「平成三十年」への警告日本の危機と希望を語る 堺屋太一著
本書は、1999年6月から2002年9月まで、週刊朝日に掲載された文章が元になっている。「油断!」、「団塊の世代」に続く未来予測小説「平成三十年」が1997年6月から1998年7月まで朝日新聞に連載され、本書の中でそれについても解説されている。
未来予測小説「平成三十年」では次のような日本の社会が描かれている。消費税率12%で、来年の改正では「20%も視野に」なっている。貿易収支は500億ドルの赤字、円安が続き、今は1ドル=240円、来年は300円もありうる。物価は急上昇、特に世界的な資源危機で高騰したガソリンは、リッター千円もする。少子高齢化はいちだんと進み、東京近郊のニュータウンも今は高齢者の多い「オールドタウン」、地方の中間山地は超過疎化している。情報技術や個人サービスのニュービジネスは盛んで、数々の新製品が普及しているが、官僚主導の規制と若者の高等遊民化で社会全体に活気を失っている。
この予測の前提は、「何もしなかった日本」、つまり抜本的な体制改革や体質気質の変更をやらないまま平成三十年を迎えてしまった日本の姿を描いている。平成になってから14年、11人の総理大臣(竹下、宇野、海部、宮澤、細川、羽田、村山、橋本、小渕、森、小泉)が登場した。そしてそのすべてが改革の旗を掲げ、それぞれ一定の役割は果たした。しかし、日本という国、日本の社会はそれほど変わっていない。こんな状態があと十数年、平成三十年まで続く可能性は高い。
日本の体質気質を変えるような本当の改革はまだ始まっていない。しかもこれには「期限」がある。このまま日本が世界の知価革命に背を向けて官僚主義の規格規制を続けていれば、発展途上国に逆戻りしてしまう。おそらくその最終期限は、団塊の世代が高齢期に入る直後の平成三十年(2018年)ごろだろう。それ以上に高齢化が進み人口が減少すると、大改革を実行するほどの活力と気力がなくなるからだ。
未来予測小説「平成三十年」での大改革の起こる状況のシュミレーションでは、外部要因、内部要因の両面を考えている。外部要因は二つ、武装難民の大量流入と資源危機が日本の大改革を生む複合的な原因の一つになる可能性があるとしている。内部要因は、多数の無党派層の支持を集めながら政権を取り、官僚を使いながら官僚主導の体質気質を切り裂いていく改革者の出現である。
人口が減少し、土地が余り、外国からの物資や情報の流通が盛んで物価が下がる。こんななかで経済と文化が発展した時代が、かってあっただろうか。15世紀のイタリア半島だ。イタリアの人口は1340年は930万人だったが、その後は寒冷化や黒死病で激減、1500年には約4割減の550万人になっていた。それにもかかわらず、経済と文化は大発展、やがてルネサンスの花が開くことになる。どうしてそうなったのか。人口の減少で労働力が不足になり賃金が上がったからだ。賃金の上昇、物価の相対的下落である。このため、生産性の高い産業に人口が集中、都市が発達する一方、収益の低い痩せ地は放牧場となった。要するに、15世紀のイタリアでは、地域間産業間の競争が起こり、減少する労働力がより効率的な地域と職場に配置された。この結果、国民経済は大発展、一般大衆も豊かになり、工芸品や芸術品への需要が増大した。ルネサンスの優れた芸術作品は、文化市場の拡大によって、多くの芸術家が競い合ったことから生まれたのだ。21世紀の日本にも、新しいルネッサンス、知価社会の開花が期待できる。