ブッシュの戦争        ボブ・ウッドワード著 伏見威蕃いわん

 本書は、2001年9月11日の同時テロ以降の、イラク攻撃も視野に入れたブッシュ戦時内閣のテロリズムとの戦いにおける意思決定や戦略の歩み、さらにはCIA潜入工作チームおよびアメリカ特殊部隊チ−ムのアフガニスタン現地での活動を克明に描いている。

ブッシュ大統領の発言
 彼らはアメリカに戦線布告したのだ。そして、その瞬間、われわれは戦争を行うことになるだろうと、心に決めた。

 現状の一歩先を見据えようとするか、リスクを評価するか、あるいは意見の一致をはかるかは、勘に頼るしかないと思う。わたしは教科書どおりにやる人間ではない。直感で動く人間なんだ。

 わたしは金正日が大嫌いだ! 心の底から嫌悪を覚える。こいつは自国民を飢えさせている。政治犯収容所の情報もつかんでいる。巨大な施設だ。やつは家族を引き裂き、おおぜいを拷問するために、収容所を使っている。わたしは愕然とした。

ブッシュ大統領の2001年9月20日の両院議会での演説より
 わたくしたちの深い悲しみは怒りに変わり、怒りは決意に変わりました。敵を裁きの場にひきずりだすにせよ、それ以外の方法で報いを受けさせるにせよ、正義は行われるでありましょう。
 われわれは、自由になる資源のすべてを傾けます。あらゆる外交手段、あらゆる法執行手段、さらにあらゆる武器を用いて、地球全体を覆うテロ・ネットワークを阻止し、打倒します。

 われわれの対応は、たんなる即座の報復や散発的な攻撃ではありません。国民のみなさんに、これがひとつの戦闘でなく、長期の軍事作戦であり、これまでわれわれが経験したどんな戦いとも異なったものであるという覚悟を持っていただきたい。テレビで見られる派手な攻撃もあれば、たとえ成功しても伏せられる秘密工作もあります。

 わが国が負ったこの傷とそれを負わせたもののことを、わたしは忘れません。わたしは一歩も譲りません。休むこともありません。アメリカ国民の自由と安全保障のためにこの戦いをたゆまず遂行するつもりです。

2002年10月11日、12日の両院議会
 イラクを一国で攻撃する完全な権限を大統領に与えることを、圧倒的多数によって可決した。下院の結果は296票対133票、上院は77票対23票だった。議会は、イラクの脅威から国を守るために”必要であり、適切であると、大統領が判断した場合”には、軍を使用することを、全面的に承認した。

湾岸戦争時の国防長官、強硬派・単独行動派
国連の新たな決議を求めることは、国連の手続きという、見込みもなく、いつ果てるともなく、煮え切らない厄介な事態にふたたびはまるだけだ。フセインは悪党であり、これまで、国連の決議を故意に無視し、違反し、踏みつけにしたのだから、アメリカは一国で行動する権利がある。
チェイニー副大統領

湾岸戦争時の統合参謀本部議長、国際協調派、戦いたがらない勇士という役割を演じている。
国連はわれわれにいわれるままに、フセインは悪であると宣言したり、アメリカの軍事攻撃を承認したりはしない。大統領はすでに国連に機会を与えると決定している。その唯一の方法は決議を求めることだ。孤立した場合、世界中のアメリカ大使館を閉鎖しなければならないかもしれない。
イラクに対する行動を起こすためには連合を形成することを考える必要がある。イギリスはわれわれの身方だが、多国の連合の隠れ蓑がないと、支援は脆弱になる。
パウエル国務長官

湾岸戦争時の国防次官、強硬派・単独行動派
ラムズフェルド国務長官

ホワイトハウスで毎朝八時に行われる情報説明会(ブリーフィング)でCIAに流れ込んでくる最新・最重要の機密情報を大統領にじかに伝える。
テネットCIA長官

国家安全保障問題担当
強硬派・単独行動派のチェイニー副大統領やラムズフェルド国防長官と、国際協調派のパウエル国務長官との間の調整役
ライス大統領補佐官

アフガニスタンでのCIAの潜入工作チームとアメリカ特殊部隊チーム
 チームがばらまいている数百万ドルの秘密資金は、魔法のような効き目があった。タリバン兵数千人を買収した計算になる。北部同盟もタリバンからの離脱を誘いかけていたが、CIAがそこえ現金を提供した。下級部隊の指揮官と配下数十名には一万ドル、より上位の指揮官と配下数百名には五万ドルといった具合。あるとき、五万ドルで離脱するようにという提案が、ひとりの指揮官に対してなされた。しばらく考えさせてほしいと、その指揮官は答えた。そこで、特殊部隊Aチームは、指揮所のすぐ外にGPSで精密誘導を行うJ−DAM滑空爆弾を打ち込んだ。翌日、指揮官を呼び戻した。四万ドルではどうか?指揮官は承諾した。

イラク対策でのCIA
 フセイン追放を目的とするCIAの秘密工作に割り当てた予算は一億ドルないし二億ドルで、CIAがアフガニスタンで費やした七千万ドルをはるかに上回る。イラクの反政府勢力支援を強化し、イラク国内の情報収集を増強し、アフガニスタンで使用したのと同じCIA潜入工作チームおよびアメリカ軍特殊部隊の展開を視野に入れた準備を始めた。

少数の戦争反対派
アル・ゴア前副大統領、エドワード・ケネディ上院議員

 フセインに関する懸念はたしかに存在するが、フセインはアメリカその他の国を直接攻撃したわけではない。フセインを差し迫った脅威とする証拠は確信を抱かせるものではない。また、先制攻撃という現実の試練を経ていない新政策は、中東の他の国々を不安定にし、フセインその他によるテロリズムを誘発するばかりでなはなく、イスラエルを攻撃に対して無防備な状態に置くことになり、さらに、ふつう、自分のほうから攻撃しないというアメリカの伝統を覆すものである。