雲のなかの未来 進化するクラウド・サービス        武井一巳著

 クラウド・コンピューティングではデータが分散され、また仮想サーバ技術を用いて、文字どおり”雲”のなかにデータが置かれることになる。また、それらのデータを処理を行うアプリケーションもまた”雲”のなかのサーバになる。データもアプリケーションも、クラウドのなかに置かれることで、ユーザーは必要なときに必要なだけデータやプログラム、あるいはサーバそのものを利用することができるよいうになる。これがクラウド・コンピューティングという新しいコンピュータの利用方法だ。水道の蛇口をひねれば好きなだけ水が出てくるように、あるいはスイッチを入れれば電気が通じるように、クラウド・コンピューティングではクラウドにアクセスすることで、好きなときに好きなだけ「コンピュータ」を利用することができるのである。

 クラウド・コンピューティングの場合、サービスを利用する側も、あるいはサービスを提供する側も、そのサーバがどこにあるのか、さらにサーバの中身にどのような技術が用いられているかなどといった点は知らなくてもかまわない。効率よく、また安価にサービスが利用できれば、それでかまわない。そんなコンピュータの利用方法を可能にしたのが、仮想化と分散処理技術である。サーバのCPUやハードディスク、メモリといったリソースがフル稼働されているわけではない。この余っているリソースを利用して、仮想的なサーバを作成して運用するのが、サーバ仮想化技術だ。一台のサーバを、あたかも複数台のサーバのように機能させたり、あるいは複数台のサーバのリソース利用したりしてより大規模なサーバ群を作成して提供する、といったことが可能になった。このサーバ仮想化技術によって、サーバの稼働率がより向上し、それによって低料金でサーバを提供できるようになり、しかもサーバを稼働させるための電力やスペースのコストの節約にもつながっている。一方、データ分散処理技術というのは、ネットワークに接続された複数のコンピュータのストレージ(記憶装置)に置かれたファイルを、仮想的に統合して利用する技術である。データは細分化されて分散されることで、複数のサーバに複製とともに置かれており、どのサーバにデータが置かれているかというのは実質的には意味をなさなくなった。

 クラウド・コンピューティングは大別すれば、次の三つに集約することができる。
(1)IaaS(Tnfrastructure as a Service)
 これまではハードウェアリソースを提供することがメインであったが、現在では仮想化されたプラットフォームとしてのコンピュータ基盤を提供する。仮想サーバだけでなくストレージそのものや仮想ストレージを提供するサービス含まれる。
例 アマゾンEC2(Amazon Elastic Compute Cloud)アマゾンのサーバ資源を利用して作成した仮想サーバのレンタルサービス、アマゾンS3(Amazon Simple Strage Service)アマゾンのデータセンターのストレージを貸し出すサービス

(2)PasS(Platform as a Service)
  ソフトウェアを構築・稼働させるプラットフォームそのものを、インターネット経由のサービスとして提供するサービス。データベースやアプリケーション実行環境ツールといったミドルウェアが提供され、開発者はアプリケーションを開発できる。
例 グーグルのGAP(Google App Engine)、セールスフォース・ドットコムのフォース・ドットコム(Force.com) SaaS型CRM(Customer Relationship Management:顧客管理)の基盤となる部分をユーザに提供
 マイクロソフトのWindows Azure クラウドのサーバで動作するOS

(3)SaaS(Software as a Service)
 ソフトウェアをパッケージ製品としてライセンス販売するのではなく、インターネット上のコンピュータでアプリケションソフトを稼働させ、その機能をネットワーク経由でサービスとしてユーザに使用させる。
例 グーグル・アップス(Google Apps)Gメール・グーグルトーク(チャットアプリ)・グーグルカレンダー・グーグルドキュッメント(文書、スプレッドシート、プレゼン作成)・グーグルサイト(ホームページ編集ソフト)

マイクロソフト社は、ウィンドウズ・ライブをクラウド・サービス(SaaS)と位置付けている。ウィンドウズ・ライブを利用するには、無料で取得できるウィンドウズ・ライブID(Windows Live ID)が必要になる。サービスのなかにはライブIDが不要なものあるが、多くのサービスを利用したければライブIDを取得しておいたほうが便利だ。

マイクロソフト社のウィンドウズ・ライブ
Windows Live メール Webメールサービス。OutlookExpress、WindowsMailの後継で、オフラインでのメールの管理も行える。
Windows Live SkyDrive 1アカウントで25GBまでの容量が利用できるオンラインストレージ。どんな種類のファイルでも扱えるが、操作はブラウザのみで可能。
Windows Live Sync 特定フォルダを複数のパソコンで共有するといったファイルの同期・共有が可能なサービス。
Windows Live Writer ワープロソフト感覚でブログの記事の作成・投稿が可能なサービス。
Windows Live フォトギャラリー Web上に写真や動画を保存し、編集、公開などが可能なサービス。
Windows Live Translator オンライン翻訳サービス
Windows Live メッセンジャー チャットが行えるインスタント・メッセンジャー
Windows Live スペース Windows Live IDで利用できるブログサービス。
Windows Live Faborites オンライン・ブックマークサービス。
Windows Live Alerts メールやメッセンジャーを通じて、ニュースや天気予報、各種情報を通知するサービス。