デフレの正体 経済は「人口の波」で動く        藻谷もたに浩介著

 日本の経済規模は10年以上も停滞しているが、これは国際競争に負けた結果でもなく「地域間格差」でもありません。それとは無関係に進む日本の国内の経済の病気、「内需の縮小」の結果です。個人所得も小売販売額も、バブル崩壊期の90年代前半(1990−96年度)のほうが、戦後最長の好景気となった時期(2002−07年度)よりも伸びていた。個人所得と小売販売額の増減の背景に就業者数の増減の構造変化が起きていた。現役世代の減少と高齢者の激増が同時進行している。そこでは、企業に蓄えられた利益が人件費増加には向かわない。企業収益は、配当などの金融所得として、企業に多額の投資をできる富裕層に移転した。その多くは高齢者だった。彼らは特に買いたいモノ、買わなければならないモノがない。将来のリスクに備えて金融資産を保全しておかなければならないという意識は甚大です。これが個人所得とモノ消費が切断された理由です。

 現在「100年に一度の不況」のせいにされている現象の多くが、実は景気循環とは関係ないところで、国民の加齢によって起きているものだ。今起きているのは日本始まって以来の、「2000年に一度」の生産年齢人口の減少である。経済を動かしているのは、景気の波ではなく人口の波、つまり生産年齢人口=現役世代の数の増減だ。生産年齢人口というのは、経済学的に定義された「現役世代」の数で、15−64歳人口が該当します。これから生産年齢人口と内需縮小が、同時に延々に続くということになります。生産年齢人口=消費者人口の減少→供給能力過剰→在庫積み上がりと価格競争激化→在庫の簿価より時価の低下(在庫が腐る)という現象が頻発してきました。生産年齢人口減少の影響は、景気の波を簡単に打ち消してしまう威力がありますし、景気循環に対処するための各種方策はまったく通用しません。たとえて言えば、景気の波は普通の海の波、生産年齢人口の波は潮の満ち引きです。同じ高さの波でも満ち潮の時には威力が増しますし、逆に引き潮の時にはどこか元気が欠けています。生産年齢人口の潮も、満ち寄せているときには好景気は底上げされますし、不景気のダメージは深刻になります。2010−15年には、団塊世代が65歳を超えます。実際には団塊世代の一次退職は足元5年間にもう始まっているので、経済への影響はすでに出ているのですが、最終的に無職になっていくこれからの5年間こそ、日本史最大の「人口オーナス(onus:重荷)」を経験する時期になります。

 日本経済の目標は、「個人消費が生産年齢人口減少によって下ぶれしてしまい、企業業績が悪化してさらに勤労者の所得が減って個人消費が減るという悪循環を、何とか断ち切ろう」ということです。
@生産年齢人口が減るペースを少しでも弱めよう
A生産年齢人口に該当する世代の個人所得の総額を維持し増やそう
B(生産年齢人口+高齢者による)
個人消費の総額を維持し増やそう

対策
1.高齢富裕層から若い世代への所得移転の促進
生前贈与の促進
相続税の基礎控除額を大幅に減らして、課税対象拡大部分に対応した最低税率は低く設定する一方、最高税率は上げる。

2.女性就労の促進と女性経営者の増加
女性の就労率45%は世界的にみてもずいぶんと低い水準です。専業主婦の四割くらいは「短時間でもよくて条件に合う仕事があれば、働いてもいい」っていう人がいる。
企画に参画する女性、女性経営者を増やすべきです。女性が企画した方が売れる商品が作れます。さらに女性が経営することで、長期的に女性の心で捉え続けることのできる企業が成立するはずなのです。

3.訪日外国人観光客・短期定住客の増加
外国人観光客を増やし、その滞在日数を増やし(できれば短期定住してもらい)、その消費単価を増やし、国内でできるだけ多くお金を使ってもらうということほど、副作用なく効率の良い内需拡大策は他には見当たらない。