ドットコム・ショック新旧交代の経済学 大前研一著
インターネット関連企業をドットコム企業と呼ぶ。日本でインターネットを使い始めた人の大半は、まだ情報検索だけに使っている。しかし、新しい「ドットコム・ワールド」では、インターネットを自分の手足のごとく双方向で使えなければ意味がないのだ。「ドットコム・ワールド」に入っていくための第1段階は規制緩和である。アメリカでは1982年にレーガン大統領が徹底した規制緩和を断行した結果、金融、通信、運輸などのあらゆる分野の淘汰が起こり、生き残った会社が強くなった。規制緩和後の10年間は失業の山になったが、同時にエンジェル税制導入などの税制改革をやったから、クリエイティブな人たちが続々とベンチャー企業を興した。さらに10年近くたって、それらのベンチャー企業が世界的な優位性を持つようになり、現在の「ドットコム・ワールド」が開花し始めているわけだ。 いまの日本が80年代終わりのアメリカだとすれば、現在のアメリカからは約10年遅れている。アメリカ経済の潮目が本当に変わった年は1992〜93年だから、日本経済がその段階にたどりついて実体の伴った本格的な回復を始めるまでにはあと4〜5年かかることになる。 |
ドットコム企業
地域 | 企業 | 大学 |
カリフォルニア州のシリコンバレー | シスコシステムズ、ヒューレット・パッカード | スタンフォード大学 |
マサチューセッツ州ボストン | MIT | |
ワシントンD.C.郊外のドットコム・ベルト | AOL、サイバーキャシュ | ジョージタウン大学、ジョンズホプキンズ大学、バージニア大学 |
シアトルのシリコンビレッジ | マイクロソフト | |
デンバー/ボルダーのテレコムプラトー | TCI(ケーブルテレビ会社)、クエスト(光ファイバー会社) | コロラド大学 |
オースチン | DELL、アジリオン、トリロジー | テキサス大学オースチン校 |
未来学者のアルビン・トフラーが1980年代の始めに『第三の波』でデジタル情報革命の到来を予言したが、それが明確な姿を現したのは1985年のことである。1985年にはマイクロソフトがWindowsのバージョン1を発売した年である。1985年を境にした変化、すなわちデジタル情報革命は200年前の産業革命に匹敵する画期的な変化である。時代がかわったことを裏付けるもう一つの現象は1985年前後に誕生した企業のスピードの速さだ。デジタル情報革命によって、アメリカ企業の中に突然変異のハリウッド版「ゴジラ型企業」が誕生した。つまり、人間が20年かけて大人に成長するが、ハリウッド版「ゴジラ」は卵からかえると、たった2〜3週間で巨大になる。
1982年『サン・マイクロシステムズ』の創業
1984年『DELL』、『シスコシステムズ』の創業
1985年『ゲートウェイ2000』の創業
ネットビジネスにおけるポイント
ポータルを押さえる
「ポータル」とは、ウェブの中でユーザーが一番最初に入ってくる「入り口」サイトのことだ。『AOL』、『ヤフー』がその代表格である。なぜポータルが重要なのかというと、ポータルサイトはユーザーの一次情報をすべて把握できるからだ。誰が来ているか、何を見にいっているかといったユーザーのデータがポータルサイトに全部蓄積されるのだ。企業が求めている顧客層を自動的に選び出し、彼らがアクセスするホームページに広告が出せるから営業効率が高くなる。
個人の決済を押さえる
アメリカでは、総額200兆円ぐらいある個人のショッピングのうち80兆円(40%)が2005年までにオンライン・ショッピングになると言われている。「電子財布」はインターネット・バンキングの個人の支払い機能である。『AOL』ではユーザーの約40%がEコマースを利用しているが、その人たちは別々なサイトで買い物をしても『AOL』経由で入っている限りは一つの財布ですむ仕組みになっている。名前やクレジットカード・ナンバーなどの個人情報を二度、三度と繰り返して入れる必要がなく、商品を買い物かごに入れていくだけで決済できてしまう。「電子財布」を制する者はEコマースを制し、Eコマースを制する者はインターネット・バンキングを制する。
デリバリー(物流)を押さえる
デリバリーを郵便局や宅配便に頼ると儲からない。
日本企業が生き残っていくための条件
徹底的なリストラをする
世界レベルの徹底的なリストラを断行する覚悟と勇気がなければ、欧米企業と互角に戦うことはできない。日本人は石油危機とそれに続く
世界の顧客にインターフェースを取る
どんな業界でも顧客とのアクセスを確保した企業が勝つ。国境を越えたM&Aの最大の目的は、従来のような経営支配ではなく、「顧客により近くなる」ことである。自社商品の強さや優秀さを顧客にいち早く伝える能力こそが最大の武器なのである。
単品商品
事業の間口を狭く、奥行きを深くして「顧客が最初に思い浮かべる1つか2つの名前になること」だ。
企業システムの構築
サプライチェーン・マネジメントのような資材・原材料の調達から販売に至る各段階の情報をコンピュータ・ネットワークを利用して一括管理し、効率的な生産活動を可能にする経営システムを構築する。