以降の出産を見合わせた夫婦の7割が「お金がかかりすぎる」を理由に挙げていた。