ドル大崩落    水谷研治著

1998年8月の世界同時株安までニューヨーク株式市場はおよそ7年間にわたって上昇を続けた。ニューエコノミー論によれば情報通信技術の発達により、経済構造が変化したために生産性が向上し、インフレが発生することなく長期にわたる景気拡大が可能になったという。今回の世界同時株安の発端はロシアの経済危機にある。軍需産業から民間産業への転換がうまくいかず、慢性的なインフレ不安と経済改革の立ち遅れているロシア情勢の深刻化と先行きへの不透明感が引き金となった。アメりカ経済が冷え込むことは、世界経済が頼みとしていた唯一の柱を失うことである。1998年8月の世界同時株安は、「世界大崩壊」の序曲ともなりかねない大事件であった。

アメリカは「双子の赤字」に苦しんでいた。財政の赤字と国際収支の赤字である。財政の赤字は支出を徹底的に削減し多くの国民が犠牲を払い1998年度、29年ぶりに黒字化することができた。国際収支は2000億ドルもの大幅な赤字となっている。国際収支が赤字になるのは国内における供給力が不足するためで、不足する部分を海外から輸入せざるをえなくなり、それが赤字生む。1998年末のアメリカの対外純借金は1兆4000億ドルを越える。赤字を削減するためには輸入を減らさざるをえない。為替相場が引き下げられ、アメリカ国内のインフレ要因が高まり、実態経済力が低下し、輸入水準が下落することが予想される。

日本ではドル相場が大きくくずれると輸出に関連した多くの企業にしわ寄せがくる。海外から安い製品が輸入されるために、国内産業が打撃を受ける。このようにして大不況に見舞われることになる。アメリカのドルと株が暴落し大恐慌の渦に巻き込まれる日が近いかもしれない。その中にあって日本の最大の問題は財政赤字である。われわれはこれまで、財政政策の恩恵を受けて、豊かな生活を謳歌してきた。しかし、その結果としてうまれたのが、膨大な財政赤字である。われわれは政治家や官僚に責任を負わせるだけでなく、国の将来のために自らが犠牲になる覚悟で、これを解消しなければならない。