銀行員はどう生きるか              浪川おさむ

  2017年11月、メガバンクは一斉に人員削減を柱とする改革構想の公表に踏み切った。


三菱UFJの「事業変革」
・三菱UFJは2017年度末までに年間約16万時間相当の業務量、2023年度末までに業務プロセス改革によって対象業務量の30%分の9500人分に相当する業務量を削減する。

・9500人分の業務量削減によって6000人程度の人員削減を行うとしている。2023年度末までの人員削減数6000人は従業員数3万4720人をベースにしており17.2%の人が削減される。

・3500人分に相当する新たに生み出された余力は、富裕層取引などの成長分野に投入して利益を生み出す。

・国内店舗のうち、2023年度までに70〜100店舗を機械化店舗(仮称)に転換し、店舗事務を効率化する。


三井住友の「業務改革」
・三井住友は2017年度末までに500人分に相当する100万時間の業務量、2019年度末までに1500人分相当する300万時間以上の業務量を削減していく。
(一人あたり2000時間で計算している)

・2018年度に新卒採用を前年度比40%削減まで絞り込んだうえに、パート・派遣社員の補充抑制を開始。そのうえで、伝統的な店舗形態である顧客カウンターの後方で働く事務行員を事務センターに集約させて実現する「次世代店舗」への入れ替えを2017年度に100店舗、2018年度に280店舗まで拡大し、そして、2019年度には現在の430店舗すべてを次世代店舗に入れ替える。それによって、本部を含めて2019年度までに300万時間(1500人相当)以上の業務量を削減していく。

・2017年5月に公表した3カ年の新中期経営計画において、店舗のデジタル化による業務効率化により約4000人の人員削減効果を見込む。戦略事業分野への再配置、営業力・企画力の強化に充当し、時間外労働の削減などの経費圧縮も含めて収益向上を図る。


みずほの「構造改革」
・みずほグループは1万9000人の人員削減。みずほグループは商業銀行、信託銀行、証券会社すべてを対象にしており、グループ全体の従業員約8万人の23.7%が削減対象になる。

・国内店舗約500拠点を2021年度に450拠点に、2024年度に400拠点に減少させ、2017年3月末に約8万人の行員数を2021年度までに約8000人減に、2024年度に1万4000人減、さらに2026年度には1万9000人減にまで圧縮する。


3メガバンクが着手する人員削減は解雇通告をしてクビにするという典型的なリストラではなく自然減である。自然減とは「入りを減らして出を増やす」ことであり、その差し引きで全体の人員数を圧縮していくことを意味する。



現在、典型的なアメリカの銀行のリテール店舗は、フラッグシップ店舖(母店あるいは旗艦店)とトラディショナル店舗(サテライト的な店舗)である。個人向け銀行取引担当者の人員数は、フラッグシップ店舗でも6〜8人程度、トラディショナル店舗は3〜4人程度である。日本では大手銀行の場合、フラッグシップ店舗は支店長をトップに40人超の人員規模であり、トラディショナル店舗でも10人以上擁しているケースが少なくない。

リーマン・ショックでリストラされた人のなかには、デリバティブ部門、あるいはシステム部門などに従事する行員も含まれていた。彼らの一部は解雇されたあと、自らのITリテラシーと金融の専門知識を頼りにシリコンバレーやニューヨークで企業に動く。伝統的な銀行が提供するサービスの欠点を熟知しており、IT技術を駆使することによってその欠点を解消し、さらにレベルアップしたサービスの開発に向かうためだった。伝統的な銀行に勤務している間は、仮にそのようなアイディアを持っていたとしても、銀行の保守的な枠組みのなかでしか仕事はできなかった。しかし、もはや彼らの足かせはなくなり、自由自在に発想し、チャレンジすることができる。フィンテック・プレーヤーは、こうした経緯で誕生し、急速に進化していった。

銀行がATM、スマホ、モバイル端末などに顧客を誘導した結果、銀行の店舗から顧客の足はどんどん遠のき、顧客との関係性が薄まってきている。そうしたなか、銀行はさらなる低コストチャネルの利便性向上を目指しているが、それはフィンテック・プレーヤーと同じ土俵に立つという意味である。

欧米の銀行はデジタル技術の導入によって顧客の利便性を劇的に高め、信頼回復に努めた。インフラ整備を重ねてモデルチェンジを果たすとともに、店舗の銀行員はカウンター反対側から顧客に対応するのではなく、カウンターを取っ払って顧客ロビーで立ち続け、来店した顧客に寄り添うように対応するようになった。

対面ビジネスの銀行業は、対面ビジネスの質の高さによって同業者はもとより、非対面のフィンテック・プレーヤーにも打ち勝つしかしかない。デジタル化の技術を活用してコスト削減しつつ、最大の武器である顔が見える営業で質の高いサービスを提供してこその銀行なのだ。顧客とともに悩み考える銀行員は、いかにすぐれたIT技術でも代替できない。

「金融にせよ、医療機関にせよ、最新技術を活用しているという企業を利用する顧客のほとんどは、技術の良し悪しがわからない。それでどこにするかを選んでいるわけではない。感じの良さや親切さなどでサービスを選び出している」
金融工学でノーベル賞を受賞したロバート・マートン氏の講演での発言である。