10年後の日本        『日本の論点』編集部編

消費税
 プライイマリーバランスの赤字額は、2005年度の一般会計予算で約16兆円である。この赤字幅をなくすには歳出を削減するか、歳入を増やすしかない。歳出のカットについては政府は国家公務員の総人件費の削減を掲げているが、具体的な数値目標は示していない。歳入の方は、今後景気の劇的な回復によって税収増を期待することはできない。そうなると増税しかない。増税による財源確保としてクローズアップされているのが、消費税の引上げである。消費税を1パーセント引き上げれば2.5兆円強の税増収になる。したがって数字の上では、今年度予算におけるプライマリーバランスの赤字額16兆円は、消費税6.4パーセントの引き上げでまかなえる計算になる。
 わが国の少子高齢化は世界に類例のないスピードで進み、2015年には日本人の4人に1人が高齢者になっていると予想される。厚生労働省は2025年には、高齢者1人を現役世代1.9人で支えるようになるとの見通しから、年金、介護、医療などの社会保障費が、2004年度の85兆円から、2025年には168兆円にまで倍増するとの推計値を示した。168兆円の社会保障費のうち、公費負担は全体の35パーセントの59兆円である。これを消費税でまかなうとするとどうなるか。消費税1パーセントの引き上げで2.5兆円の税収があるとして、単純に換算しても、消費税を23.6パーセント上げなければならないことになる。今後、消費税の段階的な引き上げによって、10年後には欧米並みの水準に近づくにちがいない。

消費税率の国際比較(2004年1月現在 財務省資料)


団塊世代

 10年後の日本は、国民の四人に一人が65歳以上という超高齢社会になる。2005年に2556万人だった65歳以上の高齢者人口は2015年に約700万人増の3277万人になる。団塊世代(1947〜1949年生まれ)の影響である。団塊世代が2007年から3年間で現役を退くと労働人口はピークの2005年からいっきに120万人以上も減少し、深刻な人手不足や個人消費の低下が日本経済を痛撃すると予測されている。いわゆる「2007年問題」だ。
 団塊世代の大半は、若い頃から高度経済成長の恩恵を受けて、それなりの財産を築いてきた。老後のくらしを支える退職金や年金も、いまの現役世代より確実に多く受け取れ、生きていくには困らない。経済の縮小や社会保険制度の破綻など急激な少子高齢化の影響が懸念されるなか、”逃げ切りの世代”といわれるゆえんである。
 貯蓄率低下の傾向は、他国と比べても際立っている。日本の貯蓄率は、1991年の13.8パーセントから2002年の5.2パーセントへ急落した。第一の原因は、景気の低迷により可処分所得そのものが減ったため、貯蓄に回す余裕がなくなってしまった。もう一つの原因は、急速に進む高齢化の影響で、退職後、年金だけでは家計が苦しく、預貯金を取り崩して生活する高齢者世帯が増えたためだ。2007年からはじまる団塊世代の大量リタイアは、貯蓄率のさらなる低下を招き、2010年には、貯蓄率が3パーセント程度まで低下すると予測している。国民の貯蓄は金融機関を通じて企業に融資されるため、貯蓄率が低下すると、企業の資金調達に支障をきたし、景気の足を引っ張りかねない。だが、海外から日本への直接投資が円滑におこなわれるならば、貯蓄率の低下は、経済にとって必ずしも大きな問題にはならない。

公的年金の積立金
 日本の公的年金は、賦課方式なら発生しないはずの積立金をもっているため、完全な賦課方式とはいえない。現在、積立金残高(国民年金+厚生年金)は150兆円(2003年度末)である。これまで政府が給付に必要な額より多くの保険料を集めてきたからだ。現在は150兆円のうち58兆5820億円(2005年3月末の時価総額)が、厚生労働省主管の特殊法人・年金資金運用基金によって運用され、国内債権、国内株式、外国株式などが購入されている。いま運用しているのは積立金の一部だが、2008年以降は全額を運用することになっている。150兆円といえば世界最大の年金ファンドだ。巨額の資金の運用が市場に与えう影響は無視できない。

東京
 近い将来、高齢者が都市に集中する。なかでも東京における人口増加がめざましい。日本の総人口は2006年に、約1億2800万人となって頂点に達し、以後は減少していくが、東京の人口はその後も増え続け、2015年にようやくピークの約1260万人になる。総人口が減少するなかにあって、相変わらず東京都市圏に人口の集中が続くことになる。都心から離れた郊外の住宅街では、すでに居住者の高齢化が進んでいる。分譲後、数十年が経過した団地などは地域全体が衰退し、首都圏内における過疎化が目立つようになってきた。高齢者が郊外から都心のマンションに移り住む傾向が強くなる。

財政赤字
 2005年3月末の国債や借入金など国の債務残高は、781兆円に達した。2004年のGDPが505兆円だから、公債残高のGDP比率は154パーセントになる。双子の赤字が議論される米国でも65パーセントである。日本の公債残高の大きさは異常といわざるをえない。返済のあてなく累増を続ける国の巨額債務を前にして、国債はこれまで比較的順調に消化され、長期金利は1パーセント台で推移してきた。たしかに日本はいまなお世界第2位の経済大国であり、対外的には債権国である。102兆円の国有財産を持ち、さらには1400兆円の個人金融資産もある。だから簡単に破綻するはずがないという楽観論の根拠になっている。
 だが、巨額の財政赤字はさまざまな点で経済の活性化を阻害する。第一に借金が積み重なり、利払いの費用が大きくなると政策に使える予算の割合が減少し、政策を縮小せざるをえなくなる。次に、国債は市中の資金によって消化されるため、国内資金が不足し、民間投資が抑制される。また国民は将来不安から消費を抑えるようになり、個人消費の減少、景気の低迷につながる。さらに懸念されるのは、国債の信認の低下である。具体的には格付機関による格付けの低下である。日本国債が投資不適格の烙印をおされる事態になれば、長期金利は急騰し、国債の金利負担は急増、日本は財政の維持が不可能となり破綻の時を迎える。
 現在の金融政策は、ふくれあがった財政赤字の歪みを受けて異常な形で進めらている。世界にも例を見ない低金利、日銀が、国債や手形を銀行などを介して市場から買い入れ、当座預金残高にする「買い切りオペレーション」や量的金融緩和が行われている。こうした状態がいつまでも続くと考えるのは、楽観的過ぎるのではないか。いつの日にか長期金利の上昇圧力を抑えきれなくなるのだ。かりに長期金利が6パーセントまで上がったとしよう。その時点で国債残高が800兆円に達しているとすると、48兆円の利払いが必要になる。すなわち国家の税収は、すべて国債の利払いで消えてなくなるわけだ。そして財政はいっきに破綻へと転がり落ち、ハイパーインフレの到来である。