地方消滅 東京一極集中が招く人口急減 増田寛也著
本書は、政策提言機関である「日本創成会議」のもとに「人口問題分科会」を設置し設置して、2014年5月、独自の将来推計人口を基に「消滅可能都市」として発表した検討結果を中心にまとめたものである。
日本は2008年をピークに人口減少に転じ、これから本格的に人口減少社会に突入する。2010年に1億2806万人であった総人口は、2050年には9708万人となり、2100年には4959万人となり現在の約40%まで急減すると推計されている。(国立社会保障・人口問題研究所の中位推計による[平成24年1月])
2000年以降、円高による製造業への打撃、公共事業の減少により地方の「経済」「雇用力」の低下が原因になって若年層を中心に地方から東京圏への人口流入が生じている。大都市圏においても、非正規社員が増加するなど、必ずしも魅力ある雇用が増えているわけではない。「円高」による製造業の海外移転、「公共事業減少」による建設業の激減、そして、高齢者を含めた「人口減少」による消費の低迷が進み、地方には職がないから「仕方なく」流出を余儀なくされているのだ。これは、地方の経済雇用基盤そのものが崩壊しつつあることを意味しており、地方が「消滅プロセス」に入りつつあることを示している。
地方から大都市圏への「人口移動」の特徴は、移動したのが「若年層」中心であったことである。将来子供を産む若年層を「人口再生産力」と考えるならば、地方は単に人口を減少させたにとどまらず、「人口再生産力」を大都市圏に大幅に流出させたことになる。その結果、地方は、加速度的に人口減少が進むことになった。
一方、大都市圏は「若年流入」で人口増となったが、流入した若年層にとって大都市圏は、結婚して子どもを産み育てる環境としては必ずしも望ましいものではなかった。地方から大都市圏に流入した出生率は低くとどまっている。これは、全国的な初婚年齢の上昇などに表れているように、結婚しづらい環境があるだけでなく、地方出身者にとっては、親が地方にいるために家族の支援が得にくく、またマンションやアパートに住む若者にとっては隣近所とのつきあいが希薄であることが理由と考えられる。
社人研(国立社会保障・人口問題研究所)の推計によると、2010年から40年までの間に「20〜39歳の女性人口」が5割以下に減少する市区町村数は、896の自治体、全体の49.8%にものぼる結果となった。自治体の約5割は、このままいくと将来急激な人口減少に遭遇するのである。これら896の自治体を「消滅可能性都市」とした。さらに、896の「消滅可能性都市」のうち、2040年時点で人口が1万人を切る市町村は523自治体、全体の29.1%にのぼる。これら523自治体は、「このままでは消滅可能性が高い」といわざるをえない。人口の「自然減」だけならば通常緩やかなスピードで進行していくところが、若年層の人口流出による「社会減」が加わることで、人口減少が加速度的に進行していくためである。このような姿は、まるで、東京圏をはじめとする大都市圏に日本全体の人口が吸い寄せられ、地方が消滅していくかのようである。その結果現れるのは、大都市圏という限られた地域に人々が凝縮し、高密度の中で生活している社会である。これを「極点社会」と名づけた。大都市圏のみが存在する「極点社会」の延長線上には、日本全体の人口減少がさらに加速していく事態が想定される。
「極点社会」は、経済変動への耐久力の面でも課題が多い。「極点社会」における大都市には、集積効果を追求する経済構造が作りだされる可能性が高いが、これは逆に大きな経済変動に弱い「単一的構造」ということができる。大震災などの大規模災害リスクに対する対応という点でも問題がある。「極点社会」が抱える最大の課題の一つとして、首都圏直下型地震をはじめ、一部地域での大災害が日本全体を麻痺させかねない。こうした観点から、我が国は「極点社会」の到来を回避し、地方が自立した多様性ののもとで持続可能性を有する社会の実現を目指すことが重要となる。
人口現象問題の解決には、長期的かつ総合的な対応が不可欠である。このため、20年間程度を視野に入れた「長期ビジョン」を策定し、それに基づき、子育て支援だけでなく、産業・雇用、国土形成、住宅、地方制度などへの総合的な取り組みを内容とする「総合戦略」を推進していくことが求められる。
第一次総合戦略(2015〜24年)
基本目標は、第1には、国民の希望する出生率である希望出生率=1.8を実現することであり、第2は、「東京一極集中」に歯止めをかけることである。
第二次総合戦略(2025〜34年)
2035年に出生率=2.1を実現し、将来的な人口の安定を図ることを基本目標とする。