人口減少社会の設計 幸福な未来への経済学    松谷明彦・藤正巖著

 これまでの社会は人口増加と経済成長を核にして、量的拡大があるものとして運営されてきた。日本の人口は2006年にピークを迎えその後急速に減少する。このことは日本の経済と社会の変質といってよいほどの大きな変化に直面する。われわれは変化を悲観的にとらえず、変化にいかに速やかに順応するかが問われる。

日本経済の変質

経済成長の消滅
 日本の国民総労働時間は、今後10年で8.1%減少し、2030年には2001年より33.2%減少すると見込まれれる。実質国民所得は2008年まで増加した後、継続的なマイナス成長に転ずる。2001年の実質国民所得は373.3兆円で、2030年には314.6兆円になり15.7%縮小すると予想される。

生産資本ストックの縮小
 日本経済の原動力であった設備投資は、今後ほとんど拡大せず、やがて明確に縮小に向かう。労働人口の減少によって機械設備の総量が減少するとなれば、設備投資も減少せざるを得ない。

経済の不安定性の増大
 不況が長期化する危険性が存在する。人口減少のもとでは、ストック調整は完了せず、景気の底の到来が遅れる。また景気の底に来ても、需要の増加も緩やかなものとなって、景気の回復にはより長い時間を要することになる。

今後十数年間の日本の経済成長率は先進各国のなかで最も低くなる。日本の経済成長率が欧米各国より低くても、それをもって直ちに景気停滞であるとか、経済政策に問題があると批判すべきではない。たとえ日本経済が順調であったとしても、成長率は欧米各国よりも低くなる。それは日本の人口減少率が大きいことの必然的な結果であり、いかなる経済対策、企業経営をもってしても避けることはできないことなのだと、冷静に受け止めることが必要である。

今後の日本経済については、労働力によって天井が形成されるのだから、失業率はむしろ低下する可能性が高い。もっとも過渡期においては、業績を縮小する企業が相次ぎ、その過程で失業率が一時的に増加することがあるかもしれない。しかし賃金水準が確保され、それに伴う消費需要がある限り、企業の縮小・倒産があってもそれに見合う企業が新たに設立される。中長期的には、労働力人口に見合った就業機会は確保されるはずである。経済は人々が悲観的になれば、それだけ縮小する。われわれに必要とされているのは、人口減少下の経済についての正確な認識と新たな発想である。

医療費
 人口構造の変化に伴う医療費の分析については、二つの側面を考えなければならない。第一の点は、高齢者の数が増えるとその分だけ患者の数が増えるということだ。人口構造の変化による医療費の自然増分と考えている。第二の点は、医療技術の発展により高度の検査や治療が可能になりそのために医療費が年ごとに増加するという側面である。国民医療費は1999年に一人あたり24万4180円、総額で31兆円だった。厚生労働省による医療費の将来推計では、2015年には57兆円を超え、2025年には81兆円近くになると推計されている。
 経済成長が望めなくなる今後は、公的予算による医療費枠も固定的であると考えられる。また、保険料の増加も望めない。結果起こることは自費診療となる。自由診療の市場が登場するということだ。その大半は任意保険でまかなわれることになる。任意保険と公的保険が混在し、ここに至ってはじめて市場の見えざる手が医療の生産性を向上させ、医療費の削減の動向が生ずることになる。

日本経済の新しい道

消費の拡大
 日本経済は過大な設備投資によって生産資本ストックが大きすぎるために、消費が圧迫されている状態である。設備投資を抑制することが、最終的に消費を現在より大きくすることである。近年消費の低迷が指摘され、その理由を先行き不透明感による消費意欲の減退に求める見方が多いが、基本的には設備投資が多すぎることに原因がある。金利水準を人為的に引き下げることは、利益率の低い設備投資を可能にするから、設備投資を全体として過大なものとし、消費を圧迫しているのである。企業の資金調達が、欧米諸国のように主として株式や債券で行われるようになれば、企業は利益率を重視した経営に転換せざるを得ない。それによって企業自身も、非効率で利益率の低い設備投資には手を出さないという動きが生まれるはずである。

国際分業
 いかなる民族、国民であれ、全ての産業分野について世界のトップクラスの実力を持つということは、現実にはあり得ないだろう。それぞれに得意分野もあれば不得意な分野もある。そこで自国の産業は得意分野に特化し、その他の分野はそれが得意な国からの輸入に依存する。それがその国の生産を最も効率的なものとし、かつ全ての製品を最も安く手に入れる有効な方法である。国際分業と資源の集中投資の考え方は、今後の人口減少下の経済において必須のものとなる。

農業を核とした地方経済
 地方の地域社会の安定的な所得を獲得するための一つとして農業が考えられる。ここでいう農業は、現状の農業ではなく、大規模な機械化された、あるいは装置化された農業である。農業の装置化とは、例えば科学的に管理されたビニールハウス農業である。もちろん農業産業だけで獲得できる所得はわずかなものである。だから農業を核とし、農機具・農業装置の製造業、培土・肥料・農薬等の化学産業、食品加工業などの関連産業を有機的に組み合わせた重層構造の産業群を形成するのである。
 日本の食糧自給率は28%と極端に低く、今後予想される世界的な食糧需給の逼迫を考慮すれば、もはや危機的な状況にあるといえる。いかに経済力があっても、食糧を輸入できない状況も予想されるのである。農業の振興を図ることは日本社会の安全性の向上という観点からも必要である。