団塊世代の経済学        ウイリアム・スターリング/スティーブン・ウェイト著

 アメリカの団塊の世代はベビーブーマーといわれ1946年から1964年の19年間に生まれた7600万人をいう。ベビーブーマー世代が収入・貯蓄でピークにさしかかっている現在、アメリカ経済は活気づいており、あと10年は好景気が続くと予想できアメリカの黄金期である。1946年生まれのベビーブーマーが65歳になり社会保障給付の受給資格を得る2011年から退職ラッシュがはじまり2030年代前半まで続く。この時期には金利が急騰し、国の負債は爆発的に増えるという。また、,株、債券、不動産などの資産を売却したい人が急増し、資産価値は急落する。この時期を氷河期と名づけた。

アメリカの黄金期

これから10年間にベビーブーマーの収入と貯蓄、おそらく知性においてもピーク期に入る。ベビーブーマーたちは、老後のために貯蓄しようと真剣に考える年齢に入っている。彼らは少しでも高い利益を求めて互いに競合し、その結果、金利は下がり、株価は上昇する。低いインフレ率、低金利そしてやや高騰ぎみの金融市場を容認・奨励する経済政策が続く。

生産性向上の引き金となるインターネットやコンピューター・ネットワーク技術の可能性こそ、次の10年間を楽観視する最大の根拠である。さらに、生命科学革命の黎明期に私たちは立ち会っているのだと確信している。

グローバル化の波が、アメリカ経済にきわめて有利だと考える。第一に経済圏の大半において、アメリカ企業は圧倒的な優位を占め、世界に認められている。第二にグローバル・スタンダードの独占、コントロールが武器になっている。会計基準やルールを掌握したからニューヨークが世界的な金融取引の中心になり、英語がビジネス界の共通語として定着している。第三に柔軟かつ開放的な経済システムに支えられて、アメリカ企業は市場のめまぐるしい変化にも迅速に対応してきた。

氷河期

ベビーブーマーが株、債券、家、土地、さらに収集価値のある物品まで競って売るようになり、利益を得ることも難しくなる公算が大きい。

最低限の生活を保障する政府のセーフティーネットをベビーブーマーが食いつぶし、財政赤字は爆発、債券・株式市場は崩壊、生活水準はぐっと落ち込む。

高齢化するベビーブーマーが自分たちの給付金の削減を防ごうと必死になるほど、ツケはその子供や孫の世代に回っていく。痛みを伴う財政上の調整がついに避けられなくなると世代間紛争が起こるだろう。

裕福なベビーブーマーへの給付金削減は、資産判定によって簡単に行える。老後に備えた貯蓄をして資産を持っていれば、給付金は減額というわけである。ベビーブーマー同士がどれだけ老後に蓄えをしているかによって敵味方に分かれる、世代内紛争の見込みにも直面する。

対処法

ベビーブーマーたちは自分の両親より多く貯蓄しておかなければならない。社会保障も医療保険制度も彼らの両親が受け取っていた額よりはるかに引き下げられる可能性が高い。社会保険制度は何らかの形で存続するだろうが、給付額の大幅カットはほぼ確実である。資産配分を最善だと思われる経験則からすると資産に占める債券の割合を自分の年齢とほぼ同じにして残りを株に充てる。40歳だとすると債券に40%、株に60%という配分になる。もし市場が根拠なき熱狂に振り回されていることに不安を感じるなら、より低い利益を覚悟して、その分、多めに貯蓄する。

社会保障を民営化する。社会保障税として給与から天引きされたお金を私的個人退職勘定に預け、非課税の市場収益を得るというものだ。人々が自分のお金をどの企業に投資するかについて自由に選択できるようになる。堅実なものから投機性の高いものまで、投資先の選択肢がいくつかあってその中から選べるようになる。加入者は定期的に報告を受けて、自分の口座の収支も知ることができる。制度全体は競争の激しい市場で民間企業によって運営されるようになり、加入者は、希望に応じて別の企業に口座を移す機会も定期的に与えられる。民営化した制度の魅力は高い利益が得られる点であろう。

国民医療費の危機を解決するための改革は医療貯蓄口座という制度が提案されている。個人が非課税の口座にお金を預けることを認めるものだ。口座に預けられたお金は、日常的な医療費の支払いに使われる。また、高額な医療費がかかる場合に備えて、あらゆる医療費をカバーする高額な保険に加入するかわりに、保険料の比較的安い重病保険に入ることができる。就労者は自分のお金を日常的な医療費に充てることになる。すると通常の市場誘引が働いて、医療費をできるだけ抑えたり、競争価格で質のよい医療を提供する医者や病院を探したりするようになる。この制度は、質を最大限に上げコストを最小に抑えようとする医者や病院間の真の競争を促す上でも、非常に大きな効果をもたらす。

ベビーブーマーたちが引退するころは就労者や納税者が不足してくる。したがって,労働意欲を削ぐような制度上のしくみを解消し、これまでの労働形態を変えて非常勤勤務や段階的退職、あるいは現役であり続けることを認め、奨励していく必要がある。


 アメリカのベビーブーマーは1944年〜1963年の約20年にわたる世代であるのに対し、日本の団塊の世代は1947年〜1952年のわずか5年間の世代である。加えて、アメリカの人口は2030年頃まで増加するのに対して、日本の人口は2005年をピークに減少する。つまり、団塊世代の高齢化や人口減少の影響は、日本の方がより早く、より広範に始まるのだ。