フリー 無料からお金を生みだす新戦略        クリス・アンダーソン著

 20世紀はモノの経済である原子(アトム)経済であったが、21世紀は情報通信の経済であるビット(情報)経済にもとづいている。アトム経済においては、たいてい時間とともに価格は高くなる。一方、オンラインの世界であるビット経済においては、ものは安くなりつづける。アトム経済ではインフレ状態だが、ビット経済ではデフレ状態なのだ。無料経済を誕生させたのは、デジタル時代のテクノロジーの進歩だ。ムーアの法則が言うとおり、情報処理コストは2年ごとに半分になり、通信帯域幅(伝送速度)と記憶容量のコストはそれ以上ペースで下がっている。インターネットのコストは、相乗効果で低下し、オンラインの世界におけるデフレ率は年50%近くになる。オンラインビジネスのコストは限りなくゼロに近づいている。今日のもっとも興味深いビジネスモデルは、フリーからお金を生みだす道を探すところにある。すべての会社がフリーを利用する方法や、フリーと競うあう方法を探らざるをえなくなる。

 競争市場では、価格は限界費用まで落ちる。インターネットは史上もっとも競争の激しい市場であり、それを動かしているテクノロジー(情報処理能力)、記憶容量、通信帯域幅)は年々ゼロに近づいている。フリーは選択肢のひとつでなく必然であり、ビットは無料になることを望んでいる。デジタルの世界では、法律や使用制限によってフリーを食い止めようとしても結局は経済的万有引力に逆らうことはできない。それはつまり、製品が無料になるのを止めるための手段が不正防止コードや恐ろしい警告しかないとすれば、かならずそれを打ち破る者が出てくるということだ。みずからフリーを利用し、アップグレード版を売ればよい。

 時間を節約するためにお金を払う人がいる。リスクを下げるためにお金を払う人がいる。自分の好きなものにお金を払う人がいる。ステイタスにお金を払う人がいる。そういったものを提供し、人がそれに惹かれれば、人はそれにお金を払ってくれるはずだ。フリーのまわりにはいくらでもお金を稼ぐ方法はある。

 新自由主義の経済学者であるミルトン・フリードマンの「この世にタダのランチはない」という言葉の本質にあるのが、内部相互補助(不採算サービスから生じる損出を採算部門の収益でカバーすること)だ。実際にランチを食べたものがお金を払わないとすれば、それは結局、その人にタダでランチを提供しようとする誰かが払っているにすぎない。人々はときどき、こうして間接的に商品の代金を支払っている。内部相互補助にはいくつかのやり方がある。
*有料商品で無料商品をカバーする。(特売品、無料サンプル、おまけ、ソフトウェア(リナックス版)は無料・ハードウェアは有料)
*将来の支払いが現在の無料をカバーする。(携帯電話は無料・毎月の通話は有料、雑誌の無料購読期間)
*有料利用者が無料利用者をカバーする。(女性は入場無料・男性は有料)

 内部相互補助の世界は広いが、その中でフリーのビジネスモデルは、4種類に大別することができる。

@直接的内部相互補助(あるモノをフリーかそれに近い値段にし、それで客を呼んで、フリーでない他の収益でカバーする)
・特売品で消費者を店に誘い、他の商品で儲ける
・無料サンプル
・おまけ
・携帯電話は無料・通話は有料
・駐車無料
・送料無料

A三者間市場(第三者がスポンサーとしてお金を支払うけれど、多くの人々には無料として提供される)
・広告収入で運営されるメディア
・クレジットカードの発行は無料で、商店から決済手数料をとる
・PDF文書の閲覧ソフトは無料、作成ソフトは有料

Bフリーミアム(無料版で人を惹きつけ、無料版にいくつかの機能を加えた有料版の使用者が無料版を負担する)
・デモ版は無料・完全版は有料
・基本ソフトウェアは無料・機能拡張版は有料
・コンピュータ同士の通話は無料・コンピュータと電話の通話は有料(スカイプ)
・広告つきサービスは無料・広告をとりはらうのは有料
・オンラインゲームは無料・そのゲームをさらに楽しめる会員登録は有料

C非貨幣市場(贈与経済、無償の労働)
・ウィキペディア
・フリーサイクル(中古品をタダで提供)